1978年には大晦日の世界名画劇場で放送されていた。
19世期末のウィーンを舞台に天才ピアニストに令嬢がが憧れ身を投げ出すが、その後ピアニストは音信不通になり令嬢は身篭り修道院で子供を産む・・・。
女性の波乱の人生を描く物語。最後は悲劇的な結末が待っている。

著名な評伝作家のユダヤ系オーストリア人シュテファン・ツバイクの原作をもとに戦中から渡米していたフランスの名監督マックス・オルフュスが映画化した。
主演は後の聖心インターナショナル・スクール出身でオスカー女優ジョーン・フォンテイン、共演はフランスのルイ・ジュールダン。白黒映画。スタジオ収録。
吹き替えによるピアノ演奏はユダヤ系ポーランド人ピアニストのヤコブ・ギンペル
日本公開は1954年。

あらすじ

19世紀末、チフスが蔓延しているウィーンで、かつては一世を風靡したピアニストだったシュテファンは決闘を申し込まれていた。卑怯者のシュテファンは夜逃げするつもりだったが、執事ジョンが女性からの手紙を運んでくる。「見知らぬ女性から手紙」には彼女の一生が描かれていて、シュテファンは時間が刻限に近づくのも忘れて読み入ってしまう。

彼女(リズ)が16歳の時、シュテファンが彼女の住んでいる下宿に越したそうだ。彼女は一目でシュテファンに夢中になり、ピアニストに相応しいレディになろうと色々習い事を始めた。でも自分から彼に話しかける勇気はなかった。
彼女に転機が来た。父を早く亡くした母がお金持ちカストナー氏と再婚を決めて、リンツに転居するのだ。最後の思い出に一言シュテファンに別れを告げようとするが、彼は女を帰ってきて女を連れ込んだのを見てやめた。

リンツに移り、やがてリズにも将校フォン・カルトネガーとの間に結婚話が出た。しかし将校に対して、リザは愛する人をウィーンに残してきたと言ってしまい,破談になる。
義父に愛想を尽かされたリザは再びウィーンに出てきたが、仕送りがないためシュピツァー夫人の洋装店でモデルのやって食いつないだ。ある日、シュテファンとばったり再会する。彼はすっかり垢抜け大人っぽくなったリザを誰だかわからないが、美しい女性だと認識してナンパする。彼女はシュテファンのピアノに対する信者だったので、彼は強い彼女を興味を持ち下宿にお持ち帰りする。
翌日会う約束もしていたがシュテファンは、ベネチアでのコンサートを忘れていたので、二週間後に戻ってくると言ってウィーン駅から旅立って行く。それ以来シュテファンは戻って来ず、リザはシュテファンの種を身篭ってしまう。リザは子供の父の名を明かさず修道院の病院に入って、一人で産む。

数年後、リザは貴族ヨハン・シュタウファーと結婚して、息子シュテファンも一緒に引き取られる。久々に夫婦水入らずでオペラを鑑賞に出掛けるが、久々にウィーンへ戻ってきたシュテファン(父)と再会する。リザはピアノを辞めてしまった彼を放ってはおけない気分になる。翌日息子を暖かいベネチア行きの列車に乗せて見送った。実はその列車からチフス患者が出たのに彼女は気付かなかった。

彼女は一人でシュテファン(父)の下宿に向かう。その様子を馬車から夫ヨハンが尾けていた。
下宿に上がると、昔から親切だった執事のジョンが出迎える。やがてシュテファン(父)も出てくる。
しかしシュテファン(父)は貴婦人になった現在の自分と娘時代の自分が同じだと気付かない。リザは彼が自分とのことを一夜きりのアバンチュールとしか考えていなかったと悟る。
結局、彼を見捨ててベネチアの息子の元へ戻るが、息子はチフスで急死していた。リザも息子のチフスに罹り倒れるが、最後の力を振り絞ってこの手紙を書いたのだ。

最後に修道院から「患者は亡くなったが、あなたの名前を繰り返していた」と書いてあった。シュテファンは執事のジョンに「お前は知っていたのか」と聞くと、口の聞けないジョンは肯く。
いつのまにか朝になり決闘の刻限が来ていた。決闘相手であるリザの夫ヨハン・シュタウファーの乗った馬車がやって来たようだ。立会人が扉を叩く。シュテファンはもはや逃げる気は無かった。立会人の馬車に乗り決闘場へ出かけていく。ふと下宿の門を振り返ると、初めて会った頃(14年前)のリザが微笑んでいた。

雑感

ジョーン・フォンテインは中学生ぐらいの幼い頃から十歳の息子の母親まで薄いメイクと表情だけで演じ分けている。さすがオスカー女優だ。
彼女の最も有名かつ傑作は1950年の「旅愁」だが、ともに男がだらしなかったり、煮え切らなかったり、さらに男女いずれかが天才ピアニストであるという点で「忘れじの面影」と共通点が多い。その上でバージョンアップしてるのだ。「旅愁」が傑作になったのは、「忘れじの面影」があったからである。ちなみに英米人は「旅愁」より「忘れじの面影」の評価の方が高い。

ヤコブ・ギンペルは有名なポーランドのピアニスト。ルイ・ジュールダンが登場したシーンでリストの「ため息」という叙情的な曲を弾いている。当時は戦争のためアメリカに逃げており、映画の吹き替えのため「ガス燈」など多数演奏している。

練習曲「ため息」

ランパート・プロはジョーン・フォンテーンとプロデューサーである夫ウィリアム・ドジャーが設立した制作会社で、これが第一回作品だった。

スタッフ

監督 マックス・オフュルス
製作 ジョン・ハウスマン
原作 ステファン・ツヴァイク
脚本 ハワード・コッホ
撮影 フランク・プラナー
音楽 ダニエル・アンフィシアトロフ
ピアノ演奏(吹替) ヤコブ・ギンペル

キャスト

リザ・ベルンドル嬢  ジョーン・フォンテーン
シュテファン・ブランド  ルイ・ジュールダン
母ベルンドル夫人  マディ・クリスチャンス
貴族(リザの夫になる)ヨハン・シュタウファー   マルセル・ジュルネ
執事ジョン  アート・スミス
マリー キャロル・ヨーク
カストナー氏 ハワード・フリーマン
婚約者フォン・カルトネガー中尉   ジョン・グッド
シュテファンの息子  レオ・B・ペッシン
ポーター アースキン・サンフォード
コンシェルジュ オットー・ウォールヂス
シュピツァー夫人  ソーニャ・ブライデン

忘れじの面影 Letter from an Unknown Woman 1948 ランパート・プロ製作 ユニバーサル配給

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