レクター博士ではない。世界史のヒーローであり、繁栄する都市国家ローマを恐怖のどん底に叩き込んだハンニバル将軍、その第二次ポエニ戦争での武勇伝が描かれる。
アメリカのワーナー・ブラザーズとイタリアの合作映画で、アメリカ版の監督はエドガー・G・ウルマー、イタリア版はカルロ・ルドヴィコ・ブラガリアが勤める。
おそらく大部分はイタリア側でイタリアのスタッフで製作されて、アメリカ側で上映前に最終編集したのがウルマー監督だと思う。
主演は元祖マッチョ・スタア、ヴィクター・マチュア。ヒロインはリタ・ガム(「キング・オブ・キングス」)。この二人だけがハリウッドから派遣されて、ロケはセルビアで、スタジオはローマで撮影された。
従って、イタリア人の英語の台詞は吹替である。クインティリウス役で後のマカロニ・スター、テレンス・ヒルが登場する。
あらすじ
ハンニバルの軍勢はアドリア海からローマに攻め込むと思われていたが、ヒスパニアからガリア人の協力でアルプスを越えて、ポー川からイタリアを見下ろす位置に陣取る。
ローマの有力元老のひとり、ファビウスの別荘を襲い、息子のクィンティリスと姪のシルビアを攫い、ハンニバル軍の戦象の大群を見せつける。
翌日解放されてローマに戻ったシルビアはハンニバルが戦いを望んでいるわけでないとファビウスに伝える。
その後もシルビアは周囲の目を盗んでハンニバルと密会していた。ハンニバルはシルビアを付けてきたローマ軍を一人で蹴散らし、強力ぶりを見せつける。
しかしシルビアがいることでハンニバルがローマをなかなか攻めようとしないことにしびれを切らしたマハルバル騎士隊長はハンニバルに刃を向ける。ハンニバルはそれをも打ち倒し、お前が必要だからと処罰も加えない。
ハンニバルは援軍を本国に依頼するが、本国はハンニバルの専横について怪しんでいたため、僅かしか援軍を送らなかった。その代わり妻子を送ってきた。それを見たシルビアは嫉妬で怒り、死刑になることを知りながらローマに戻る。
いよいよカンナエでローマ軍とハンニバル軍は対決する。渡江したローマ軍を伏兵で挟み撃ちにしたハンニバル軍は、幹部を殺すなど大きな成果を得る。しかしさらなる援軍を求めて本国に派遣された弟アスドルバルはローマ軍に殺される。
愛人と弟を殺されたハンニバルは復讐の鬼となり、その後もローマを恐怖に陥れるのだった。
雑感
ハンニバルのアルプス越えからのローマ侵攻は、文章でしばしば目にするが、映像だとかオペラにあまりなっていない。
それだけローマ人にとってトラウマになるほどの経験だったのだろう。それが現在もヨーロッパ世界に伝わっているのだ。
ハンニバルは外交策を用いて、周辺諸国を抱き込んでローマを周囲から攻めさせようとしたが、ギリシャ人都市国家群がカルタゴに屈せず、結局本国の理解も得られず第2次ポエニ戦争に敗れる。
もしマハルバルの言うとおり、ローマを速攻で叩けば、ローマはハンニバルによって滅亡させられていたはずである。
映画の終わり方は、カンナエの戦いまで。ハンニバルの半生を描くには6時間あっても足りないぐらいだから仕方がない。
B級監督であるエドガー・G・ウルマーには荷が重かったろう。
でもローマの執政官大スキピオが登場する当たりまで前後編でやって欲しかった。
スタッフ・キャスト
監督 カルロ・ルドヴィコ・ブラガリア、エドガー・G・ウルマー
製作 オッタヴィオ・ポッジ
製作総指揮 ジャック・ディーツ
原作 オッタヴィオ・ポッジ
脚本 モーティマー・ブラウス 、 サンドロ・コンティネンツァ
撮影 ラファエル・マシオッチ
作曲 カルロ・ルスティケリ
配役
ハンニバル ヴィクター・マチュア
シルビア リタ・ガム
ファビウス・マキシムス(執政官) ガブリエレ・フェルゼッティ
正妻ダニラ ミリー・ヴィターレ
弟アスドルバル リック・バッタリア
騎士隊長マハルバル フランコ・シルヴァ
クインティリウス(ファビウスの息子) マリオ・ジロッティ(テレンス・ヒル)
弟マゴ ミルコ・エリス
アルプス征服軍 ハンニバル Hannibal 1959 アメリカ+イタリア合作映画