映画「メリー・ポピンズ」が公開されて50周年記念の一環として、原作者とウォルト・ディズニーの葛藤を描いた制作秘話をディズニーが映画化した。

 
主演の原作者P.J.トラヴァース役は英国人エマ・トンプソンが演じ、ウォルト・ディズニー役はトム・ハンクスをに配している。
監督は「しあわせの隠れ場所」のジョン・リー・ハンコック

 
原作者のオーストラリア時代を回想するシーンで父を演ずるのは、如何にもアイリッシュであるコリン・ファレル、母役はルース・ウィルソン、伯母役はオーストラリア出身のレイチェル・グリフィス
 

 

あらすじ

 

「メリー・ポピンズ」の著者、P.L.トラヴァース夫人(独身だが周囲にそう呼べと強制していた)は超スランプに陥って、顧問弁護士からお金がないことを指摘される。そこで渋々20年前から「メリー・ポピンズ」の映画化契約を結ぶように依頼してきたウォルト・ディズニーに会うため、ロサンゼルスに向かう。ロスでの専属運転手としてラルフという冴えない中年男が充てがわれた。
彼女はホテルの部屋でふと、父や母と過ごした幼き日々を思い出す。(回想)オーストラリアの都会から一家で引っ越したのはオーストラリアの田舎の平屋家屋だった。(左遷されたと思われる)母はウンザリしていたが、子供たちは遊び場が多くて楽しみで仕方ない。
(現在)ディズニー社を訪れると仕事相手である脚本家のダグラディ、音楽担当のシャーマン兄弟が彼女を迎えてくれる。
トラヴァースはウォルト・ディズニーの元へ急ぐ。ウォルトは娘との約束を果たすためにぜひ映画化をさせて欲しいと熱意を伝える。トラヴァースはアニメーションは無しなど様々な条件を言った後、契約を保留して脚本制作現場に向かう。
トラヴァースは脚本を読みながらどうでも良いような細かい指摘をし、シャーマン兄弟の音楽に徹底的にNGを出し、衣装や家のイメージが違うと怒り出す。
メリー・ポピンズに出てくるミスター・バンクスは、銀行員だったトラヴァースの父親をイメージしていたので、コンセプト画では髭を生やしていることにケチを付ける。さらに赤色を画面に出すことを厳禁する。(父の吐いた血の色)
(回想)かつて父が銀行支店長の役目を果たせなくて、早退した事を思い出す。
アイスクリームを買いに行ったトラヴァースは、父が本店の上司に怒鳴られている様子を見てしまう。
父は、銀行支店長として地方のお祭りに参加してプレゼンをする機会を得る。しかし上がり症の父は景気付けに酔っぱらってしまい、発表を失敗した挙句、壇上から落ちて背中を打って下半身付随になってしまう。その頃から口からは血ヘドを吐くようになる。
(現在)トラヴァースは何故バンクス氏が子供達に対して非情な事をするのかと激怒する。帰途、ラルフは会話の中で自分の娘が障害者であることをトラヴァースに教える。
(回想)トラヴァースが酒を父に渡したので、怒った母は入水自殺しようとする。しかしトラヴァースが気付いて、母は助かる。
その後母の姉にあたるエリー(メリー・ポピンズのモデル)が訪れ、病んだ母の代わりに家事をこなす。
(現在)ウォルトはディズニーランドを案内する。その後、ダグラディとシャーマン兄弟はエンディングを一新する。トラヴァースはこの出来に納得する。
しかしペンギンが登場するで実写にアニメを合成することにブチ切れたトラヴァースはロンドンの自宅に帰ってしまう。その頃にはサイン嫌いだったトラヴァースもラルフを友人と認めていて、空港で娘の「メアリー・ポピンズ」の本にサインをしてあげる。
ウォルトはホテルの請求書の宛先を見て、トラヴァースが筆名で彼女はアイルランド系オーストラリア人だと知る。
(回想)エリーからもらった2ペンスで、父が好きな梨を買うが、帰ると父は息を引き取っていた。
(現在)イギリスに帰ったトラヴァースのもとに突然ウォルトが訪ねてくる。ウォルトは自分にも父親がいたこと、父親との葛藤で辛い過去があったことを打ち明ける。そして二人とも過去の葛藤の中に生きるのをやめて、我々の父親を助けようと提案する。そう説かれて、ついにトラヴァースは契約書にサインする。
ウォルトはプレミア上映会にトラヴァースを呼ぶ事を恐れるが、トラヴァースは勝手にロスまで来てしまう。
ミュージカルシーンやアニメ合成にはやはり虫唾が走るトラヴァースだったが、最後のバンクス氏が笑顔になるシーンには泣かされてしまう。

