グリム童話「灰かぶり姫(シンデレラ)」のシンデレラ姫を、冴えない男性(ジェリー・ルイス)に置き換えた「逆タマ」映画。
製作はジェリー・ルイス自身であり、監督はジェリー・ルイス映画の常連であるフランク・タシュリン。
主な共演には、アンナ・マリア・アルバゲッティ、ジュディス・アンダーソン、エド・ウィンら、ブロードウェイをメインに活躍していた俳優を起用している。
発色の良いカラー映画であるが、残念ながらコント出身でマイペースを崩せないジェリー・ルイスとブロードウェイ俳優では組合せにやや難があったようだ。
なおジェリー・ルイスの友人カウント・ベイシーが登場して楽団とともに何曲か披露する。
国内では1961年春公開。
あらすじ
フェラ(ジェリー・ルイス)は大金持ちの遺児だが、ヨーロッパの元貴族だった継母(ジュディス・アンダーソン)とその連れ子兄弟と一緒に屋敷で暮らしている。遺産が残されているはずだがどこに隠されているか誰も知らない。継母たちはフェラを下男のようにこき使っていた。
ある日、フェラの元に魔法使い(妖精)のおっさん(エド・ウィン)が現れ、フェラが幸福になれると予言するが、継母の友人がからかっているぐらいにしかフェラは考えなかった。
やがてヨーロッパの某国からチャーミン王女(アンナ・マリア・アルバゲッティ)がフェラの屋敷を訪れる。彼女の訪米目的は婿探しで、明日の舞踏会に継母とその息子を招待に来たのである。継母は子供のうち兄ルパートを婿に出そうと謀っていた。自室に閉じ込められたフェラの元を再び妖精は抜け出させてその美しい王女と会わせてくれる。
そして翌日、フェラは舞踏会に行くつもり満々だったが、継母は暖炉の番を命ずる。灰を被りながらフェラが孤独感に苛まれていると、妖精がまたやって来て、赤いスーツを着せてくれて魔法で運転手と車を用意し、舞踏会へ行かせてくれる。
舞踏会ではルパートとチャーミン王女がいい雰囲気で踊っていたが、颯爽と現れたフェラに王女は心を奪われてしまう。
しかし12時の鐘が鳴り終わると、冴えない自分の姿に戻ってしまう。慌てて階段を上がって家に戻る途中、フェラは靴を忘れてしまう。家では連れ子の弟マキシミリアン(ヘンリー・シルバ)が待っていて、フェラがあんな派手な格好をしている以上、遺産をどこかに隠しているだろうと、殴りかかる。実はフェラは遺産の隠し場所を知っていた。
翌日、継母たちは下僕扱いしたフェラが大金持ちであることを知り、屋敷を出ようとする。しかしフェラはこんなお金はいらないし、ここに居てと継母に頼む。彼は継母に母親を見ていたのだ。
そして靴を持ってフェラを追って来た王女とともにいつまでも幸せに暮らしたそうだ。
雑感
シンデレラ・シンドロームは世の奥様族に今よりもっとマシな亭主と結ばれたかも知れないという幻想(=倦怠期)を抱かせる。
ジェリー・ルイス演ずるフェラは、シンデレラ・シンドロームにより相手にされなくなったり虐げられたりした夫たちの恨みを晴らすために妖精に選ばれて、お姫様と結ばれる。
映画では「シンデレラ・レジェンド」と呼ばれていたが、1960年にこういった発想がアメリカ人にあったのだ。
おそらく編集で途中を切り詰めたと思われるが、もう少し丁寧にヒロインの唄や美しさを楽しまさせる作りの方が良かった。多少、嫉妬があったのではないか。
野郎とは英語フェラの日本語訳だ。原題も「シンデレラ野郎」と訳すのがぴったりだ。
アンナ・マリア・アルバゲッティ(音楽の世界ではアナ・マリア・アルバゲッティと書かれる)は、イタリア出身のミュージカル女優でソプラノ歌手。本場でのオペラ歌手を目指さず、13歳でアメリカに渡って来て、映画、テレビ、舞台で活躍する。映画で主演作があるが、作品に恵まれたと言えなかった。この映画でもジェリー・ルイスは彼女の美しい歌声を聞かせてくれない。わずかにウィスパー・ソングを口ずさむだけだ。この後、舞台に傾倒して、映画「リリー」(1953)のミュージカル版である「カーニバル」のリリー役で1962年のトニー賞を獲得する。
彼女は小柄な藤原紀香を思わせるかわい子ちゃんであり、天は二物を与えたもうた好例だった。
スタッフ・キャスト
監督・原作・脚本 フランク・タシュリン
製作 ジェリー・ルイス
撮影 ハスケル・ボッグス
音楽 ウォルター・シャーフ
出演:
フェラ ジェリー・ルイス
妖精ゴッドファーザー エド・ウィン (アンネの日記)
継母 ジュディス・アンダーソン (レベッカ、熱いトタン屋根の猫、シェークスピアの舞台劇)
お姫様 アンナ・マリア・アルバゲッティ
ルパート ロバート・ハットン
マキシミリアン ヘンリー・シルバ (オーシャンと十一人の仲間、革命児サパタ、復活の日)
カウント・ベイシー 本人