サマセット・モームのノワール小説をハーマン・J・マンキーウィッツが脚色しロバート・シオドマクが監督した作品。当時シオドマクはアルフレッド・ヒッチコックの対抗馬と見なされていた。
主演は「オーケストラの少女」のディアナ・ダービン、共演はジーン・ケリー。もちろん戦時中ですので白黒映画。
あらすじ
新人将校チャールズ・メイスン少尉は実戦配備前のクリスマス休暇に恋人モナと結婚式を挙げるはずだった。ところがモナが電報をよこして、他の男と結婚したと報告した。頭にきたメイスンはモナを責めるためにサンフランシスコに向かった。ところが嵐になって飛行機はニュー・オリンズに不時着した。
サイモンという男の口利きで、ヴァレリーという女が経営するキャバレーで彼はジャッキーという歌手と意気投合し、教会のクリスマス・ミサへ出掛ける。その場で感極まって泣き出したジャッキーは、ポツリポツリと身の上話を始める。
彼女の本名はアビゲイル・マネットといい、夫ロバートとはクラシック・コンサートで知り合い、二人はすぐ相思相愛の仲になる。名門の出身である彼は、アビゲイルと母の仲がうまく行くか心配した。しかし女性陣は、職業を転々として意志薄弱なところがあるロバートを二人で支えていくことで意見が一致する。その後ロバートはアビゲイルをノミ屋のところに連れて行くが、アビゲイルはブックメイカーという言葉を聞いたことがなかった。
結婚生活に入って半年たったある朝、母親が彼の洋服から大金を見つける。彼の慌て方から、彼女は夫がギャンブル以外のトラブルに巻き込まれたことを知る。ついに彼は警察に殺人罪で逮捕され、刑務所に収監される。母親は、息子を救えなかったのは妻の責任と言い捨てて家を出て行った。だから彼女は贖罪の意味も込めてキャバレーで働いている。
翌日になり天候が回復し、メイスン少尉の飛行機が出発することに決まる。しかしアビゲイルの話を聞くうちに、何時までも昔の事に囚われても仕方がないとメイスンは気付く。
彼が売店で新聞を見ると、一面にロバートが脱獄したと書かれている。メイスンは彼女の勤めるキャバレーに急いだ。
ロバートは、名門の妻であるアビゲイルがキャバレーで男相手に働いていることが気に入らなかった。彼はサイモンを脅して彼女を呼び出し、拳銃で殺そうとした。そのとき、サイモンが機転をきかして声を張り上げた。窓の外で張り込む警察に異常を知らせるためだ。ロバートが窓に背を向けサイモンに掴みかかるや否や、警官がロバートを撃った。アビゲイルはロバートを抱きかかえるが、彼は微笑んで亡くなる。メイスンにこれで君は解き放たれたと言われると、彼女は顔を上げて舞台に向かっていった。
雑感
ディアナ・ダービンが音楽映画以外の新たなジャンル「フィルム・ノワール」に挑戦した作品。彼女は気に入っているそうだ。
しかし役作りの上で、夫が刑務所に入って2年経ったのに、何故妻はふくよかなのか?公称では5ヶ月かけて撮影したとなっているが、おそらく全てのシーンをごく短い期間で撮影したのだろう。回想シーンを撮影してから、しばらく間を置いて断食し、もう少しやつれたほうがよかったのに。
映画の中では、「Spring will be a little late this year」とアーヴィング・バーリンの「Always」をディアナ・ダービンは歌っている。
しかしジーン・ケリーに出演してもらったのに、タップ・シーンはない。ジーン・ケリーはMGM専属だったが、ジーン・ケリーは修業目的で初めてユニバーサル映画にレンタルされた。おそらくジーン・ケリー向けに書かれた脚本で無かった上に撮影期間も限られていたため、こういうことになったのだろう(ちなみに次にレンタルされたのは、1944年製作コロンビア映画でリタ・ヘイワース共演のカラー映画「カバーガール」だった。コロンビアはジーン・ケリー向けの脚本を用意して待っていた)。
しかしディアナ・ダービンとジーン・ケリーの顔合わせだから、観客は音楽的要素を期待したはず。期待外れに終わってしまい、興行結果は芳しくなかった。ディアナ・ダービンの主演映画はこれ以降当たらなくなり、本人も次第に演技に対してやる気を失い、戦後になってパリで結婚した後引退する。
ジーン・ケリーではなく脇役中心の性格俳優をレンタルして、撮影期間をもう一週間与えられれば、結果は変わっていたと思う。
ちなみに「二日間の出会い」という、MGMのジュディ・ガーランド主演で終戦間近の映画(監督ビンセント・ミネリ、日本未公開)がある。やはり兵士が出征直前に二日間の休暇をもらい、駅前で偶然女性と出会う、ボーイ・ミーツ・ガールの話だ。それでNY不案内の彼をあちこち引きずり回すが、素敵な夫婦との出会いもあって、早く結婚したいという気になる・・・。
この映画もジュディ・ガーランド初のストレート・プレイだったが、ディアナ・ダービンと違い、成功を収める。ガーランドからすれば、してやったりだろうし、ガーランドからMGMを追い出されたダービンからすれば、やはり私はこの娘に敵わないと思ったはずである。
メイソン役のディーン・ハーレンは初めから登場して、大きな役かと思わせるが、単なる聞き役である。彼はのちにテレビドラマで活躍する。
スタッフ
監督 ロバート・シオドマク
製作 フェリックス・ジャクソン
脚本 ハーマン・J・マンキーウィッツ
原作 サマセット・モーム
撮影 ウディ・ブレデル
音楽 ハンス・J・サルター
キャスト
歌手ジャッキー・ラモント ディアナ・ダービン
ロバート・マネット ジーン・ケリー
世話焼きサイモン リチャード・ウォーフ
チャールズ・メイソン少尉 ディーン・ハーレン
酒場のママ、ヴァレリー グラディス・ジョージ
ロバート・マネットの母 ゲイル・ソンダーガード
ジェラルド・タイラー デイヴィッド・ブルース