日本の2005年三冠馬ディープインパクトが亡くなった。日本ではなかなかサラブレッドの物語が描かれないので、サラブレッド史上最強馬と言われた1973年のアメリカ三冠馬セクレタリアトの伝記映画を紹介する。過去に「シービスケット」という名馬の伝記映画が2003年に作られてアメリカで大成功したが、日本を含む諸外国では反応が薄かった。そのため、「セクレタリアト」は日本未公開でDVDのみ発売され、後にWOWOWで放送された。
主演はダイアン・レイン、ジョン・マルコヴィッチ。共演はマーゴ・マーティンデイル、ジェームズ・クロムウェルら。監督はランダル・ウォレス、美しい馬の撮影はディーン・セムラ。
ディズニー映画だから、賭け事の側面はかなり抑えられていて、動物とスポーツ、そして主婦馬主の面を強調している。
あらすじ
サラブレット牧場のオーナーだったクリス氏が認知症を患い、主婦である娘のペニー(ダイアン・レイン)が過程との二重生活をしながら牧場を切り盛りしていた。彼女は二頭の繁殖牝馬をフィリップス氏(ジェームズ・クロムウェル)と共有しており、ともに種牡馬ボールドルーラーを種付けしている。そのうち一頭をフィリップス氏が所有して、もう一頭をペニーが所有する。どちらを選ぶかはコイントスで決める。ボールドルーラー産駒の実績は短距離に集中しているから、短距離向きの若い牝馬を選ぶと考えた。しかし種牡馬は年を重ねる毎に産駒の特徴が変わってくることに賭けて、ペニーは長距離向きの年寄りの牝馬を選ぶことにした。そしてコイントスには敗れたが、思い通りの結果となった。調教師にはベテランの負けず嫌いローリン(ジョン・マルコヴィッチ)を指名した。
生まれてきた馬はビッグレッド(登録名は秘書ハムに因んでセクレタリアト)と名付けられ、500キロ台の雄大な馬格を誇るようになった。ところが2才戦のデビュー戦で人気を裏切り着外に沈む。怒ったペニーとローリンは騎手を変更し、若手ながら負けん気だけは強いターコットに依頼する。それ以来、連戦連勝でフューチュリティーS、ホープフルSとG1級レースを連勝して二歳馬ながら年度代表馬に輝く。
年明けに父クリスが亡くなる。途端に莫大な相続税を払う事態となり、セクレタリアトを手放すか否かという問題が発生した。ペニーは手元に置いたまま走らせることを選択、その代わり若き牧場主セス・ハンコックをブレインに起用して、種牡馬入りした後の種付け料を1株19万ドルで32株に分けて発売する。なかなか買い手が付かなかったが、フィリップス氏に泣きついて何株か引き受けてもらい、それからは順調に販売し完売した。
ケンタッキーダービーを前にボルドルーラー産駒である事からセクレタリアトに距離不安が囁かれていた。不安は的中して、初の1800mを走るウッドメモリアルSでシャム号に惨敗する。おかげでケンタッキーダービーのオッズは大きく下がってしまう。しかし口内炎が完治して食欲が戻ったことを知るペニーは自信を持ってケンタッキーダービー(2000m)に送り出す。レース開始時はセクレタリアトは後方にいたが、向正面から順位を上げて、直線ではシャムとの一騎打ちを制する。
続く二冠目プリークネスS(1800m)も向正面で先頭に立って、シャムの脚を封ずる完勝である。
いよいよ2⑤年ぶりの三冠が掛かるベルモントSとなる。今回は2400mの長丁場でセクレタリアトの陣営も神経質になっていた。レース前はいつになく入れ込み、波乱含みでレースは始まった。何とセクレタリアトが逃げた。それも前半を1分9秒という超ハイペースだったから、誰もが後半ばてると信じた。ところが後半もセクレタリアトはバテることなく、後続を31馬身突き放して、レースレコードを樹立し優勝、見事に25年ぶりの三冠馬に輝く。ペニーは女性馬主の地位の低い時代に栄光を掴む。
雑感
セクレタリアトは、走るのが好きな馬だった。だから抑えないと先頭に行く気性だったため、それまでのレースは後方から行かせたのだが、最後のベルモントSはセクレタリアトの自由に走らせて、成功した。
三冠馬になった後も、古馬相手に戦い生涯16勝5敗の成績(G1級レースは8勝)を挙げ、シンジケート契約で3才10月に引退して種牡馬生活に入った。シンジケートの株主は値上がりした株で大もうけした。32株の内、4株はペニーが保有して、残り28株を他の馬主に譲渡したのだが、実はその中に日本のトップブリーダーである社台ファーム総帥吉田善哉氏もいた。これが後に米国の二冠馬サンデーサイレンス号(生産者はセスの弟)の吉田氏による日本への輸入に繋がり、サンデーサイレンスの息子がディープインパクトとなる。
欧州のサラブレットと戦わなかったので比較は難しいが、アメリカの名馬に珍しく芝G1もレコード勝ちしているので、ぜひやらせてみたかった。少なくとも1970年の英国三冠馬ニジンスキーとは互角の勝負をしたと思う。1971年英国ダービーと凱旋門賞を勝ったミルリーフにはちょっと敵わないかな。
「シービスケット」のときも凄かったが、この映画の素晴らしい点は、レースシーンの再現性がハンパないのだ。37年前のレースを再現すると云っても、人間が演じるだけではなく、馬も演技している(させられている)ので、人と馬との関係が濃いアメリカならでは技術だ。
日本では1988年に「優駿-ORACION-」という、主演斉藤由貴、緒形直人、宮本輝原作、杉田成道監督、フジテレビ製作映画がかなり当たって、同時期に名馬オグリキャップが現れたことにより競馬ブームを巻き起こしたが、内容は古くからの競馬ファンから見ると、疑問の残るものだった。故障馬も多く出たため、評価は低い。
ちなみにそれ以前の競馬ブームは、セクレタリアトが三冠を獲得した1973年にハイセイコー(皐月賞、宝塚記念優勝)が地方競馬から中央競馬に移籍してアイドルホースになった頃だった。そっちにみんな夢中で、アメリカの三冠馬の事なんて見ていなかった。
スタッフ・キャスト
監督 ランダル・ウォレス
脚本 シェルドン・ターナー、マイク・リッチ
原作 ウィリアム・ナック
製作 ゴードン・グレイ、マーク・シアディ
音楽 ニック・グレニー=スミス
撮影 ディーン・セムラ
配役
ペニー・チェネリー – ダイアン・レイン
調教師ルシアン・ローリン - ジョン・マルコヴィッチ
秘書エリザベス・ハム – マーゴ・マーティンデイル
父クリス・チェネリー – スコット・グレン
夫ジャック・トゥイーディ – ディラン・ウォルシュ
投資家オグデン・フィップス – ジェームズ・クロムウェル
騎手ロン・ターコット – オットー・ソーワース
調教師ブル・ハンコック – フレッド・ダルトン・トンプソン
その息子セス・ハンコック – ドリュー・ロイ