1936年のイギリスのサスペンス映画。監督アルフレッド・ヒッチコックが、ジョゼフ・コンラッドの原作「密偵」を映画化した日本劇場未公開作品。
アメリカ合衆国では「The Woman Alone」のタイトルで上映されて、1996年に「シークレット・エージェント」としてリメイクされている。
主演はシルヴィア・シドニーオスカー・ホモルカ。共演はジョン・ローダー

あらすじ

ロンドンの映画館主ヴァーロックは一見して善良そうだが、裏ではテロ行為を行い、先日も発電所を止めて停電を起こしていた。すぐ電力会社が復元したのでテロ集団の上司に叱咤されたヴァーロックは祭りの日に、爆弾テロを実行するように命令される。爆弾はペット屋を営む「教授」が用意してくれた。
警察の目をごまかすために、妻の弟スティーヴィーに爆弾を目的地に運ばせる。しかしスティーヴィーは時間通りに時限爆弾を届けられず、爆発に巻きまれて死んでしまう。
弟の死にショックを受けた妻は開き直る夫を刺し殺して、スペンサーに自首する。スペンサーは、ヴァーロック夫人に対して好意を持っていたので、ヨーロッパに逃げることを勧めるが、彼女は首を横に振るだけだ。
爆弾を作った教授が証拠の鳥籠を取り返すためにヴァーロックのもとにやってくるが、すでに彼にも尾行が付いていた。ヴァーロックの部屋に行くと死体に気付き、警察に囲まれてしまった教授は自爆して死ぬ。
これによりヴァーロックも共に爆死したと一旦見なされ、ヴァーロック夫人は解放される。スペンサーは夫人を何処かに連れ去った。

雑感

音の悪い映像しか見たことはないが、欧米では割合評価の高い作品だ。おそらくここでのテロリストはソ連や共産主義者のスパイであり、共産主義運動の一環としてストライキよりもっと過激なテロ行為を彼らは行なっていた。そう言う当時の現実を背景にこの映画は制作されている。

主人公シルヴィア・シドニーはアメリカでの人気女優でその後も長く活躍した。
夫役にはピーター・ローレを予定していたが、前作「間諜最後の日」でヒッチコックとトラブルがあったらしく、新たにオーストリア系ユダヤ人のオスカー・ホモルカを起用した。当時は悪人役にユダヤ人を当てていた。
密偵スペンサーは原作の主役なのでロバート・ドーナットを起用するつもりだったが、病気のためジョン・ローダーになった。後年ヒッチコックはジョン・ローダーのせいでセリフを書き換えさせられたうえに、演技の重みが全くなかったと述べた。主人公の弟役も意に沿わなかったそうだ。

1936年は欧州にとって激動の年だった。ナチス・ドイツでは「民族の祭典」ベルリン・オリンピックが行われ、隣国フランスでは社会党と共産党が歴史的和解をして歴史上初の選挙による反ファシストを標榜する社会主義内閣(人民戦線内閣)が成立してしていた。またスペインでは人民戦線とフランコ将軍が内戦に入っていた。

ところが英国は即位したばかりの国王エドワード八世が政界長老でもあるボールドウィン首相に嫌われ、離婚歴のある米国夫人シンプソン夫人と結婚するに至って国王に譲位を強制し、年末にジョージ六世が即位していた。
当時まだ英国民はフランスと同盟を組んで、オリンピックで盛り上がっていたナチス・ドイツと戦争をする気はほとんど無かった。しかし英軍はドイツの軍拡状況を知っているから、国内防空網を着々と構築し始めていた。
この映画はナチス・ドイツでなく、ソ連を敵と考えているから「サボタージュ」と言う共産主義運動を意味する言葉を題名にしている。
一方前作「間諜最後の日」では第一次世界大戦でイギリスがドイツの諜報網を破壊したことを描いていた。
この頃のヒッチコック自身は映画制作のたびにドイツが敵になったり、ソ連が敵になったりして、日和見のところが見られた。もちろん、彼が制作してたわけではないから仕方がない。英国民自体がソ連が敵かドイツが敵か迷っていたんだ。

スタッフ

監督 アルフレッド・ヒチコック
脚本 チャールズ・ベネット
台詞 イアン・ヘイ、ヘレン・シンプソン
撮影用台本 アルマ・レヴィル(後のヒッチコックの奥さん)
原作 ジョセフ・コンラッド「密偵」
製作 マイケル・バルコン
音楽 ルイス・レヴィ
撮影 バーナード・ノールズ

キャスト

ヴァーロック夫人: シルヴィア・シドニー – アメリカ人の若妻。
カール・ヴァーロック: オスカー・ホモルカ – 映画館主。
テッド・スペンサー: ジョン・ローダー – 八百屋の店員。
スティーヴィー: デズモンド・テスター – ヴァーロック夫人の弟。
ルネ: ジョイス・バーバー – 映画館のチケット売り。
教授(爆弾魔):ウィリアム・デューハースト

 
サボタージュ Sabotage 1936 ゴーモン・ブリティッシュ製作・配給 国内未公開

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