お風呂屋さんが空っぽになったほどのNHKラジオドラマの映画化。
戦後の大型メロドラマ第一弾でもある。

テーマは戦争の傷跡に翻弄される男女だけでなく、戦後民主主義と戦前戦中の封建主義のイデオロギー対立だろう。

 

佐渡へ帰る船
昭和20年秋佐渡へ向かう船上で真知子は同郷人の綾と再会する。綾の面倒見がいい性分が早くも発揮され、真知子に東京大空襲で出会った男性との約束について残らず語らせてしまう。それが最後は綾の苦しみに跳ね返るとも知らずに。
空襲の夜、数寄屋橋付近にいた真知子は窮地を救ってくれた男性を、吊り橋効果もあって好きになってしまう。そして男性と半年後生きていたら再び数寄屋橋で会おうと約束する。男性が名を尋ねたところで空襲警報が鳴り離れ離れになる。しかし半年後のその日、真知子のおじは彼女を佐渡へ無理矢理連れて帰る。

 

昭和20年11月24日数寄屋橋
一方、春樹はそのころ数寄屋橋で一人寂しく彼女を待っていた。春樹が諦めて帰ろうとしたとき、街娼のアサが悲鳴をあげた。同僚のがアメリカ兵との子を妊娠したのを苦にして自殺を図ったのだ。春樹はバラックへ梢を連れて帰り介抱する。
翌日春樹が梢とアサの小屋を訪ねると、元将校の加瀬田とアサが赤ん坊のためにも梢の仕事を辞めさせようと説得していた。

 

佐渡にて
真知子のおじは、佐渡出身で官僚である濱口勝則との見合いを勧める。しかし彼女は数寄屋橋の男性のことが忘れられず、全く乗り気にならない。そのときが重要な情報を持って訪ねて来る。男性の正体が分かったのだ。綾の店に逗留している詩人がたまたま「数寄屋橋で会った女性と待ち合わせたが会えなかった」という文章を雑誌で読んだ。作者名は後宮春樹とあった。

再び東京
加瀬田の部下で参謀をしていた横山というのがいたが、これがカストリ雑誌を作っていた。加瀬田の世話で娼婦だった梢、あいが足を洗い洗濯屋に勤めているという話を春樹が記事にしたが、その内容を印刷屋からもらい、面白おかしく捻じ曲げてスキャンダルにしてしまった。

再び佐渡
官僚濱口勝則見合いで佐渡に来る。真知子は断りたいが、濱口は妙にねちっこい。真知子に一緒に上京して後宮春樹を探しましょうと濱口は誘う。

東京から鳥羽へ
春樹は雑誌記者をしていたが失業したため、しばらく鳥羽の実家へ帰る。一方、春樹の姉悠起枝は戦争未亡人だが水沢と噂になり婚家から追い出される。また水沢は奈美という頭のおかしい海女に引っかかり一夜の過ちを犯してしまい一緒になる。結局、悠起枝は一人になり料亭で働くようになる。春樹は心配で姉を訪ねる。
濱口は春樹が鳥羽へ帰ったことを知る。そして夏期休暇を利用して真知子を連れ鳥羽へ行く。しかし春樹は東京へ帰ったあとだった。仕方なくに会い連絡先を教えてもらう。ところが姉は男性恐怖症になっていたため、弟でも信用するなと真知子に説いてしまう。そのために真知子に大きな迷いが生ずる。その結果、真知子はずっとそばにいてくれた濱口を選択してしまう。この消極的選択が二人の運命を大きく狂わせる。(上映時間1時間経過)

 

再び数寄屋橋で
昭和21年11月24日夜8時に春樹と真知子はとうとう出会う。しかし真知子は明日結婚すると言う。春樹は真知子の幸せな結婚を祈って別れる。

 

 

昭和23年
は東京の料亭で仲居見習いをしながら、いずれは東京で自分の店を開くつもりだ。そこへ官庁の広報として後宮春樹が現れた。混血は恥知らずと言う純血主義者の中で、彼はただ一人で混血児やその母に責任はないと主張した。は春樹の気骨に好意を抱く。そして春樹の自宅に遊びに行く約束を取り付ける。

新潟市
当時濱口真知子母親と一緒に新潟市に赴任していた。濱口は綾が真知子へ出した手紙を盗み読みした。濱口は本庁に帰ると春樹の上司になる。だから春樹にパワハラされたくなければ、昔のことは忘れろと真知子にほのめかす。

