太平洋戦争末期に北マリアナ諸島アナタハン島で起こった「アナタハンの女王事件」をもとにした実録映画。
ご本人が出てきたB級猟奇映画「アナタハン島の真相はこれだ!!」 (1953 新大都映画 監督:吉田とし子 出演:比嘉和子)が上映された。比嘉和子本人が毒婦と言われて、自己弁護のため出演したものだ。このおかげで。史実により近いと思われる「アナタハン」はヒットしなかった。
主演は根岸明美。日劇ダンシングチームで踊っているところを、監督であるジョセフ・フォン・スタンバーグが見初めた。
男性出演者も彼に選ばれた新人や大部屋俳優であるが、その中にウルトラセブン隊長の中山昭二、時代劇の脇役近藤宏がいた。
あらすじ
1944年日本軍の輸送船が米軍機の攻撃を受け沈没した。兵士軍属合わせて十数名がアナタハン島に漂着する。そこには日下部という男が恵子という女と自給自足で暮らしていた。男たちは恵子に興味を持ったが日下部との間でトラブルになる。島に墜落したB29爆撃機からピストル2丁を見つけた男たちはついに恵子をめぐって殺し合いを始める。1949年まず千波が西尾に刺殺され、西尾は柳沼に撃たれる。恵子は西尾が奪うが、日下部が背後から刺し殺し、コックの吉里が日下部を海に突き落とす。ところが吉里は恵子によって殺される。残った男たちはくじ引きで恵子の所有権を決めるが、そんな生活に疲れ果てた恵子は海岸で米軍艦船に救出される。
一年後、日本からの手紙によって男たちも終戦を知り、帰国の途に就く。空港では家族が涙を流して彼らを迎える。
雑感
巨匠スタンバーグ監督は映画の設定をアメリカに置き換えてアメリカ人俳優とアメリカ人スタッフで撮影することも出来たのではないかと思ったが、戦前彼はマリーネ・ディートリヒの主演映画で一時代を作ったが、破局後、女優でなく監督が干されてしまう。ハリウッドに対する不信感があって日本の東宝で撮ったのだろう。初期テレビドラマのようにスタジオ収録中心なので、臨場感はない。
スタンバーグの遺作は1957年公開「ジェット・パイロット」(主演ジョン・ウェイン)と言うことになっているが、これは1950年にハワード・ヒューズに降ろされている。従って「アナタハン」が実質的な遺作である。
シナリオだが、まず漁船を改造しただけの輸送船なので、将校クラスの武官は乗っていなかったのだろう。
四年間も日下部が支配できたのは、輸送船船長がよほどのボンクラだったと思われる。
逆に1944年から49年まで4年間支配していた間、他の船員は何をしていたのかと思う。
そして日下部と船員との逆転は何がきっかけなのか?
まだ謎は多い。
この作品でオールヌードを披露して映画界入りした根岸明美はセクシー女優として人気になるが、本人はそういうレッテル貼りは嫌だったようで、その後は演技派に転向した。
スタッフ・キャスト
監督・撮影 – ジョセフ・フォン・スタンバーグ
製作 – 滝村和男
脚本 – ジョセフ・フォン・スタンバーグ、浅野辰雄
音楽 – 伊福部昭
配役
日下部恵子(女王蜂) – 根岸明美
日下部 – 菅沼正
黒田 – 沢村紀三郎
西尾 – 中山昭二
柳沼 – 近藤宏
ナレーション - ジョセフ・フォン・スタンバーグ