パトリック・クェンティンの原作「ふたりの妻を持つ男」を新藤兼人が脚色し、増村保造が監督したミステリ映画。撮影は宗川信夫

主演は若尾文子岡田茉莉子
共演は高橋幸治、伊藤孝雄、江波杏子。カラー映画。

 

あらすじ

健三は、小説家を目指していたが、夢に挫折し愛人だった順子とも別れ、婦人雑誌販売会社社長永井に請われて、その長女道子と結婚した。
何年かぶりに、水商売をしている順子に出会った。彼女は、また作家志望の小林という青年を養っていた。小林もずいぶんやさぐれていて、DVをするらしい。彼女は、自衛のため拳銃を持っていた。

小林は、順子と健三の昔話を聞いて、道子の妹利恵に近づいた。案外、利恵を簡単に落とすことができた。彼は、利恵と結婚の約束をすると、順子と別れた。そのとき順子は、持っていた拳銃を取り上げられた。。
姉道子は。二人の結婚に反対する。しかし下調べを済ませていた小林は道子に、健三と順子の過去の関係を教え、会社役員井上の横領事件、社長と井上の妻美佐江との情事をリークすると脅迫した・・・。

雑感

二人の作家志望者と二人の女が男女のもつれを演じる大映らしいドラマを予想する。しかし、まだ勢いがあった増村保造監督は、これがプログラム・ピクチャーであっても、そういう風に見え見えな撮り方はしない。

別の映画会社で間接的に張り合ってきた若尾文子岡田茉莉子が同じカットに映っているところを見ると、古い人間は違和感があるらしい。
筆者らは、70年代の五社協議崩壊後の俳優と監督のカオスが起きたのを知っているから、なんとかついて行ける。

若尾と岡田二人の関係は、同じ男を取り合った仲なのだ。しかし、岡田にとって男が出世さえしてくれれば自分は身を引くことも辞さないから、若尾に恨みはない。
若尾も岡田のそういう気持ちがわかるから、次第に態度が軟化する。今で言う「ていてい」の関係だ。

翌年、若尾文子岡田茉莉子は、再び有吉佐和子原作小説の映画化「不信のとき」で共演する。今度は、岡田が正妻で若尾が愛人だ。
そのとき二人と共演した田宮二郎がオープニングの名前順で揉めて、腹を立てた永田雅一社長に大映から追放された。これは、女性映画路線なんだから、レディ・ファーストだと思うが、田宮は自論を曲げなかったからだ。
ところが、翌年の1969年、市川雷蔵が急死してあっという間に二人の大スターを失った大映は経営不振となり、1971年に倒産する。

スタッフ

企画  三輪孝仁
原作  パトリック・クェンティン
脚色  新藤兼人
監督  増村保造
撮影  宗川信夫
音楽  山内正

キャスト

永井道子(長女)  若尾文子
永井昇平(父)  三島雅夫
永井利恵(次女)  江波杏子
小林章太郎(文学青年)  伊藤孝雄  
柴田健二(雑誌社部長)  高橋幸治
雨宮順子(小林の愛人)  岡田茉莉子
井上潤吉(雑誌社役員)  木村玄
井上美佐江(潤吉の妻)  長谷川待子
町田警部  早川雄三
永井家の女中お年  村田扶実子

***

道子は、大阪に出張すると言って家をあけた夜、大阪から飛行機でトンボ帰りして東京に戻り、部屋で小林に会い大金を渡した。それだけで済まず、道子は小林に犯されそうになり、その部屋にあった例の拳銃で彼を射殺してしまった。

新聞で事件を知った社長は、利恵が犯行時刻の直前に小林の部屋にいたと聞き、健三と利恵が一緒にいたというアリバイを作った。
しかし、拳銃と健三が以前彼女に与えた指輪が現場にあったため順子が逮捕される。犯行時刻に健三が順子に会っていたから、彼は彼女が犯人であるはずはないことを知っていた。他に犯人がいるはずだ。一日そのことを考えていて、ようやく光が見えてきた。

道子が出張から帰ってきた。健三は、小林が道子を脅迫していたことをつきとめていたので、彼女を問いただした。
道子は総てを告白した。順子が犯人でないと主張したときに、すでに会社をクビになっている健三は、たとえ道子が刑務所に入ることがあろうと待つことを決めた。健三は、道子を見捨てられなかったからだ。

しかし、道子は自殺した。
健三は、留置所から出て故郷に去る順子を見送った。健三の中にはただ空虚があるだけだった。

妻二人 1964 大映東京製作・配給 若尾文子と岡田茉莉子の演技合戦が見もの

投稿ナビゲーション