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山田洋次
監督(脚本を兼ねる)が原田マハの小説を映画化した家族映画

「ニュー・シネマ・パラダイス」のような古い映画好きのための映画でもあり、老いた元映画人を主人公にして、愛と友情そして家族の姿を描く。

主人公は、沢田研二菅田将暉が二人一役のW主演。
共演は宮本信子、永野芽郁、野田洋次郎、北川景子

雑感

後半も佳境に入って、お笑いコンビ「まえだまえだ」の弟・前田旺志郎演ずる引きこもり勇太が沢田研二演ずる祖父ゴウの描いた脚本を読んで絶賛する。
書いたのは昭和時代だから令和版に直して脚本賞に出そうと言い出し、祖父が読み上げて孫が時代考証する辺りが、感動をするポイントだ。

この松竹映画100周年記念映画は、2020年3月29日に新型コロナウィルス感染症により急死した志村けんが初主演(ドリフターズ時代を除く)する予定だった。
当初2020年12月に公開予定だったが、主役交代や度重なる緊急事態宣言の発令により、ようやく2021年8月6日に公開された。

沢田研二の演ずるキャラクターは、志村けんらしさをできる限り残そうとしている。まるで、志村けんと沢田研二の鏡合わせコントのように、志村けんを憑依させようとした。そのために沢田研二の持っている素晴らしい演技力を消してしまった。
同時にこの映画に志村けんが出演していたら一流の笑い泣きエンターテイメント映画になった、と確信させた。絶えず、沢田研二の影に志村けんが透けて見えるのだ。
その意味で、沢田研二はこの映画を松竹の100周年記念映画でなく、志村けんの追悼映画として演じ切ったと言える。
これが山田洋次監督の意図なのか、沢田研二が主演オファーを引き受ける条件だったかは、わからない。

1986年の松竹大船撮影所50周年記念映画「キネマの天地」(山田洋次監督、中井貴一と有森成美主演)と比べると、「キネマの神様」の方がずっと上質な作品である。

原田マハの原作小説は、私小説にファンタジックな脚色を加えたものだ。映画好きな主人公は、原作者・原田マハの実父がモデルである。彼女の父は、アマチュア映画評論家であるそうだ。
原作と映画は、大雑把な設定(主人公がギャンブル狂)こそ似ているが、本質的に異なるものである。かつて映画監督だったというのは、映画だけでの設定だ。

北川景子演ずる女優桂園子は原節子がモデルであり、リリー・フランキー演ずる出水宏監督は清水宏監督がモデルである。
しかし、原節子が清水宏監督作品に出演したことはない。ちなみに清水宏は、サイレント時代末期(1927〜1929)に田中絹代と同棲していた。

色合いや3DCGはヘタクソに見えた。フィルム時代の合成技術の方がこの映画に合ったのではないか。
さらに編集も下手だ。カットしたところで、お話は大きく飛んでいるんだから、映画が30分長くなってもナレーションを入れて分かりやすくなる。これはそもそもの共同脚本(恐らく新型コロナのために脚本の大幅なリライトがあった?)の問題でもある。

キャスト

沢田研二  円山剛直(ゴウ)
菅田将暉  若き日のゴウ
永野芽郁  若き日の淑子
宮本信子  妻・淑子
野田洋次郎  若き日のテラシン
北川景子  大女優・桂園子
寺島しのぶ  娘の歩
小林稔侍  映画館主テラシン
リリー・フランキー  出水宏監督
前田旺志郎  勇太(歩の息子、引きこもり)
志尊淳  映画館員
松尾貴史  カメラマン
広岡由里子  淑子の母

 

スタッフ

監督、脚本  山田洋次
脚本  朝原雄三
原作  原田マハ
音楽  岩代太郎
VFX監修  山崎貴
撮影  近森眞史

ストーリー

ギャンブル依存症のおかげで借金まみれになった後期高齢者円山ゴウは、妻の淑子と娘の歩にも見放されていた。
しかし、ゴウはかつて映画の助監督を松竹映画で務めながら、その「映画」を捨てた過去があった。
若き日のゴウは助監督として撮影に明け暮れていた。
彼が気を置けるのは、映写技師のテラシンや女優の桂園子、出水宏監督だ。彼らは共に青春を謳歌していた。
ある日、脚本を認められたゴウは、監督に抜擢される。
ところが、撮影現場でベテランカメラマンと揉めてしまい、最後は監督自らが大怪我をしてしまい映画はお蔵入りする。この機会にゴウは、松竹に辞任届を叩きつけ、故郷に帰る。ゴウを愛していた淑子は、彼についていく。

ところが、2020年になってゴウの孫勇太がお蔵入りとなっていたゴウの初監督作「キネマの神様」の脚本を発見したことで、円山家の運命は大きく動き出す・・・。

勇太は剛の脚本を絶賛し、現代風に書き換えて脚本賞に提出しようと言う。それ以来、ゴウが脚本を読み上げ、勇太が現代風に字句を置き換える作業が続いた。勇太は最後に脚本データに落としてゴウの名前で脚本賞に応募した。
その結果、ゴウの脚本は優勝する。しかし、連日の祝賀会でゴウは体を壊し、入院する羽目に落ちる。表彰式には、娘の歩が代理出席してスピーチをした。
素行が悪いので強制退院させられたゴウは、映画が見たいと言い、テラシンの名画座に出かける。掛かっていたのは、大女優桂園子の代表作「東京の物語」だ。昔、桂園子は俺に優しくしてくれたっけなあ、と思いながら観ている。すると、映画のスクリーンから桂園子がゴウの隣の席に座り、昔話をする。そして、「あら撮影に戻らないと。ゴウちゃんも呼ばれてるよ」と言う。若返ったゴウは、スクリーンの中でカチンコを振っている。
年老いたゴウは、そんな夢を見ながら映画館の座席から滑り落ちた。ゴウは思い通り、映画を見ながら死んでいった。

 

キネマの神様 2021 松竹東京スタジオ制作 松竹配給 – 松竹映画100周年記念映画

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