江利チエミサザエさんシリーズ、記念すべき第一作

1956年の年末に上映された、家族全員で楽しめる喜劇映画。
主演はサザエさん役に江利チエミ、父親(波平)に藤原釜足、母親(フネ)に清川虹子を配する。とくに歌手の江利チエミが演じていることから、サザエさんはジャズやラテンを歌うことが得意という設定が加わってミュージカルの要素を加味している。

内容は朝日新聞連載の「サザエさん」のエピソードをよりぬいて、当時磯野家に下宿していたノリスケの結婚マスオさんとの出会いをめぐる物語に仕立てている。
漫画ではマスオとサザエの方が先に結婚するから、このシリーズを通して、原作の設定は大きく変更されている。

後に東宝でシリーズ化されたが、最初を飾る本作は、ゲストが今になって見れば豪華絢爛である。例えばワカメ役が子役時代の松島トモ子、ノリスケが俳優座の若きスター仲代達矢、その恋人が今は小林旭の奥さんになった日本美人青山京子、サザエさんの雑誌社時代の同僚が若山セツ子、おしるこ屋の店員が白川由美という風である。

 

モノクロ・スタンダード映画。DVD化は2017年現在されていない。

 

Synopsis:

サザエは磯野家の長女で高校卒業後、家事手伝いをしている。お転婆でとんだおっちょこちょい、弟のカツオといつも喧嘩するなど、まだまだ女学生気分が抜けない。今度、新聞記者をしている従兄弟ノリスケ(仲代達矢)が下宿することになり、自分の部屋を明け渡しカツオ、ワカメ松島トモ子)と同室になる羽目になる。

そんなサザエの元に雑誌社の採用通知が来る。友人のキミ子(若山セツ子)が雑誌社に勤めていて、秘かに書類を提出していたのだ。
サザエは初出社するが、部屋を間違えて商社で働くフグ田マスオ小泉博)に雑誌社の場所を案内される。これが二人の初対面で、第一印象はとても良かった。
早速、編集長から作家神田大六のもとへ原稿を取りに行くよう命じられる。百貨店に手土産を探しに行くと、変な小父さん(花菱アチャコ)が話しかけてくる。気味が悪くなったサザエは、突き放して逃げ出してしまう。ところがその変な小父さんが神田大六その人だった。お宅で大六と再び顔を合わせて、恥ずかしくて逃げ出してしまう。もちろん編集長からはクビを宣告される。

途方に暮れて帰りのバスを待っていると、マスオが通りかかる。サザエが首になった事情を話すと、マスオは叔父(森川信)が探偵事務所をやっているので雇ってもらうように声を掛けてみると言ってくれる。幸い探偵事務所で事務として雇ってもらうことになったが、サザエは探偵をやりたくてうずうずしている。そこへあるご婦人がノリスケの素行調査を依頼に来る。山中老人(柳家金語楼)がノリスケに見合い話を持ってきていたのだが、ご婦人はその相手の母親だった。従兄弟と言うことでサザエが老婆に変装して尾行を担当することになる。

夜の公園でノリスケは、サザエの友人ミチコ(青山京子)と密会していた。2人はずっと愛し合って将来を誓い合う仲だった。変装していたサザエは2人に正体を明かし、見合い話をぶち壊してあげると胸を叩く。母親への報告書には、ノリスケが如何に女たらしかを書いて提出した。

そして無事、ノリスケ、ミチコの華燭の典が行われた。ノリスケはミチコと近所の新居へ越すが、結婚休暇中、ワカメが居座って新婚夫婦は楽しくない。その上、サザエまでやって来る始末。サザエは新婚家庭に興味津々だが、逆箒を置いているのに気付き、怒ってワカメを連れて帰る。

サザエはマスオのことが気になっていたが、なかなか言い出せない。ミチコはそんなサザエの気持ちに気付き、クリスマスパーティーを開きマスオを招待してみてはどうかと提案する。近所の子供たちを呼んで、余興大会が始まるがいつまで待ってもマスオは来ない。サザエはがっかりして一人で二階に籠もるが、夜の9時半になって「サンタクロースが来たよ」とカツオが呼びに来る。何事と思って下に降りると、折からの雪で真っ白になったマスオがクリスマスプレゼントを持って玄関に立っていた。最後は御用聞き(ダークダックス)のコーラスをバックにサザエが「ジングルベル」を歌いながら、全員で輪になって踊って幕。

 

Impression:

実に楽しい映画だった。四コマ漫画とは設定が大幅に違うが、映画は映画として楽しめた。

1955年に東宝で「ジャンケン娘」が上映されて、美空ひばり、江利チエミ、雪村いずみは三人娘と呼ばれるようになった。3年にわたり年一本ずつ三人娘映画が上映された。
その中でも器用さで目立っていた江利チエミが、ここでも演技の才を発揮している。周りに浅草喜劇人や新劇人、東宝のスターを引き連れて、堂々と主役を張るのは大した物だ。実はこれ以前に16本もの映画に出演していた。

これで味を占めた東宝は、シリーズ化を決めた。

青山京子がサザエの親友役で活躍するのも楽しみだ。若山セツ子は少ししか出番がない、ちょっと残念。

ところで逆箒なんて習慣は今どき、とんと見なくなってしまった。

ちなみに1961年で映画シリーズは終了するが、1966年から67年まで江利チエミ主演でテレビドラマ化されて、同時に舞台にもなる。
その後、1969年から倍賞千恵子のSKDでの同期である女優・声優加藤みどりが声の主演を演じるテレビアニメが始まる。アニメ最初の頃はサザエさん=江利チエミのイメージが強かったため、加藤みどりは声を江利チエミに合わせていたと思われる。その後、年齢に応じて大人しい声に変えていった。
しかしアニメ脚本としては、映画のような歌う部分をもっと増やして欲しかった。加藤みどりはSKDなのだから歌えたのだ。(「夕やけ番長」、初代「おそ松くん」の主題歌やゲゲゲの鬼太郎初代ED「カランコロンの歌」)

 

Staff/Cast:

監督:青柳信雄
製作:杉原貞雄
原作:長谷川町子
脚本:笠原良三
音楽:原六朗
撮影:遠藤精一
美術:北猛夫、植田寛

 

 

主演
江利チエミ 磯野サザエ
小泉博 フグ田君
藤原釜足 サザエの父親
清川虹子 サザエの母親
小畑やすし 磯野カツオ
松島トモ子 磯野ワカメ
仲代達矢 ノリ助
青山京子 ミチコ
丘寵児 編集長
若山セツ子 貝原キミ子
花菱アチャコ 神田大六
柳家金語楼 山中老人
森川信 大木探偵所長
一の宮あつ子 中野夫人
白川由美 およしチャン
塩沢登代路 女将
沢村いき雄 おでん屋のオッさん
平凡太郎 流しの男B
ダーク・ダックス 三河屋のサブちゃん、洗濯屋、炭屋、魚屋

 

 

サザエさん 1956 東宝東京 江利チエミのシリーズ第一弾、ノリスケの結婚物語

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