ジャック・ベッケル監督がパリ市井三部作の後、時代を遡りベルエポック(普仏戦争後から第一次世界大戦直前までのパリが平和な時代)のオペラ台本のような脚本を書き、自ら映画化したもの。

ヤクザと元ヤクザが女を巡って争う悲劇。
主演はシモーヌ・シニョレ、セルジュ・レジアーニ

あらすじ

古き良きベルエポックの時代。ギャングの一味と娼婦たちがパリの郊外で船遊びをしていた。ダンスホール(Bal)を見つけて入ってみる。そこに大工のマンダが楽団の立つ舞台を仕上げに来ていた。マンダとギャングの一員レモンは刑務所仲間で旧交を温め合う。レモンがマンダを娼婦仲間に紹介すると、娼婦マリーがマンダを気に入って踊りましょうとマンダを誘う。ロランはマリーの情夫だったので、嫉妬してマンダに嫌がらせをするが、マンダはロランにKOパンチを浴びせる。そしてマンダはマリーに別れを告げて、親方とともに立ち去る

翌日レモンはマンダを探してダナール工房へやって来る。マンダはそこに住み込んでいたが、親方の娘といずれ一緒になって跡を継ぐことになっていた。
レモンがすぐ帰るとギャングたちはワイン商フェリックスの許に集まっていた。実はフェリックスがこの地区のギャングや娼婦の元締めであった。フェリックスはロランとの仲を仲裁するためにマリーを呼び出したが、内心マリーに下心を抱いていた。
その後マリーはダナール工房を訪れ、マンダを呼び出す。しかし親方の娘がこれを見ていてマリーに「私たちは婚約してる」と告げる。マリーは遊ばれたと思い込んで、マンダを打って去っていく。
その夜「ガブリエルの店」というダンスホールでフェリックスやギャング、マリーとジュリーが飲んでいる。そこへマンダがやってきて先程のマリーの誤解を解こうとする。復讐に燃えるロランがそれを見逃すわけはなく、裏でマンダと決闘が始まる。力に勝るマンダが背中を一差しでロランを殺してしまう。ダンスホールの店員が警察に連絡したため、死体の始末をする暇なく、マンダやギャングは身を隠すしかなかった。マリーは自分のせいで大変なことになったと責任を感じる。

マンダはこの際親方に暇をもらいパリから出て行く決心をする。マンダがダナール工房を引き払うと、使いがレモンのメモを持ってきた。そこには「ジョアンヴィルのウージェーヌ婆さんを訪ねろ」とあった。
ウージェーヌ婆さんの家の近くには川が流れていて、マンダは川辺で気持ち良くて寝てしまう。マリーがやって来てもすぐには起きなかったが、マリーが顔にいたずらをするうちに目が覚めて、目の前にマリーがいることに気づく。
その夜二人は愛し合い、翌日幸せな朝を迎える。
一方パリではフェリックスがマンダとマリーの行方を掴んでいた。フェリックスは知り合いの警部に犯人はレモンと告発する。レモンが逮捕されれば、レモンは口が固いので黙秘することはわかっていたが、義理堅いマンダはたまらず自首するという読みだ。
その通りマンダは自首し、マリーはマンダの命乞いのためにフェリックスの前に身を投げ出す。
しかしフェリックスは遊ぶだけ遊んだが、マンダを救う気は始めからなかった。マリーは罵ったが、逆に打たれて床に倒れた。

刑務所へ護送車で送られる中、レモンがマンダに囁く、「俺を警察に引き渡したのはフェリックスだ」。それを聞いて怒ったマンダはレモンとともに脱走する。しかしレモンは護衛の警官にライフルで撃たれてしまう。馬車を乗っ取り、「ガブリエルの店」にレモンを連れて行き、医者に見せるがレモンは亡くなる。フェリックスはレモンが亡くなったせいで、ギャングたちがよそよそしくなったと感じた。マンダから逃げるフェリックスは仕方なく警察に飛び込むが、知り合いのジュリアーニ警部はいない。そこへ警官の銃を奪ったマンダがやって来て、フェリックスは隅に追い詰められ、警官の前で銃弾六発を撃ち込まれて即死する。

マンダはすぐ逮捕され裁判で死刑が決まる。マリーは恨みを晴らしてくれたマンダの処刑を見届けるため、夜中から見晴らしの良い部屋を借りた。朝になり処刑が始まるまで一睡もできなかった。107番の囚人服を着たマンダは両脇を屈強な男に抱えられ、首をギロチンの下に固定される。と思うと、一瞬でマンダの首と胴体はバラバラになっていた。その様子を瞬きもせず見ていたマリーは、マンダの死を実感して初めて緊張が解けて目眩がした。

雑感

原題の意味は「黄金のカブト」、金髪の彼女が街に出る時、すごい髪型をしているが、あれをカブトと言っている。いわば娼婦の武装だ。ところが男と寝るときは髪を解いてロングヘアーを晒すのだからギャップがかなり大きい。
その辺は日本の高級花魁もそうだから、日本人には良くわかる世界だ。
しかし邦題じゃ、エロ映画のようで見る気がしない。

マリーと関係なく、この話は元ヤクザと現ヤクザの争いだし、義理人情に厚い主人公と計算高いが薄情なギャングのボスという構図は、日本映画でも似たような話があった。

末端のギャングもまたボスの薄情さを知り、誰も助けようとせず、最後はボス対マンダの一対一の対決に持ち込まれる。

この辺りは末端のヤクザとは言え、義理と人情を秤にかけりゃ人情が重くなるのだから、フランスやラテンの方が日本より理想的なヤクザの世界ではなかろうか。

個人的にはシモーヌ・シニョレの垂れ目のカエル顔(平たくて横に長い)は苦手である。でもこの作品は彼女のピークの時期に撮影した作品だろう。幾多の可愛らしい彼女の表情が映像に残されている。

スタッフ

監督 ジャック・ベッケル
原案 ジャック・ベッケル 、 ジャック・コンパネーズ
脚色 ジャック・ベッケル
台詞 ジャック・ベッケル
撮影 ロベール・ルフェーヴル
音楽 ジョルジュ・ヴァン・パリス

キャスト

娼婦マリー シモーヌ・シニョレ
大工マンダ  セルジュ・レジアニ
ギャング元締めフェリックス・ルカ  クロード・ドーファン
ルカの部下レモン レイモン・ビュシェール
ルカの部下ロラン  ウィリアム・サバチエ
大工の棟梁ダナール ガストン・モド
ジュリアーニ警部  ポール・バルジュ
カフェの主人 ダニエル・マンダイユ
娼婦ジュリー ドミニク・ダブレ
署長 トニー・コルテジアーニ

肉体の冠 Casque d’Or 1952 ロベルト&レイモンド製作 パリ・フィルム配給 新外映=NCC国内配給 ジャック・ベッケル監督作品

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