モード・ルイスはカナダで最も有名な画家だそうだ。そう言えば、英連邦なので美術にはあまり縁のない国かもしれない。
彼女は幼くして若年性関節リウマチを患い、障害を抱えて育った。絵画について教育を受けたことはない。それでも彼女がニクソン米大統領にも愛される人気画家になったのは、最終的に幸せな家庭を築けたからにだろう。
監督はアイルランド人の女流監督アシュリング・ウォルシュ、主演は「シェイプ・オブ・ウォーター」のサリー・ホーキンスと「恋人までの距離」のイーサン・ホーク。カナダ・アカデミー賞7部門制覇。
あらすじ
叔母の家を逃げ出したモードは家政婦募集のチラシを見つけ、早速応募する。それは貧しい魚の行商人であるエヴェレットの一人住まいだった。他に応募する人間もおらず、エヴェレットは障害者と知りながらモードを住み込みで雇う。その家は狭くてベッドも一つしかなかった。エヴェレットが体を求めてきたとき、モードは結婚しなきゃダメと言ったので、仕方なく教会で式を挙げる。モードは絵が好きで描けるものにはなんでも描いた。色調は明るく、暗い家が次第に明るくなった。近所のアメリカ人サンドラが高く買ってくれるようになる。
それでも夫婦であれば、問題は起きる。ある日、モードは叔母に呼ばれる。モードが以前死産したと思っていた娘が、実は他所に譲られて丈夫に育ったと言う。しかし娘の話を聞かされるのをエヴェレットは嫌がり、夫婦喧嘩となり、妻は家を出てサンドラのもとへ行く。それでも何日かしたらエヴェレットのもとへ何食わぬ顔をして戻るのだった。
やがて60歳を過ぎた頃、カナダの雑誌やテレビで取り上げられて全国的に人気となり、小さな絵が16000ドルで取引されるようになる。
その5年後、リウマチが悪化して夫に看取られ病院で亡くなる。
雑感
おそらく実話はもっと壮絶なのだろう。ビデオで見た亭主は大きくて、若い頃はDVをやっていそうだった。
この作品は、女性スタッフが揃っているせいか、暴力表現がなくてとくに何の抑揚もない。見所はイーサン・ホークが50近くなって、良い意味で老けてきた点だ。わずか2時間の上映時間で映画の中では30年が過ぎるのだが、最も大きく成長したのは夫エヴェレットだった。
モード・ルイスの絵を見ていると、お世辞にも上手とは言えない。ポスト印象派のアンリ・ルソーよりさらに平面的であり、いつも空が空色でしかない。週刊新潮の表紙を長年に渡り飾ったイラストレーター谷口六郎と比べても、感情表現が常に明るくて、ワンパターン。
しかし気持ちが塞ぎ込んでいるときに見るのに、とくに良さそうである。白猫(犬?)の絵や黒猫3匹に見つめられている絵は癒しを感ずる。これらの絵から、彼女が非常に暗い人生を送ってきて、最終的に心の平安を見つけたのだと思われる。そしてそれはエヴェレットと一緒に暮らすようになり、やがて結婚し、落ち着いた生活を送れるようになったからだろう。
彼女を日本に紹介したのは、現代美術専門家を除けば、大橋巨泉(2007年の開運なんでも探偵団)だそうだ。
スタッフ・キャスト
監督 アシュリング・ウォルシュ
脚本 シェリー・ホワイト
撮影 ガイ・ゴッドフリー
製作 メアリー・セクストン他
配役
モード サリー・ホーキンス
エヴェレット イーサン・ホーク
サンドラ カリ・マチェット
叔母 ゲイブリエル・ローズ