時代も変わったと言われた。かつての男臭い時代劇ばかり撮っていた東映京都撮影所が、若手女優である藤純子を主人公にしてシリーズ映画「緋牡丹お竜」を撮る時代になった。
製作は俊藤浩滋、監督は山下耕作、脚本は鈴木則文
主演藤純子、特別出演高倉健、共演は山本麟一、待田京介、大木実

あらすじ

明治18年。熊本の矢野組組長だった父の仇を追い求める、博徒緋牡丹お竜が胴師のイカサマを見破り、地元のヤクザに追われ危ないところをヤクザ片桐が助けてくれる。片桐はお竜が何故女だてらに博打を打つのかと聞く。そこでお竜は父の仇の残していった財布を証拠として見せるが、そこに再びヤクザがやって来たので、二人は別れてしまい、財布を片桐に持ち去られてしまう。
かつての子分フグ新が道後温泉でヤクザと揉め事を起こしたと聞き、お竜は道後温泉に駆けつける。岩津一家とフグ新をかくまう熊虎一家の出入りが起きる前に、お竜は単身で岩津に乗り込み、自分の命を投げ打って揉め事を収めてしまう。
熊虎一家の代貸富士松が好きな女に会いに大阪へ行くと言うので、お竜のキップの良さに惚れ込んだ大阪の女侠客・堂万おたかはお竜、フグ新も堂万一家に草鞋を脱いでもらうことにする。

千成一家の新興ヤクザ加倉井一味が大阪の再開発を一手に引き受けていた。加倉井にとっては堂万一家が目の上のタンコブであり、何かと嫌がらせしてきていた。片桐は加倉井の兄貴分であり、かつてあの財布を片桐に与えたことがあった。加倉井は辻斬りの罪を認め、お竜と会ったら償いに何でもすると答える。
富士松と恋仲の芸妓を身受けしようとする加倉井に初めて対した竜子は手下を呼ばれ手寵めにされそうになるが、そこに片桐が現れ、加倉井に約束が違うとビンタする。
おたかの息子吉太郎が加倉井一味に拐われる。お守り役を仰せつかっていたフグ新が加倉井の屋敷に潜り込み、加倉井の顔を一目見てすべてを悟る。フグ新は加倉井の部下に斬られるが、片桐によって助け出される。加倉井はこれで兄弟分の杯を返すと片桐に告げる。フグ新は竜子に会うと片桐と共に真相を打ち明け、安心して息を引き取る。
怒りを爆発させる竜子は富士松と一緒に加倉井一味に殴り込みをかける。富士松はダイナマイトを投げつけ子分を追い払い、竜子は加倉井とサシで戦う。しかし加倉井は元は侍であり、お竜の父親を一刀のもとに切り捨てたほどの腕前だ。そこに片桐が現われ、お竜を庇い加倉井と差し違える。片桐は「俺が竜子を人殺しにはしたくなかった」と言い残し、息を引き取る。
後日、お竜はおたかと富士松を後見人に付けて、矢野組二代目襲名の口上を述べる。

雑感

こんな気品のある東映映画を見たのは何年ぶりのことか。市川右太衛門御大の「旗本退屈男」か月形龍之介の「水戸黄門漫遊記」以来ではないか。エロに決して走らず、ひたすら様式美を追求している。ただしそのためにも印象的なシーンで必ず登場する「緋牡丹」(赤い牡丹)ぐらい造花でなく、生花を使って欲しかった。
藤純子東映京都撮影所のプロデューサー俊藤浩滋の娘である。俊藤は博徒であり、戦前の神戸港を仕切っていた神戸五島(ごしま)組の杯を受けた人で、個人的にキャバレーやナイトクラブを経営していた。東映の岡田茂とも昵懇で、岡田が時代劇が不振に陥った東映京都撮影所のテコ入れのため鶴田浩二を東宝からトレードで譲り受けようとしたとき、東宝や鶴田との間で交渉に動いたのが俊藤である。鶴田浩二が久々に任侠映画「人生劇場飛車角」の大ヒットをおさめて、調子付いた岡田茂は自ら京都撮影所長の肩書きを付けて乗り込み、時代劇から任侠路線に強制的に転換させる。俊藤も東映プロデューサーとしての実力を発揮していくが、その過程で自分の娘さえ使ったのである。
藤純子も素顔に戻れば、ゴーゴーも踊りたいただの女の子であり、お竜役は重荷だったろう。それでも元々宝塚志望だったぐらいだから、演技することは嫌いではなかった。生まれ育ちもお竜と重なる部分があり、その上うるさ型の東映京都のスタッフを黙らせるだけの清潔さと色気があった。この配役は彼女の運命と言えた。

ちなみにこの作品と同様に、1966年に江波杏子が主演した大映映画「女の賭場」でも冒頭はイカサマ博打のシーンである。しかし江波杏子演ずる「昇り竜のお銀」はイカサマをした胴師の娘であり、自らもクールな胴師として成長する現代の物語。大映の方が複雑な背景を持ったドラマだ。
それに対して緋牡丹お竜は明治初期の人間で、イカサマを見抜く側の正義の人だ。東映はお竜に、任侠道の義理人情に加えて、時代劇のように勧善懲悪に近い様式美を追求して、先発の大映「女賭博師」シリーズと完全に差別化した。そしてこれを漫画にしてしまったのが、タランティーノも愛した東宝映画「修羅雪姫」シリーズだ。

スタッフ

企画 俊藤浩滋 、 日下部五朗 、 佐藤雅夫
脚本 鈴木則文
監督 山下耕作
撮影 古谷伸
音楽 渡辺岳夫

キャスト

緋牡丹お竜  藤純子(後に寺島純子、富司純子)
熊坂虎吉 若山富三郎
フグ新 山本麟一
熊坂清子  若水ヤエ子
不死身の富士松 待田京介
滝沢  疋田圀男
岩津源蔵  金子信雄
お神楽のおたか 清川虹子
吉太郎  山城新伍
君香  三島ゆり子
加倉井剛蔵  大木実
蛇政  沼田曜一
矢野仙蔵  村居京之輔
片桐直治 高倉健

緋牡丹博徒 1968 東映京都製作 東映配給

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