日本人辻一弘の特殊メイクによって、主演ゲイリー・オールドマンが英国の首相ウィンストン・チャーチルに変身して、アカデミー賞主演男優賞に輝いた歴史映画。
当時の記録を元にチャーチルの首相就任から「ダンケルクの戦い」の27日間が描かれる。
共演はクリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ。
監督はジョー・ライト、脚本アンソニー・マクカーテン。
あらすじ
1940年5月10日、独伊の対して宥和政策を採ったため第二次世界大戦を間接的に起こしてしまった責任を取りチェンバレン首相は辞任し、保守党と労働党による挙国一致内閣の首相として主戦派ウィンストン・チャーチルが就任した。妻クレメンティンは「私と子供が父親の犠牲になってきたのは、この日のために国にこの身を捧げてきた」と皮肉を言う。
早速首相の専用タイピストとして若いレイトン嬢が採用される。
初期、チャーチルは市民にさも英軍が勝っているかのような「大本営発表」をしていたが、次第にフランスの英国陸軍はドイツ軍に囲まれていった。ダンケルクの部隊を守るため、カレーの部隊は陽動作戦でドイツ軍の注意を集めるようにしたため、全滅した。
チェンバレン枢密院議長とハリファックス外相を中心とする対独宥和派はフランスやベルギーなど西ヨーロッパを侵攻したナチス・ドイツに対して講和を求めて、主戦派チャーチルと対抗する。
ついにフランスがナチスに敗北必至となり、フランス西海岸に展開する英国陸軍30万余名も全滅の危機を迎える。チャーチルは、海軍に余裕がないため、民間の漁船を徴集して民間防衛船団を結成し、ダンケルクで援軍を待っている英国陸軍のために派遣した。
ナチスと講和するか、さもなくば大臣を辞任するというハリファックス外相とチェンバレン議長が要求する事態になり、チャーチルに選択を迫る。
四面楚歌に思えたチャーチル首相だったが、思わぬ方から支援の手が差し伸べられる。ハリファックス外相に亡命を求められた国王ジョージ6世が、チャーチルの自宅にまで出向いて対独強行路線を採るように要請した。そしてチャーチルに市民の声を聞いてみろと言う。
チャーチルは翌日、生まれて初めて地下鉄に乗る。そしてウェストミンスター駅までの区間で乗車客に次々と政策について質問する。彼らは対独強行路線を支持した。自信を持った首相は、今度は下院閣外大臣会議に出席して下院の意見を掌握した。
その上でハリファックス外相の出席する閣議に参加する。そこでチャーチルは市民や下院の意見をまとめて改めて主戦論を採ることを主張し宥和論を蹴る。
続いて下院本会議でチャーチルは、演説を打ち宥和論を圧倒するのである。枢密院議長チェンバレンは、与野党ともにチャーチルの主張に熱狂的に賛同する様子を見て諦める。彼は数ヶ月後、癌で亡くなる。ハリファックスは駐米大使に格下げされて、連合国である米国との戦争における連携を模索する。
雑感
宥和論について聞くためにチャーチルが地下鉄に乗ったと言う記録は残ってない。おそらくフィクションだろう。
ゲイリー・オールドマンが食事で太ることはできるが、あの頬の緩みはメイクアップ・アーティスト辻一弘の名人技だ。辻はこの映画でアカデミー特殊メイク賞を受賞する。
またゲイリー・オールドマンは前半チャーチルの付和雷同振りを演じ、後半に入り国王ジョージ6世の賛同を頂いてからは、庶民首相さながらに市民の中に入り議会では鉄血宰相振りを見せる。チャーチルという男の色々な側面、特に決して強くない一面を演じてアカデミー主演男優賞を受賞した。
映画自体はチャーチルを見守る妻クレメンティンと専用タイピストのレイトン嬢、この二人の視点で描かれている。特に妻役のクリスティン・スコット・トーマスはしばらく見てなかったが、今年で60歳になる。ちょっとショックだ。
なお本物のチャーチル首相は、最初こそ市民の支持率が高かったが、戦争が進むにつれて戦死者や傷病兵が多くなり、市民は戦うことに飽きてしまった。同時に経済も破綻してしまう。
そして戦後の総選挙で挙国一致内閣時代の同僚のアトリー労働党党首に政権を奪われる。6年経って、再び政権に返り咲く。
スタッフ
監督 ジョー・ライト
脚本 アンソニー・マクカーテン
特殊メイク(ゲイリー・オールドマン) 辻一弘
プロデューサー ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナ、リサ・ブルース、ダグラス・アーバンスキ
撮影 ブリュノ・デルボネル
音楽 ダリオ・マリアネッリ
キャスト
首相ウィンストン・チャーチル(卿) ゲイリー・オールドマン
妻クレメンティン・チャーチル クリスティン・スコット・トーマス
タイピストのエリザベス・レイトン リリー・ジェームズ
ハリファックス外相(伯爵) スティーヴン・ディレイン
前首相ネヴィル・チェンバレン ロナルド・ピックアップ
国王ジョージ6世 ベン・メンデルソーン