池内淳子が30歳になり、よろめきドラマに出演していた頃の作品である。
と言っても、この映画の中ではよろめいていない。よろめいた後にズブズブになって抜き差しならなくなった女のドラマである。
愛人に走って家庭を崩壊させて、失うものが何もなくなった女が、でも最後は自立して再び立ち上がるまでを描いている。

織物作家知子の愛人小説家小杉にはゆきという美人妻があるが、知子との関係も8年間ダラダラ続けて、家と愛人宅を行ったり来たりしている煮え切らない男。
知子はある日、前夫と別れるきっかけとなった浮気相手の木下と再会する。木下は広告代理店で営業をしていたが、決して生活は楽ではなかった。やがて焼けぼっくいに火が付いて、木下と再び関係を持った。
木下は小杉と別れて自分と一緒になってくれと知子に訴えるが、知子は踏ん切りが付かない。小杉に対して「未練」があったのだ。小杉の方も知子に対して未練がある。木下は知子のもとを去って行く。
ところが夏の終わりになって、妻ゆきからの手紙を盗み見た知子は、小杉の愛情がゆきから全く離れていないことを知った。ひとり旅に出かけた知子は、旅先で交通事故があったと知り、自分を追ってきた小杉でないかと心配し現場にやってくる。事故に遭ったのは・・・

***

見ず知らずの他人だった。

松山善三の脚本は誰が監督していても松山善三が書いているとわかるのが凄い。
当然、細君の高峰秀子をイメージして描いたであろう。しかし高峰秀子にやらせるのは、年齢的に難しい。

そこで池内淳子の抜擢となるのだが、彼女がまた素晴らしい。
若い頃の華やかさが無く、中堅の熟れた色気がある。

演技も舞台出身の仲谷昇仲代達也岸田今日子を相手に回して十分互角いや互角以上に渡り合っている。
映画の演技としては、満点だと思う。

松山善三の脚本は愛人池内淳子の一人称的な見方をしている。
となると、最後は何らかの結論が欲しくなる。
しかしラストが若干弱く感じた。別れるのか、別れないのか、どっちつかずだ。でもだから「みれん」なのだろう。

実際の瀬戸内寂聴(当時は晴美)は作家である愛人と元の愛人との間を行ったり来たりして、そのうちに元の愛人が非業の死を遂げてしまい、出家する。
この作品は、彼女の人生の一部を切り出した私小説である。

 

 

スタッフ

監督千葉泰樹
脚本松山善三
原作瀬戸内晴美(「夏の終り」)

キャスト

池内淳子(主人公知子)
仲谷昇(愛人小杉慎吾)
仲代達也(若いツバメ、木下涼太)
乙羽信子(本郷の大家さん)
西村晃(飲み屋の嫌な男)
山岡久乃(その連れ)
岸田今日子(小杉の妻、声の出演)

池内淳子は三越のデパートガールだったのを新東宝に引き抜かれ、すぐ人気女優になったが、これからと言うところで柳沢真一と寿退社。しかしすぐ離婚復職。その後大蔵貢時代の新東宝で苦労し、1960年に「花嫁吸血魔」という新東宝のカルト名作に出て、何も怖いものがなくなったのだろう(全身毛むくじゃらの怪人蝙蝠女に扮して結婚前の男女を襲うのだ)。新東宝倒産と同時に東宝へ移籍。

昭和30年代後半はよろめき女優として人気だったが、のちに「女と味噌汁」の芸者起業家や、テレビのお母さん役で活躍している。
最近は舞台慣れしてしまい、演技が大げさになってしまった。

それはさておき、この「みれん」は知る人ぞ知る佳作である。
決して100点満点の映画ではないが、池内淳子の演技だけでも観る価値がある。

 

みれん 1963 東宝製作・配給 瀬戸内晴美時代の私小説の映画化

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