 

 

 

雑感

 
この映画はBBCの原作をディズニーが脚色しているものだから、ウォルト・ディズニーを多分に美化している。
映画「メリー・ポピンズ」にはいくつか逸話がある。
完成した映画にアニメパートがあることを知ったトラヴァースがウォルトに尋ねると「あなたが口を出せるのは脚本だけで、契約上は映像に関して何も指示できない」と言われて、トラヴァースは憤慨する。
その後、トラヴァースは「メリー・ポピンズ」シリーズをいくつも書いているが、続編企画を一切受け付けないほど、死ぬまでディズニー映画を嫌っていた。とくにアニメという映像化が子供たちから創造心を奪うものとして嫌っていた。劇中でアメリカ人俳優ディック・ヴァン・ダイクが嫌いと言っていたが、知っていたかどうか疑わしい。ジュリー・アンドリュースは知っていたはずだが、やはりミュージカル女優だから嫌いだった。
ただし死後、版権者はミュージカル舞台化を認めているし、オリジナル脚本だが続編の映画化「メリー・ポピンズ・リターンズ」も認めている。
 
エマ・トンプソンは、60過ぎたオールドミスで、亡父との関係を拗らせた女流作家を上手く演じていた。
またオーストラリア女優レイチェル・グリフィスを久しぶりに見たが、メリー・ポピンズのモデルの人物を演じており、格好良かった。
コリン・ファレルも神経が細かくてオーストラリア銀行の激務に就いていけず、アル中になる様を見事に演じた。
 
「メアリー・ポピンズ」と言う作品は英国中産階級向けの非常にシニカルな児童文学だ。トラヴァース女史が、父の夢想癖を受け継ぎ、「メアリー・ポピンズ」を書いたが、自分の人生に行き詰まり、それを父のせいにするようになると、ますます創造力が尽きてスランプに陥る。
それを知ってか知らずか、ウォルトは脚本のラストを、仕事一徹だった子供たちの父(デビッド・トムリンソン)が救われる物語として描いている。だから頑固なトラヴァース女史もその点で折れたのだ。原題は「Saving Mr. Banks」がなっているのもそういうわけだ。

 

スタッフ・キャスト

 
監督 ジョン・リー・ハンコック
脚本 ケリー・マーセル、スー・スミス
製作 アリソン・オーウェン、イアン・コリー、フィリップ・ステュアー
製作総指揮 クリスティーン・ランガン、トロイ・ラム、アンドリュー・メイソン、ポール・トライビッツ
音楽 トーマス・ニューマン
撮影 ジョン・シュワルツマン

 
配役
児童文学者P.L.トラヴァース – エマ・トンプソン
ウォルト・ディズニー – トム・ハンクス
運転手ラルフ – ポール・ジアマッティ
作詞家リチャード・シャーマン- ジェイソン・シュワルツマン
作曲家(兄)ロバート・シャーマン – B・J・ノヴァク
脚本家ドン・ダグラディ – ブラッドリー・ウィットフォード
秘書ドリー – メラニー・パクソン
父トラヴァース・ゴフ – コリン・ファレル
母マーガレット・ゴフ – ルース・ウィルソン
トラヴァースの子供時代(ギンティ) – アニー・ローズ・バックリー(子役)
マーガレットの姉、メリー・ポピンズのモデルのエリーおばさん – レイチェル・グリフィス
 

 

ウォルト・ディズニーの約束 Saving Mr. Banks 2013 BBC+ディズニー製作 ディズニー配給

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