(☆)尾崎士郎の原作小説を杉本彰中川信夫が脚色し、中川信夫が監督した伝記映画寛政の名大関・雷電為右衛門の青春後記を描いた作品。

主演は前編に続いて宇津井健北沢典子
共演は沼田曜一、池内淳子、坂東好太郎。白黒映画。

 

あらすじ

太郎吉とおきんがまさに心中しようとしたとき、狂歌師として有名な大田蜀山人が現れた。蜀山人は、本多中務大輔(忠顕)のことなら引き受けるから、心中を思い直すように諭す。
旗本の大田蜀山人が、間に入ったので本多忠顕としてもことを荒立てるわけにいかず、一旦引いた。しかし、おきんの恋人が白根山と知った本多忠顕は、十両白根山と小結関ノ戸の取組みを相撲会所に命じて無理に作らせ、関ノ戸の頭突きで白根山を壊そうと考えた。

白根山は、茶店で酔った侍に追われている娘お八重を助けた。これが運命の出会いになろうとも知らずに。
秋の江戸場所、白根山は、関ノ戸と戦って頭突きを受け止め、出し投げ気味に倒した。怒った本多忠顕は、白根山の江戸場所出場禁止と、谷風部屋の力士の翌夏の大坂場所について出場停止を申しつけた。
一方、おきんは大田蜀山人の家に匿われていたが、そこへ本多の手下どもが乱入してきた。しかし、おきんは急いで一人で旅に出る。ちょうど関取江戸嵐が、法事で小田原に実家に帰るので同行させてもらうことにした。しかしヤクザの久八一味に捕まってしまう。久八は、伊東の関取大岩の許に厄介になり、おきんを嬲っていた。

谷風は、小田原方面の巡業に出ると、地元の相撲取り大岩に因縁をつけられた。谷風に代り白根山が大岩と対決し、その両腕をへし折った。
そこへ腕を斬られた江戸嵐が、助けを求めてきた。白根山は、おきんが伊東のあいまい屋に監禁されたと聞いて駈けつけたが、すでに彼女は伊豆へ逃げていた。
蜀山人は、本多忠顕に秋の江戸場所で大関小野川と前頭白根山の取組を約束させた。松平出雲守は、この機会に出雲にちなんだ「雷電」という四股名を白根山がつけることを認めた。
商家常州屋の娘であったお八重は、雷電の熱烈なファンになり錦絵を買い占めるほどになった。ある夜、本多家の倉橋に唆されてしまい、恐怖の余り懐剣で彼を刺殺した。お八重の父常州屋彦兵衛は罪を着るため、雷電に「お八重をよろしく」と言い残しその場で自害した・・・。

雑感

映画にも助平な殿様として描かれる本多中務大輔忠顕は、西条藩松平家の次男坊から岡崎藩主の養子に入り跡を嗣いで、幕閣にまでなった大名だが、浪費家で藩の財政を傾かせたバカ殿だった。
岡崎藩本多家と松江藩松平家は因縁のある関係だった。あるとき、江戸相撲から引退後の雷電が松江藩ゆかりの寺に梵鐘を寄贈し、彼の親友だった大田蜀山人が相撲をイメージしたデザインにした。それを知った本多忠顕が、関係者を呼び付け取り調べた上に雷電は江戸処払いとなった。それぐらい、本多家と松平家の間には確執があったわけだ。
しかし、雷電の十両時代に既に遺恨があったのは、尾崎士郎の創作ではないか。そのとき、本多忠顕はまだ子供だ。

池内淳子が出て来たので、北沢典子は出番なしかと思ったら、ラストに雷電と二人で会う場面、北沢典子の見せ場たっぷりのシーンだった。好きだから好きな人に思うように仕事をさせてあげたいので身を引くという気持ちが芽生え、色々な経験をして嫌々大人になってしまったということがその表情一つでわかる。しかもなかなか綺麗に撮られていて愛しい。
池内淳子は、柳沢慎一と離婚して新東宝への出戻りだったから、冷や飯を食わされていた時期だ。物の本には1960年に新東宝の専属に復帰したとあるが、事実上は1958年から新東宝作品に復帰している。これはフリーとしての復帰だったのか。だから、出番もセリフも少なめだ。

大田蜀山人役の沼田曜一は、とぼけた味の好演が光る。

スタッフ

製作総指揮  大蔵貢
製作  山梨稔
企画  柴田万三
原作  尾崎士郎
脚色  杉本彰
脚色、監督  中川信夫
撮影  西本正
音楽  小沢秀夫

キャスト

太郎吉  宇津井健
おきん  北沢典子
大田蜀山人  沼田曜一
常州屋彦兵衛  倉橋宏明
お八重(常州屋の娘)  池内淳子
大岩岩右衛門(小田原の相撲取り)  岬洋二
田沼意次  広瀬康治
松平出雲守治郷  伊達正三郎
小野川  佐伯秀男
谷風  坂東好太郎
江戸嵐  舟橋元
関ノ戸  御木本伸介
沓掛の久八  小林重四郎
深部五郎松  芝田新
旗本倉橋  三村俊夫
錣山  信夫英一
達ヶ関  国方伝
一木左門太  中村虎彦
本多中務大輔  江見俊太郎
おゆり  小畠絹子
茶店で酔った旗本  村上不二夫

 

***

八重は、蜀山人の世話で松江藩江戸屋敷に奉公に上がった。
千秋楽。江戸場所で本多忠顕お抱えの大関小野川と松江藩お抱えの関脇雷電の取り組みが行われ、本多忠顕夫妻も観戦した。しかし小野川は、雷電の放った上手投げに思わず土俵を割る。これで雷殿が優勝した。
松江藩江戸屋敷で祝勝会が行われ、雷電とお八重の結婚式を出雲で行うことが決まる。それには、雷電は不服であり、おきんに一目合わせて欲しいと、谷風に訴え出る。
そこで、谷風がおきんを説得すると言って、まずおきんと差しで会う。谷風は、相撲取りはスポンサーである殿様に逆らえないことをコンコンと言って聞かせるが、彼女は泣いて「太郎吉と会わせて」の一点張りだ。仕方なく谷風は二人を会わせる。
おきんは、初め太郎吉さんに会えたことを喜んだが、太郎吉が相撲を捨ててお前と一緒になると言ったら、おきんは態度を豹変させる。彼女は、二人は生きる道が違うと言い放つ。かつて可愛かったおきんからすると、考えられないほど苦労を重ねてきたのだ。そして、飛び出していってしまう。
松江藩参勤交代の大名行列に同行する雷電とお八重は東海道を下っていった。その姿を、離れた木陰からおきんが涙を堪えて見送った。

続・雷電 (1959.11) 新東宝製作・配給 映画「雷電」の後編

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