直木賞作家北村薫の原作ファンタジー小説(タイムループもの)を、村上修が脚本化し、「愛を乞うひと」の平山秀幸が監督したファンタジー映画。
交通事故により誰もいない異世界(パラレルワールド)に飛ばされた女性が現実社会に戻ろうとする姿を、主演牧瀬里穂が熱演して、毎日映画コンクール女優優秀賞を受賞した。
共演は、二代目中村勘太郎(六代目中村勘九郎)、倍賞美津子、北村一輝。
あらすじ
銅版画家の森真希は、29歳だが母と二人暮らしである。ようやく1枚の作品を画廊に展示してもらった。
主催する版画教室へ車で急いでいるときに彼女は、トラックと正面衝突した。ところが、目覚めると前日の午後に戻っていて、自宅の椅子で横になっていた。彼女は、前日の同じ時刻に戻ったのだ。
外に出ると、誰一人おらず、店にも商品が並んでいるだけだ。そして翌日になり、事故に遭った時刻になると再び前日に戻る(ターンする)。無意味な日々を続けていて、虚しさに泣き出してしまう。
突然、彼女の家の電話が鳴る。
泉洋平は、画廊で真希の作品を見つけて購入する。そして本の装丁に使用許可をもらうために電話を真希に掛けたのだ。それが、何故か異世界に繋がった。こうして真希は、現実世界と通信ができるようになった。
洋平は、電話を切らないでくれと頼む真希に戸惑った。ひとまず、毎晩8時に電話に出る事を約束する。洋平は、思い切って真希の家を訪ねる。真希は交通事故の結果、入院し昏睡状態にあった。母親が洋平の電話を聴くが、真希の声は聞こえない。
ある日、真希は柿崎と出会う。初めは、自分以外にもこの世界に住人がいて真希は喜ぶ。
しかし、洋平の調査により、柿崎は現実社会では殺人を犯し、交通事故によって意識不明になっていた。洋平は真希に、柿崎に近づかないよう言おうとするが、酔っ払って訪ねてきた上司に電話を切られ、異世界の真希とは話ができなくなる・・・。
雑感
真希の最後のセリフが、感動的だ。あの一言で、現実と異世界を繋いでしまった。牧瀬里穂の演技も素晴らしかった。
牧瀬里穂は、3Mと言われた1990年頃の三大アイドル(他は宮沢りえ、観月ありさ)の中でも、当時最も愛したアイドルだった。2001年頃は、彼女らも20代後半に入って、CMでは新人田中麗奈の勢いに推され気味だったが、映画やドラマで活躍した。
「ターン」は、その牧瀬が「東京上空いらっしゃいませ」「つぐみ」で毎日新聞映画コンクールの新人賞を受賞してから12年掛かって女優主演賞を受賞した作品である。これを追うように宮沢りえも香港映画「華の愛〜遊園驚夢」でモスクワ国際映画祭主演女優賞を受賞して、2003年「たそがれ清兵衛」で日本アカデミー主演女優賞を受賞した。
牧瀬は、最初の「東京上空いらっしゃいませ」の演技が酷い大根だったので、映画はあまり見なかった。ところが、「ターン」の演技には感嘆した。レストランでの中村勘太郎との食事シーン以外は、一人芝居なのだが、とても自然なのだ。それもそのはずである。ファンタジー映画の特撮シーンは、「東京上空いらっしゃいませ」で相米慎二監督に何度も泣かされていたから。恐らく宮沢りえより自然に演じられただろう。
原作者の北村薫は、「覆面作家」シリーズで彼女を推薦されたが、残念ながらドラマになったときは、ともさかりえが主演した。その後、この企画が出て牧瀬里穂を主演にしたいという話が出た時、北村薫は不思議な縁を感じたそうだ。
スタッフ
監督 平山秀幸
脚本 村上修
原作 北村薫
音楽 ミッキー吉野
撮影 藤澤順一
キャスト
森真希 – 牧瀬里穂
泉洋平 – 中村勘太郎 (六代中村勘九郎)
森里子(真希の母) – 倍賞美津子
柿崎清隆(犯罪者) – 北村一輝
松原(洋平の上司) – 柄本明
正宗ゆかり – 川原亜矢子
高峰の奥さん - 松金よね子
画廊主人 - 小日向文世
美術館店女店員 - 小林麻子
***
柿崎は真希の自宅を探り出し、真希をレイプしようと襲いかかるが、突然苦しみ出し姿を消す。現実世界で柿崎が亡くなったのである。この世界にも終わりがあることを知り、真希は絶望する。
しかし、母の励ましの声が聞こえた気がして、一枚の銅板作品をターンする前に仕上げる。出来上がった作品を持って真希は、自分の入院する病院を訪れる。すると、車椅子に真希を乗せた母と洋平が屋上へ向かうのを見つける。
屋上では、雪が降ってきた。母がふと見ると、真希が目を覚まして雪を見ている。真希の膝には、異世界で作った作品が乗っている。そして真希は二人に「ただいま」と言った。