(★)アイヌ民族の子供の苦悩を描いた、石森延男の同名小説を橋本忍が脚色し、巨匠成瀬巳喜男が監督した。
カラー映画で撮影は玉井正夫
主演は幸田良子(新人)と久保賢山内賢)。
共演は森雅之三好栄子水野久美志村喬

雑感

アイヌ民族の子孫の苦しみを通して、人権意識を啓発する作品。アイヌだけではなく、琉球人や在日朝鮮人についても一般化できる話である。外国に行けば、差別されるのは日本人についても同じだ。しかし、中学生以上でないと分からない内容だろう。

夏休みにユタカが従兄弟幸次のいる白老町に行ったとき、アイヌの老人が自分たちの祭りでの踊りを見せ物にしていた。中には、アイヌの風習でないものもあると言う。それを観光客が見に来て、写真を撮る。幸次はユタカにアイヌは差別されているから、もっと怒らなければならないと言う。

しかし幸次は、最後に自分の父金二の姉弟に対する仕打ちを見て、怒る相手は日本人とは限らず、アイヌ人にも悪い奴がいるとユタカに語る。

校長先生はコタン(アイヌの部落)の人から神様として崇められる。しかし、先生がきれい事を言ってもイカンテの婆さんが娘と長男清の結婚を申し込んだときに断ってしまう。婆さんは、それを苦にして突然亡くなる。
まだまだ、日本人の大人にはアイヌ人への差別意識、アイヌ人側から見れば被差別意識が抜けなかった。

出演陣には、かなりお金をかけている映画だ。ただ、この手の人権映画では珍しく、森雅之が客演したぐらいで新劇系の人が余り出ていない。

幸田良子は初主演だが、印章が残らない。
それより弟役の久保賢(後に日活入りして山内賢と変名する)が後の日活時代と様変わりしていて、熱く怒っている演技が珍しかった。

1958年にこの原作小説は、NHKテレビで連続ドラマ化されていた。

キャスト

(コタンの人々)
森雅之  畑中イヨン
幸田良子  畑中マサ
山内賢  畑中ユタカ
三好栄子  イカンテ婆
水野久美  イカンテフエ
左卜全  フィリップ
田島義文  ワカルパ
山茶花究  畑中金二
大塚国夫  畑中幸次
土屋嘉男  中西先生
(日本人)
志村喬  田沢先生
久保明  田沢清
宝田明  谷口先生

スタッフ

製作  田中友幸
原作  石森延男
脚色  橋本忍
監督  成瀬巳喜男
撮影  玉井正夫
音楽  伊福部昭

ストーリー

北海道、千歳川のほとりに、アイヌ部落(コタン)がある。駐留軍で働く畑中イヨンの娘マサと息子ユタカは、中学生だ。日本人の母は亡くなっていた。隣はイカンテ婆さんと孫娘のフエだった。彼女はダンサーを目指していた。

マサは、憧れの谷口先生が支笏湖を背景に絵のモデルになってくれと言われる。しかし、同級生で日本人(倭人やシャボと呼ばれる)ハツから、財布泥棒と疑われる。
フエは、小学校の田沢校長の息子清に写真を撮ってもらう。清は写真をコンクールに出して入選する。
ユタカが試験で最高の成績を上げたとき、同級生ゴンからカンニングをした、アイヌと日本人の血は違うと言って揶揄われた。ユタカは、自分の指を切って血を比べるからお前の指も切れと迫った・・・。

イカンテ婆さんはフエを一人にして死んでいくのは不憫に思い、田沢先生に息子との縁談を申し込んだ。しかし、その場で断わられた。息子は友人の一人としてしか見ていなかった。フエは田舎が嫌で務めていた工場に何も言わず、どこかに出て行く。
谷口先生は、マサの肖像画が展覧会で入選したため、東京で絵の勉強をすることが出来るようになる。だから、先生は学校を途中でやめることとなり、有志とともに送別会が行われた。
元気をなくしていたイカンテ婆さんの具合が悪くなり、フィリップ爺さんが畑中一家に声を掛けている間に亡くなった。コタンを上げての葬式を出して上げた。
ユタカは背中に紙を貼られて皆の笑いものになる。そこでゴンと果たし合いをすることになった。しかし、夜の校庭にゴンは友だちを呼んでユタカに暴行した。コタンの人々は、ユタカを見つけて病院に連れて行く。
傷が癒えたユタカは、木彫りの熊が案外金になると聞いて、それを学資にして高校へ行きたいと思った。マサも友人からミシンを借りて、アルバイトを始めるつもりだった。谷口先生から手紙がきた。東京の生活は甘くなく苦しいことばかりだが、二人を見習って頑張ると書かれてあった。
しかし、父イヨンが職場の事故で急死した。通夜で叔父金二は、姉弟を知人の店の奉公人にする話をまとめてきたことがわかる。このまま二人で働いていたかったが、家は叔父の名義になっており、売り払われるらしかった。葬式の翌朝、コタンの人々の知らぬうちに姉弟は町に連れられて行った。

コタンの口笛 1959 東宝東京製作 東宝配給 – アイヌ人の哀しみを描いた小説の映画化

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