スコットランド・ヤードで働く主任警部ギデオンの目が回るほど多忙な一日を追っただけの作品だ。ハードボイルドな描写も多いが、ジョン・フォード監督の現代劇らしくユーモアを交えて、緩急を付けた構成となっており、最後まで目が離せない。
まずギデオンが朝食中に情報屋バーディから電話が掛かってくる。部下のカービー刑事が汚職をしていると言うのだ。慌ててスコットランドヤードへ急ぐことになるが、娘サリーを学校に送るのも父親として大切な仕事だ。遅刻しないように通行止めを突っ切って行くと、若い巡査のサイモンに捕まってしまう。堅物のサイモンは相手が主任警視であろうが、違反切符を切ってしまう。サイモンにサリーのことは任せてギデオンは本庁に急ぎ、カービーを呼び出し謹慎処分を命ずる。
続いて給料泥棒の通報が入る。職員給料を銀行から持ち出したところを昏倒させられて全額を強奪された。ギデオンが出向くと、被害者は命に別状なかったが、頭を殴られており記憶が曖昧だ。現場にはタイヤの跡がはっきり残っていた。
現場検証後、カービー夫人を訪ねる。やはり夫はギャンブルに狂い、悪い友人から情報を得ていたようだ。そこへカービーの死亡の知らせが入る。一体事故なのか犯罪なのか。
ロンドンに潜伏したマンチェスターの連続殺人犯が昼間に少女を殺す事件が発生する。嫌な仕事だが、ギデオンは被害者の親に話を聞きに行く。
偶然に巡回していたサイモンがその事件の犯人を見つけ、解決する。犯人は精神を病んでいた。ギデオンはサイモンを部長のもとに連れて行くと、部長も違反切符を切られたことがあったという。
鑑識の結果、給料泥棒とカービーをはねた車のタイヤの跡が完全に一致した。両者には繋がりがあったのだ。カービーのロッカーを探すと、美しい女性の写真が発見された。その女性ジョアナを訪れたギデオンは彼女の夫デルフィールドが鍵を握っていると確信する。部下からの報告によると給与泥棒にあった会社は他にも多数あり、いずれもジョアナとよく似た女性を臨時で雇ったことがあった。
ギデオンがパブで一息付いていると、情報屋バーディの妻が夫が狙われているので助けてほしいと頼んできた。ギデオンの仕事は早く、バーディに尾行を付けると、殺し屋が現れ、格闘の結果教会で全員逮捕した。殺し屋の自供から、給与泥棒の首領はやはりデルフィールドだった。ギデオンが単身乗り込むと、夫はジョアナを盾にして単身で逃亡する。
夜も遅くなってギデオンも帰宅しようとするが、上流階級のご婦人から電話が掛かってきて貸金庫から締め出されたという。どうも貸金庫に何者かが強盗に入ったが、ご婦人方がやって来たため籠城しているらしい。早速配備をして、燻り出すと犯人は上流階級の子息たちで遊ぶ金欲しさの犯行だった。
ようやく家へ辿り着いたギデオンは今度こそ夕食にありつけるはずだった。娘サリーが何とサイモンとデートして帰って来た。いつの間に仲良くなったのだ?
そこへまた呼び出しの電話が掛かる。空港にデルフィールドが現れたという。サイモンを運転手にしてギデオンは急行するが、途中でネズミ捕りに会ってしまう。ギデオンはいい気味だと知らん顔を決め込むと、サイモンは免許不携帯だったw。
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ジョン・フォードの作る現代物は戦前の「怒りの葡萄」のようなリアリズムを追求したものと、戦後の「静かなる男」のようにタフガイの話であっても、ユーモアのあるホームドラマがある。
朝起きてから深夜までの間に汚職事件、給料強盗、刑事殺し、少女連続殺人事件の解決、裁判での証言、貸金庫強盗、給料強盗犯の首領の逮捕をたった一人の主任警部がやってのける。いくら狭いロンドンとは言えありえない話だが、テンポに緩急が付いているため、飽きることなくついつい最後まで一気に見てしまう。
この作品も時系列を追うタフな刑事物語だが、例えばジュールス・ダッシンの「裸の町」のようなセミドキュメンタリーとは違い日本で言えば市川崑監督新藤兼人脚本の「暁の追跡」とも違って、ずっと底辺に暖かいホームドラマが流れている。アカデミー監督賞4回受賞した匠の技を見せつけられるようだ。
ジャック・ホーキンスはライバル役、脇役のイメージだが、舞台育ちなのでここでは芝居達者の所を見せてくれる。あとの俳優や女優もイギリス人やカナダ人が多いため、なじみがない人が多いが、芝居の基礎が出来ていて、安心して見れた。
そういう点ではイギリス映画は手堅い。
残念ながら赤字に終わったそうだが、個人的には好きな作品。
監督 ジョン・フォード (駅馬車、怒りの葡萄、わが谷は緑なりき、荒野の決闘、黄色いリボンなど)
製作 マイケル・キラーニン
原作 J・J・マリック
脚本 T・E・B・クラーク
配役
ギデオン ジャック・ホーキンス (ベンハー、戦場にかける橋)
妻 アンナ・リー
娘 アンナ・マッシー
ジョアンナ ダイアン・フォスター
サイモン巡査 アンドリュー・レイ
バーディー シリル・キューサック