貧しい少年が父から自立していく姿を、不法移民問題を絡めて実録風に描いた映画。
監督はベルギーのリュック・ダルデンヌとジャン=ピエール・ダルデンヌ兄弟で、本作が長編第3作目。
主演はイケメンな新人のジェレミー・レニエ。
共演は「八日目」のオリヴィエ・グルメ、アシタ・ウエドラオゴ。
カンヌ映画祭「ある視点」部門受賞。
あらすじ
イゴールは自動車工の見習だったが、仕事をさぼって父ロジェがしている違法外国人労働の斡旋業を手伝ったので、修理工をクビになる。
西アフリカの国ブルキナファソ出身の不法移民アミドゥを頼って、妻アシタが赤ん坊を連れてやって来る。母のいないイゴールは、アシタの子供をあやす様子を覗いていた。
アミドゥが建築現場で作業中、転落して重体となる。ロジェは警察ざたを恐れて医者を呼ばないので、アミドゥはイゴールに妻子の世話を頼んだのち死んでしまう。ロジェは秘密裏にアミドゥの遺体をコンクリートの中に埋め込む。
翌朝、アシタは夫の不在についてロジェ父子を問い質す。彼女は、アミドゥがギャンブルで作った借金の取り立てで追い詰められる。イゴールは彼女を援助しようと金を渡すが、彼女は夫が帰宅するまでブルキナファソへ帰国しないと言い張る。
ロジェはアシタを追い出そうと考えていた。彼はアシタにアミドゥの名前で偽電報を打ち、ドイツのケルンに連れ出そうとする。ロジェはアシタを騙して、娼婦として売るつもりだ。それを知ったイゴールは、アシタ母子を連れ出して家出する。
3人はイゴールが勤めていた修理工場に隠れた。ところが赤ん坊が熱を出す。夜中に病院に行くが自費なのでイゴールのお金を払っても足りない。そこで世話好きなアフリカ系女性ロザリーが立て替えてくれた。ロザリーの紹介で呪い師にも会い、夫が生きていると言われたアシタは、赤ん坊を預けるためイタリアの叔父の所へ行く決心をする。イゴールもロジェからもらった指輪を売って電車賃を作って、イタリアまで旅立つつもりだったが・・・。
雑感
ブルナキファソは、以前オートボルタ(ボルタ川上流と言う意味のフランス語)と呼ばれた国(1960年独立)で、西アフリカのガーナの北、マリの南にある国である。オートボルタ時代は、フランス語圏なのに、ソ連と友好関係を結んでいた。数回のクーデターを経て、フランスとの関係は良好になった。隣国ベルギーにも不法移民が多い。
不法移民の場合は、騙す方ロジェも騙される方も悪いが、病気になったら全額自己負担になることを覚悟しなければいけない。
アミドゥはすぐ入院させてもロジェが負担しなければならない。入院させず死ぬを待ってコンクリートで固めてしまうのは、かなり危険な方法だ。
アシタはエンディングの後、警察に駆け込むつもりだろう。ベルギーにも死体遺棄罪はあるだろう。ロジェは特に悪い父親ではなかったから罪を着せるのは酷だが、不法労働も斡旋していたのだから、重罪になっても仕方がない。
イゴールは因果な父親を持ったと諦めなければなるまい。これから先は、父親から離れてフランス語圏で自活することを勧める。15歳なのだから何とかなるだろう。
ダルデンヌ兄弟は低予算でほろ苦作品を作る名映画作家だ。この作品でカンヌ国際映画祭で「ある視点」賞を受賞し、フランスでロングラン上映された。その後1999年に「ロゼッタ」でカンヌ国際映画祭グランプリを獲得して、世界的名声を得て、日本でも人気になった。その後も二、三年に一度、監督作品を発表している。
主役の子役ジェレミー・レニエはこの作品で注目され、以後大活躍しているベルギー人俳優だ。ダルデンヌ兄弟作品の常連でもある。
スタッフ
監督、製作、脚本リュック・ダルデンヌ、ジャン=ピエール・ダルデンヌ
製作ハッサン・ダルドゥル、クロード・ワリンゴ、ジャクリーヌ・ピエルー
脚本レオン・ミショー、アルフォンス・バドロ
撮影アラン・マルクーン
音楽ジャン・マリー・ビリー、デニ・エム・プンガ
キャスト
イゴール少年 ジェレミー・レニエ
父ロジェ オリヴィエ・グルメ
アシタ アシタ・ウエドラオゴ
夫アミドゥ ラスマネ・ウエドラオゴ
掃除婦ロザリー クリスチャン・ムシアナ
ネタばれ
友人から漏れたようで、ロジェが工場に現れた。ロジェは、アシタ母子を引き渡せと言う。イゴールは父親の言いつけを拒否し、アシタが後ろからロジェを殴って昏倒させる。イゴールはロジェを鎖でつないで逃げられないようにしたうえで、アシタと駅へ急ぐ。
ホームに向かう途中、イゴールはアシタに真実を明らかにした。彼女は何も言わず、来た道を戻る。イゴールも後からついて行った。二人は、どこへ向かっているのか?