英国人のマイケル・ラドフォード監督が、イタリアの小島に渡って撮った「イルポスティーノ(郵便屋さん)」
ルイス・バカロフの美しい音楽がアカデミー作曲賞を獲得した。
マリオ(マッシモ・トロイージ)は島の漁師の息子。
かなりの年だが病弱で無口。定職に着いたことはなかった。
そんな彼が初めて得た職が郵便配達。
早速、配達した先は、ノーベル賞詩人でチリから亡命している、反政府系活動家パブロ・ネルーダ(フィリップ・ノワレ)。
何度か配達に訪れるうちに、二人は親しくなる。
マリオは詩が好きで、パブロに教えを受けるようにまでなった。
パブロも、素朴な島の生活の中で磨かれた、マリオの汚れない感性をまぶしく感じる。
マリオは恋に落ちる。
島の食堂の美しい娘ベアトリーチェだ。
とても不釣り合いな二人だったが、パブロは二人の間を取り持ってやる。
マリオはパブロの詩を借りて、想いをうち明けた。
娘はマリオの純粋な想いとそれを伝える詩に感動し、伯母の反対にも関わらず、二人は結ばれてしまう。
パブロは結婚式の立会人となる。
しかし披露宴の最中、パブロに帰国許可が届けられる。
パブロがサンチャゴに去った後のマリオは、もはや配達人のマリオではなかった。
パローレ(言葉)の力を得たマリオは、反体制詩人として共産党活動に参加する。
しかし、そのことで彼は悲劇に襲われる。
☆
口を聞かなくたって十分生きていけるような離れ小島で生活した男が、言葉の力を知ってしまったばかりに起きた悲劇が主題だが、美しい音楽と美しい風景映像で、淡々と描かれている。
主役のマシモは、病弱な雰囲気を上手に出している。
凄い役作りだなあと思ったら、この映画のクランクアップ直後に亡くなったそうだ。
本物の病人を使って撮るなんて、恐ろしい。
有名なフランス人俳優フィリップ・ノワレが演じる、パブロ・ネルーダは実在のノーベル賞作家。
彼の創った詩が映画の中で頻繁に使われる。
ヨーロッパ映画を見ていると、たとえば「美しき諍い女」もそうだが、芸術の神髄みたいなものに簡単に踏み込んでいく。
この映画は詩の美しさ、素晴らしさ、恐ろしさみたいなものを伝えてくれる。
あまり詩は得意ではなかったが、この映画を見ると詩に親しみを感じるから不思議。