ホモ・セクシャルに関わる問題をテネシー・ウィリアムズが描いた舞台戯曲を、原作者とゴア・ヴィダル(二人はゲイ)が脚色し、ジョセフ・L・マンキウィッツが監督した問題作品。

主演は、エリザベス・テイラーモンゴメリー・クリフト
共演はキャサリン・ヘップバーンマーセデス・マッケンブリッジ。製作はサム・スピーゲル。白黒映画。

あらすじ

1938年、アメリカでも保守的な町ニューオーリンズの話。
州立病院の若き脳外科医クックロウィッツ博士は、旧式の設備の中でロボトミー脳手術を成功させて、話題になる。
博士は、市の有力者であるビネブル夫人(未亡人)に招かれ、ロボトミー手術を姪キャサリンに施すように依頼される。その代償として、寄付金で新式設備を揃えた病院を建設する予定だ。

未亡人は、去年の夏、突然に息子セバスチャンが心臓麻痺で死んだと語る。キャサリンは、そのとき彼と一緒にスペインへ旅行していた。それ以来、キャサリンは発狂したと言う。
裕福なセバスチャンには、詩作の才能があり、毎年夏に母と旅行をして一作だけの「夏の詩」を書いていた。彼は、ガラパゴス群島で、肉食の海鳥の群れを見た。海亀の子が生まれ、海に向かってひたすらに這っていく。そんな子供たちを舞い下りた海鳥がむさぼり食っているのだ。そのとき彼は、「神を見た」と言った。

博士は、キャサリンに会ってみた。しかし、手術を要するようには見えなかった。彼女がセバスチャンの旅行に同行したのは、舞踏会の夜、処女を奪われたのに、相手には妻がいて捨てられたのを、彼がなぐさめられるためだった。スペイン当局の死亡証明では、セバスチャンは、心臓マヒで墜落死したことになっていた。しかしキャサリンは、その時の彼の死に関して、何かトラウマがあって記憶喪失になっていた。

未亡人は、貧しいキャサリンの母や弟を買収し、キャサリンの手術承諾書にサインさせ、無理に手術させようとした。博士が渋ると、他の病院の脳外科医に依頼すると言う。博士は、一日だけ猶予をくれという・・・。

雑感

ヘイズ・コードのためにテネシー・ウィリアムズゴア・ヴィダルの映画脚本の段階から検閲されて、難解な映画になってしまった。DVDで見たから、かなり復元されていたが、それでも象徴的なところが多い。少年たちが楽器を鳴らして、セバスチャンを海鳥のように貪り食うのは何故だろうか。ゲイにしかわからない、深い意味があるに違いない。

もっとも、ヘイズ・コードがあろうと無かろうと、成人映画指定にすべきだ。腐女子以外は、R25でも良いと思う。腐女子と呼ばれる女性は、この手の文学に興味を持っていないのは残念だ。

ミステリー仕立てのところがあるが、最後は自白剤一本で全てが明らかになった。もう少し、テネシー・ウィリアムズにミステリーの素養があれば良かったと思う。

モンゴメリー・クリフトは、マーロン・ブランド共演の「若き獅子たち」撮影後に、交通事故を起こして顔に深い傷を負った。整形手術である程度は治ったが、それまでイケメンで売っていただけにダメージは大きかった。
彼は、ゲイでもあった。おそらく、美女が顔に傷を負うのと同じ気持ちになったのだろう。
若い頃のGFで一時は付き合っていたエリザベス・テイラーが、友人としてモンゴメリー・クリフトに救いの手を伸ばし、キャサリン・ヘップバーンも加えて「去年の夏、突然に」の共演が決まった。クリフトは撮影中、ゲジゲジ眉毛を伸ばして、かつての格好良さは見られなかった。キャサリン・ヘップバーンは、仕事場で蝶よ花よと甘やかされるクリフトを見て、苦虫を噛み潰していた。

この作品の出演後、モンゴメリー・クリフトは性格俳優に転向するが、ドラッグやアルコールに逃避して、映画出演本数が次第に少なくなり、ついにはアルコール中毒を発症して心臓麻痺で亡くなる。

エリザベス・テイラーに関しては、この映画は演技開眼を見せた作品だ。とくに最後の記憶をとり戻したときの鬼気迫る様子はすごい。キャサリン・ヘップバーンも彼女の実力を認めざるを得なかっただろう。

アカデミー助演女優賞を1949年「オール・ザ・キングスマン」で受賞したマーセデス・マッケンブリッジを久しぶりに見た。舞台人らしく、映画でも異様なエネルギーを放出して、ジョーン・クロフォードと映画「大砂塵」で殺し合いをした人だ。それが、今回のキャサリンの母役は、姉に生活を依存しているケチな女だったので、今までの役と違いすぎて、全く気が付かなかった。役者ってのは千の顔を持つというが、その通りだと思う。

スタッフ

監督  ジョセフ・L・マンキーウィッツ
製作  サム・スピーゲル
脚本  ゴア・ヴィダル
脚本、原作戯曲  テネシー・ウィリアムズ
撮影  ジャック・ヒルドヤード
音楽  ボクストン・オウ、マルコム・アーノルド

 

キャスト

キャサリン・ホリー  エリザベス・テイラー
ヴァイオレット・ヴェネブル未亡人  キャサリン・ヘップバーン
ククロヴィッツ医師  モンゴメリー・クリフト
ホックステッダー院長  アルバート・デッカー
母ホリー夫人  マーセデス・マッケンブリッジ
弟ジョージ・ホリー  ゲイリー・レイモンド
ミス・フォックスヒル(秘書)  マヴィス・ヴィリアーズ
ベンソン看護婦  パトリシア・マーモント
シスター・フェリシティ  ジョーン・ヤング

 

***

翌日、博士はビネブル邸に未亡人や親族、病院関係者を集めて、彼らの目の前で、彼女に自白剤を飲ませて、あのときの事を思い出させた。
同性愛者だったセバスチャンは、美しい女を連れて歩き回り、いい男を集めていた。はじめは、美しい母を連れ回していた。しかし、昨年母は病に倒れた。そこで、代わりに若いキャサリンを連れて行った。
スペインの海水浴場で、彼女に水着を着せ、飢えた男たちを集めた。二人が食事していると、少年たちが、「パン、パン」と叫びんで集まってきた。セバスチャンは、堪らなくなり逃げ出したが、少年たちは打楽器を鳴らして追いかけて来た。そしてキャサリンは、セバスチャンが彼らに襲われ、裸に剥かれて傷だらけになって死んでいくのを見たのだ。

芸術家肌の息子がホモセクシャルであることを知っていた未亡人は、キャサリンの記憶をロボトミー手術で封印したかったのだ。しかし、キャサリンの記憶が明らかにされ、今度は未亡人の精神バランスが崩れ、発狂してしまった。いや、息子が死んだときから発狂していたのかもしれない。
博士は、全てを思い出して正気に戻ったキャサリンに優しく手を差し伸ばした。

 

 

 

去年の夏突然に Suddenly, Last Summer 1959 ホライズン・プロ製作 コロンビア配給 テネシー・ウィリアムスの問題作

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