アレクサンドル・デュマ父原作の「巌窟王」をベースにして、若者の恋と冒険を描くアクション映画。
青木義久の原案を、相良準と松木功が脚本化し、志村敏夫が監督、友成達雄が撮影した。
主演は前田通子、宇津井健。
共演は丹波哲郎、藤田進、三ツ矢歌子、天知茂など。白黒映像。
あらすじ
三信貿易の社員木崎芳男は、香川夏岐と婚約している。浅沼専務と夏岐が海外出張から帰国後に、木崎と夏岐は結婚式を挙げる予定だ。
木崎は浅沼専務の用事で箱根の別荘に社長を訪れた。木崎が帰った夜、社長は何者かに射殺され、数時間後には会社の金庫から現金が紛失した。翌日経理部長が開いた時には金庫には会社の小使の死体が入れられていた。犯行当日、社長の別荘を訪れたのが木崎だけだったため、浅沼専務と恋人香川夏岐が出張に出かける船を見送った直後に、木崎は逮捕された。
南方洋上の船に、共犯として香川夏岐を逮捕せよと連絡が届いた。浅沼専務は無罪にしてやるからと、夏岐を言いなりにしようとする。だが夏岐は、浅沼に不審感を抱いた。夏岐は浅沼から逃げようとして、海中に落ちてしまう。
南海の孤島に流れ着いた夏岐は、以前に漂着していた男五人組に助けられる。しかし彼女をめぐって、男たちは争い殺し合い、結局夏樹と石塚老人、彼の娘アキと婚約している山内の三人が残った。
素潜りができる夏岐は、海で真珠貝の大群を見つけた。二年後、米国船に助けられた夏岐は、女真珠王ヘレン南と名乗って石塚、山内と組んで貿易商となり日本に戻った。木崎は拘留されて判決を待つ身であり、実母が既に亡くなったと知った夏岐は、木崎の妹雪子と会って、真実を明らかにすると誓った。
調査の結果、三信貿易の社長に昇格した浅沼と専務に昇格した殺人の実行犯野口が、会社乗っ取りのために社長を亡き者として、ついでに木崎を陥れたことがわかる。山内は莫大な資金を使って、株式を空売りして、三信貿易の株価を暴落させる。
一方、浅沼はヘレン南の正体が、海に消えた夏岐だと疑っていた・・・。
雑感
大蔵貢が新東宝社長時代の前田通子が主演したヒット作品。
この作品は、後の海女シリーズの先駆けとなった映画でもある。この映画で初めて豊満な手ぶらヌードを見せた前田通子は新東宝映画お色気路線の主役に躍り出た。個人的には久保菜穂子と高倉みゆきが好みだが、ぽっちゃりした三原葉子と比較すると前田通子の方が上かな。
三ツ矢歌子は新東宝第四期スターレットの一人で万里昌代と同期である。これは、1956年デビュー後すぐの作品だが、万里昌代と役の大きさで差をつけた。若い頃は久保菜穂子をぽっちゃりさせたようなタイプだった。但し同期生で長く芸能界で活躍したのは、ヒロインとしての三ツ矢歌子でなく、いじめ役に徹した原千佐子である。
宇津井健は主役扱いだが、出演時間は前田通子と比べてはるかに短い。藤田進はこの頃は悪役で、戦前に黒沢明監督「正続・姿三四郎」のタイトルロールだったが、この映画の最後に宇津井健に一本背負いで投げ飛ばされていた。
丹波哲郎は、大物感を当時から持っていたが、昭和30年代はまだ若くて智将タイプではない。
この映画が物語「モンテ・クリスト伯(巌窟王)」をベースにしているのは、すぐ分かる。他にも1951年に起きて、孤島の漂着者同士で女を巡って殺し合いをした「アナタハンの女王事件」をベースにしているようだ。
天知茂の役は漁師だったが、米国に救出されてからは夏岐の参謀役となり、相場師として三信貿易株価引き下げを実行する。インテリ役を得意とした天知茂らしい配役だが、最初に漁師であり、二年間も漂流していたのに、そう簡単に変身できるものか?
スタッフ
製作 星野和平
企画 松崎啓次、小野沢寛
原案 青木義久 「小説と読物」連載
脚色 相良準、松木功
監督 志村敏夫
撮影 友成達雄
音楽 松井八郎
キャスト
香川夏岐 前田通子
木崎芳男(受刑者) 宇津井健
木崎の妹雪子 三ツ矢歌子
浅村健二(専務) 藤田進
野口吾郎(浅村の子分) 丹波哲郎
漁師山内雄三 天知茂
漁師石塚良平 沢井三郎
漁師五味大助 芝田新
漁師坂巻銀次郎 宮原徹
漁師のっぽの虎 菊地双三郎
石塚の娘アキ 遠山幸子
野口の元愛人戸田美代 光岡早苗
青木蘭子 保坂光代
夏岐の母まさ 藤村昌子
野口の手下とんびの松 高村洋三
水野松左衛門 林寛
経理部長松井 小倉繁
人事課長大林 山田長正
小使 石川冷
女子社員C 万里昌代
ネタばれ
野口は、夏岐を盗聴して素姓を見破る。同じ日に妹から真相を知った木崎が脱獄した。
夏岐と対決した野口は、横浜の愚連隊に周囲を囲まれて、黒幕が浅沼だという告白をテーピに吹き込まされる。
山内は取引先の外人を使って、浅沼を横浜のクラブに誘き寄せる。浅沼は追い詰められて逆に拳銃を突きつける。野口が元の愛人美代に撃たれ、浅沼はそこにやって来た木崎に倒され、警察に捕縛される。
復讐を果たして数年ぶりに会った夏岐と木崎は、晴れて抱き合った。