作家村松友視の祖父である(戸籍は父)大作家村松梢風が1958年に発表した短編集から三作品を選んで大映はオムニバス映画を作った。
監督は増村保造(第一部)、市川崑(第二部)、吉村公三郎(第三部)。
主演若尾文子(第一部)、山本富士子(第二部)、京マチ子(第三部)。
三作ともカラーの大映スコープである。

 

 

あらすじ

第一部〔耳を噛みたがる女〕

紀美はダルマ船の娘だった。貧しい家庭に愛想をつかし銀座のキャバレーに勤めて男から金をまきあげ、株を買うのが趣味だ。上場企業社長のドラ息子正巳は紀美を落とすと友人春本と賭けをした。正巳と紀美はホテルに泊まる。紀美は正巳を本気で愛していた。翌朝、紀美の寝ているうちに正巳は金も払わずにホテルから逃げ出す。この日、正巳は父の言い付けで政略結婚式を挙げる予定だった。しかし、好きでもない相手と結婚して良いのかと疑問が湧いてくる。紀美はキャバレーの寮で正巳の結婚式を知らされる。そこへ正巳がやって来て、結婚しようと言い出す。紀美はこのまま結婚する方が正巳は幸せになれると考えて、彼に手切金を頂戴と言った。正巳は札束を渡して部屋を出て行った。紀美は正巳の会社の株を買いに兜町へと急いだ。

第二部〔物を高く売りつける女〕

流行作家三原靖はスランプに陥り、湘南の海岸で死のうとしていた。その時出会った女の白い顔に三原は驚く。この世のものとは思えなかったのだ。翌日の夜、女は燃える手紙の束を見ていた。女は死んだ夫の手紙を焼いていると言った。翌日、彼女の家の前に彼女が立っていた。三原は風呂をすすめられた。湯舟につかる三原の前に女が裸で入ってきた。すっかりその気になってしまった三原は接吻した。女はこの家は別荘であり600万円で売りに出すと言う。三原は思わずこの家を買うと言ってしまった。契約日、三原は手付金百万円持って女の家を訪ねると、売買契約書を片手に女は手際よく契約を済ませる。翌日、再び女を訪ねると、鍵がかかっており売買事務は東京の不動産屋が引き継ぐ旨の女の手紙が貼ってあった。
そのころ、謎の女、土砂爪子は不動産から売買手数料の五万円を踏んだ食っていた。彼女はやり手の不動産ブローカーだった。ところが彼女のアパートに三原が訪ねてきた。爪子は驚く。三原はあの家を友人に650万円で売りつけたと誇った。三原は爪子の残した焼け残りから、彼女の企みを見抜いていたのだ。君と結婚すればノイローゼにもならないし、小説の種もつきないと言って、三原は笑った。

第三部(恋を忘れていた女〕

三津は京都で修学旅行専門の旅館碇家の主人であり、昔は先斗町の売れっ子芸妓。嫁ぎ先の主人に先立たれたが、事業を拡大してバー屋お茶屋を経営していた。死んだ夫の妹弓子が恋人と結婚するため金を借金をしにくるが、現実主義の三津は早まってはいけないと説教をする。この碇家に名古屋の小学校の団体が宿泊していたが、生徒がオート三輪にはねられる。毎日が心配事で気が抜けない。経営するバーへ走ったお三津は、そこにうらぶれて現れたかつての恋人兼光の胸で泣いた。兼光には二百万円の手形を割引いてくれと頼まれる。そのとき、刑事が踏み込み、九州で詐欺を働いた兼光を逮捕した。碇家から、怪我した生徒が重篤という電話が入る。三津は子供の苦しそうな姿に自ら輸血を申し出た。子供の感謝の眼差しに、三津は自分のことしか考えずに金の亡者として生きて来て、忘れてしまった喜びを思い出させる。東京へ帰る弓子と吉須が挨拶に来た。お三津は手持ち金庫の金を全て与えた。三津も兼光の出所を待ってもう一度二人でやり直そうと思った。

雑感

大映らしい三代女優を中心にした傑作オムニバスだ。ちゃんと女優も監督も格付けの降順で並んでいる。

第一部は身分の違う愛する男に告白されたのに、男の幸せを優先し身を引く女の話。監督増村保造と主演若尾文子の組合せだが、イマイチ意外性に欠けた。
第二部は雪女のような山本富士子が気の弱い作家先生を誘惑したかと思わせて、二重のどんでん返しがある。山本富士子を綺麗に撮れていなかったが、市川崑のこの作品がハッピーエンドだし、ベストだった。評論家はどこかで見たような話だと批判するが、それは脚本を叩いているのであって、演出を批判できていない。三部作の構成上、第二部は世俗的でありながらファンタジーでもある、このような短編で良いのである。このコンビネーションに面白さを感じた監督は山本富士子、船越英二とこの後「私は二歳」を撮影する。
第三部は京マチ子がやり手の経営者なのだが、一度に災厄が降りかかり、ふと自分の生きた道を振り返る。キャメラが宮川一夫で超一流である上、吉村公三郎監督が手堅くまとめている。最後、早朝の薄明かりに京マチ子が三条大橋から街を眺めるシーンが良い。特に朝の青さが美しい

女が橋から眺めるシーンは好きなのだが「君の名は」第三部のラストの淡島千景の悲しいシーンと好対照だった。

スタッフ

製作 永田雅一
原作 村松梢風 「女経」
脚本 八住利雄
撮影 宮川一夫 (3)、 村井博 (2)、 小林節雄(1)
音楽 芥川也寸志
監督 吉村公三郎 (3)、 市川崑 (2)、 増村保造(1)

キャスト

(第三部)
三津 京マチ子
五助 二代目中村鴈治郎
弓子 叶順子
吉須 川崎敬三
兼光 根上淳
おふみ 瀧花久子
みどり 市田ひろみ
医者 見明凡太朗
女の先生 小野道子

(第二部)
土砂爪子 山本富士子
三原靖 船越英二
ドミノ 野添ひとみ
大石 菅原謙二
百々 潮万太郎
人形 大辻伺郎

(第一部)
紀美 若尾文子
田畑正巳 川口浩
春本 田宮二郎
五月 左幸子
田井 三角八郎

女経 1960 大映製作・配給

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