東京本省
濱口春樹が本省で初めて顔を合わせる。まず春樹のまとめた混血児問題の記事を濱口は握りつぶす。そして夜には酔って「本当に僕を愛しているのか」と真知子に絡む。
濱口と春樹が対等な立場なら、そういう絡み方もあっただろう。しかし職場でパワハラをしながら家庭ではDVなのだから、わざわざ焼け木杭に火をつけたも同様。愛情を独占しないと気が済まないマザコン男の悲しさだ。

歌舞伎座
招待を受けて濱口一家は歌舞伎座へ行く。ところが春樹も偶然そこに来ていた。濱口はわざわざ二人を会わせて、「僕の妻です」と紹介してから、わざと二人きりにする。春樹も不気味に思い真知子に早く席に戻るように言う。しかし真知子は何か言いたげな表情だった。

 

春樹の下宿
春樹が腑に落ちない気持ちで下宿に戻ると、が訪ねて来て、女房気取りで掃除をしている。綾も東京に戻って来た真知子に異変を感じていた。そこへアサが突然やって来て加瀬田が密輸の罪で逮捕されたことを知らせる。

本省と濱口邸
濱口は、加瀬田の事件で警察に呼ばれた春樹に形式的で良いから進退伺を出してくれと言う。春樹は、それなら辞職届を出しますと切り返してしまう。
そのことを濱口は真知子に教える。それに対して真知子はどうして問題を揉み消せなかったのかと憤る。さらに悪いことに夫婦の問題に、が割り込んで息子の肩を持ち引っ掻き回すw。

再び下宿
が春樹の下宿を掃除していた時、真知子がやって来る。濱口の非礼を詫びに来たのだ。人に良い綾は真知子のしょげた顔を見ると「今幸せか」とお節介を焼いてしまう。春樹が帰って来たが、人妻の真知子が来ていることに困惑して「帰ってくれ」と冷たく当たる。ところが真知子はに跡をつけられていた。

 

濱口邸と下宿
その夜、濱口と姑は春樹に謝った真知子をネチネチと責める。さすがの真知子も、これには切れて家を出て行く。真知子は春樹の部屋を訪ねようとするが、夫が先回りしているのを見て、実家のある佐渡へ旅立つ。
は、夫婦の問題に立ち入るべきでないと言う春樹にハッパをかける。綾は春樹に愛の告白までして、春樹がまだ真知子を愛していることを自覚させ、佐渡へ行くことを促す。

 

佐渡
濱口が佐渡まで真知子を迎えに来るが、全く反省の色を見せない。心労がたたって真知子は倒れてしまう。診療所で調べると彼女は濱口の子を妊娠していた。濱口は真知子をおば信枝に託し、東京に帰る。
それと行き違いに春樹と綾が佐渡にやって来る。しかし真知子は消えた。みんなが手分けして探すと、彼女は山のつり橋の真ん中で呆然としていた。

 


 

総集編でなく、三部作を見るのは初めてである。
川喜田雄二が結婚前優しかったのに、結婚してしまうと横暴な夫になってしまう浜口役を好演。
夫の豹変は、いかにもありそうな話だった。

ラジオドラマを基にしているせいか、細切れで場面が切り替わる。それに暗い場面が多い。

田舎出身のお嬢さんに過ぎなかった真知子と恋には疎い春樹を結びつけたのは、東京大空襲の吊り橋効果だけではない。濱口のマザコン(封建主義の象徴) が真知子を追い詰めて、真知子としては頼る先が春樹(開明的だが少し頼りない民主主義の象徴) しかなかったのだ。もし真知子が幸せな結婚生活を送っていれば、春樹も納得できて、と結ばれたに違いない。この映画は奥さんの気持ちを日頃から考えることの大切さを教えてくれるw。

個人的に一番好きなは、最初どちらかと言うと切符は良いが封建的に描かれる。それが春樹に触れて少しずつ民主的に変化する。他の女性(梢、アサ、姉) も同様だ。

しかし肝心の民主主義者春樹が好きな人を好きと言えない。これは現代にも通じることで、男性に決断力が乏しい。作者菊田一夫にとっての民主主義とは青年のようなじれったさがあったのだろう。

 

 

監督: 大庭秀雄
原作:菊田一夫
脚本:柳井隆雄
撮影:斎藤  毅
音楽:古関裕而
主題歌:織井茂子

 

出演:
氏家真知子:岸惠子
後宮春樹:佐田啓二
綾:淡島千景
後宮悠起枝:月丘夢路
加瀬田:笠智衆
濱口勝則:川喜多雄二
信枝:望月優子
梢:小林トシ子
アサ:野添ひとみ

リンク:

君の名は 第2部 1953.12 松竹

君の名は 第3部 1954.4 松竹

君の名は(第一部)1953 松竹

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