女性の異常心理を描いたフィルム・ノワールの一作。テクニカラー作品で、アカデミー撮影賞(カラー部門)を受賞した。主演の一人であるジーン・ティアニーは前年の「ローラ殺人事件」がアカデミー撮影賞(白黒部門)を受賞したのに続いて2年連続でオスカー作品に出演した。それだけ当時の彼女が撮影意欲の湧く被写体だったのだろう。
Synopsis:
作家のリチャードは知人ロービー氏に招待されている。列車で偶然隣に座った女性が自分の本を読んでいたことから親しくなる。彼女はエレンといい、義母、義妹ルースと一緒にロービー氏を訪ねていた。実はエレンは父の遺灰をニューメキシコの荒野に撒きに来たのだ。
エレンを気遣うリチャードに彼女は好意を寄せ、彼も憎からず思っている。しかし彼女の婚約者クイントンが突然現れて、彼女から突然婚約破棄を申し入れられたと言う。彼女は婚約者との別れ話をまとめて、晴れてリチャードに正式プロポーズする。リチャードは彼女のパワーに押し切られて承諾してしまう。
結婚後、リチャードは障害を持つ弟ダニーと同居を選ぶ。エレンは内心で二人きりの生活を望んでいた。田舎の別荘に移って、エレンの義母とルースも遊びに来る。エレンは見るからに不機嫌になり、周囲に当たり始める。義母とルースはそそくさと退散するが、エレンの嫉妬はダニーに向けられる。ある日、ダニーをボートで泳ぎに連れ出して、溺れたところを放置して死なせてしまう。エレンは事故死を主張したが、リチャードは泳ぎの得意なエレンが付いていながら、ダニーを助けられなかったことに疑念を抱く。
田舎の別荘から出たが、リチャードとエレンの間に溝が出来てしまう。義母やルースはエレンに子供を作れば良いと教える。数ヶ月後、エレンは妊娠するが、お腹が大きくなるたびに自分が醜くなる不満を募らせる。
ある日、リチャードとルースが子供ものを買い物に行ったのだが、医師に運動を止められたエレンは、ルースがリチャードに媚を売っているのでないかと思うとジッとしてられない。思い詰めて、ハイヒールを履いて歩き階段から落ちて赤ちゃんを流産してしまう。
この事件の後、リチャードはエレンを追求し、ダニーの事件と流産について全てを告白させる。そして愛想が尽きて出て行ってしまう。ルースもメキシコへ一人旅すると言う。どうせ、二人はどこかで落ち合って愛し合うんだ。エレンの嫉妬は止まらない。その挙句、毒を入れた砂糖でコーヒーを飲み自殺する。その際、私は殺され犯人はルースだという告発書を地方検事になっていたクイントンに送っていた。
ルースは収監され起訴されるが、裁判でリチャードの証言が決め手となり無罪を勝ち取る。その代わりダニー殺しの犯人秘匿罪2年の実刑を受ける。
そして2年後、釈放されたリチャードはルースが待つ思い出の別荘へ向かう。
この映画は女性の異常心理が主題だが、当時は健常者の中に紛れ込んでいる異常者という主題がニューロティック・ブームに乗って取り上げられ始めた時代だった。40年代のフォックス映画で「哀愁の湖」は最も売れたそうである。
なお1980年代から90年代にかけてニューロティック・ホラーは全盛で、「冬彦さん」とか現れた。
ジーン・ティアニーは真に迫ったファム・ファタールの演技でアカデミー女優賞にノミネートされたが、この年はたまたまジョーン・クロフォードが受賞した。巡り合わせが悪すぎた。
コーネル・ワイルドはイケメン作家役だ。微妙な表情がまだ苦手の印象。もともとフェンシングのオリンピック代表だったが、ブロードウェイ出演を優先させて代表を辞退したという。「楽聖ショパン」で主演男優賞にノミネートされる。晩年は自ら監督、製作、脚本、主演でカルトムービーをいくつか作る。
この映画だとジーン・ティアニーはファムファタールの役だが、癒し型ヒロインはジーン・クレインだ。映画ではひたすら耐える義妹の役で印象を残した。あまり綺麗とは思わないが、気楽に話し掛けられそうな雰囲気を持っている。
この後、「三人の妻への手紙」、「ピンキー」に主演して「ピンキー」でアカデミー主演女優賞のノミネートされた。
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監督 ジョン・M・スタール
脚本 ジョー・スワーリング
原作 ベン・エイムズ・ウィリアムズ
製作 ウィリアム・A・バッカー
製作総指揮 ダリル・F・ザナック(クレジットなし)
音楽 アルフレッド・ニューマン
撮影 レオン・シャムロイ
出演
ジーン・ティアニー:エレン・ベレント
コーネル・ワイルド:リチャード・ハーランド
ジーン・クレイン:ルース(エレンの妹)
ヴィンセント・プライス:ラッセル・クイントン(地方判事)
哀愁の湖 (Leave her to Heaven)1945 20世紀フォックス / 勢いで結婚するのは止めましょう

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