古き良きフランス映画が描く詩的リアリズムのゴールがこの映画にある。これ以後、フランス映画は、ヌーヴェルバーグかアメリカ映画の単なる真似の両極端に方向性を変え、国際競争力を次第に失っていく。
原題は「取るに足らない人々」。貧民の悲しみを描いている。
主演は「フレンチカンカン」コンビのジャン・ギャバンフランソワーズ・アルヌール。監督はアンリ・ヴェルヌイユ、脚本はアンリ・ヴェルヌイユとフランソワ・ボワイエ(「禁じられた遊び」原作者)、具体的な台詞はフランソワ・ボワイエが担当、撮影ルイ・パージュ、音楽ジョセフ・コズマ。モノクロ映画。

 

あらすじ

ジャンはパリとボルドー間を往復する長距離運転手。途中、キャラバンというドライヴインで一休みするのが日課である。ある日、クロというウェイトレスがいた。心臓が弱く、父親がいず母親ともうまく行っていない娘だった。親子ほどの年の差があるが何回か会ううちに情が移り、一線を越えてしまう。しかしジャンには妻子があり、遠距離恋愛は上手く行かない。いつも道草を食っているのがバレて、ジャンは会社をクビになってしまう。
クロは少しでもジャンと一緒にいたいがためにパリに出て来たが。娘の告げ口でジャンの妻に不倫がバレてしまう。
クロは連れ込み宿の女中をやっていたが、倒れてしまう。ジャンとの子供を妊娠していた。カトリックの国なので、クロは堕胎するために違法な治療を受ける。その頃、ジャンは再びボルドーへ行く仕事にありつき、体調の優れないクロを実家に送り返そうとする。しかし道中でクロが苦しみだし、医者の手当ても甲斐なく死んでしまう。
数年後、彼は再びキャラバンにやって来る。しばらく休んでも考えるのはクロのことだった。時間が来て、出かけになじみのドライバーが奥さんのご機嫌を聞くところを見ると、二人は寄りを戻したらしい。

 

雑感

フランス映画では、脚本の分業化がアメリカより進み、原作、(戯曲、)脚本、台詞と四人がクレジットされることがある。脚本は映画の設計図兼あらすじを作り、それを口語に落とすのが台詞の役目。
この映画の場合、共同脚本になっているが、ファーストオーサー(監督)がコンテを切ってセカンドオーサー(台詞)がファイナル・ドラフト(準備稿)にしたと考えられる。
そこから作られたフランソワ・ボワイエの台詞一つ一つが非常に詩的なもので、これぞフランス映画というものだった。
撮影は戦前の名作からフィルム・ノワールまで撮った名キャメラマン、ルイ・パージュ。夜行トラックの室内灯だけの映像は陰影が深く印象的だった。
ジョセフ・コズマの哀愁を帯びた主題曲は、メロディーにオンド・マルトノを使っている。オンド・マルトノは、1910年代の発明されたテルミンの考え方を採り入れ、真空管の三極管発振回路を持った、鍵盤付属の電気楽器。単音楽器だが、スピーカーを置き換えることにより多彩な音を出せので、SF映画専門ではない。
主演のジャン・ギャバンって、これ以降、貧乏人の役はあまり当たらなくなり、メグレ警部かマフィアのボスばかりやるようになった。それだけこの役が嵌まってしまったと言うことだ。
フランソワーズ・アルヌールもブリジット・バルドーが現れるまではフランスのセックスシンボルだったのだが、ヌーヴェルバーグと縁が薄くて、いつしか映画からテレビに活躍の場を移していった。
配給会社は今は亡き新外映配給である。フランス映画を中心に東和が輸入しなかった作品ばかり集めて買ってきた映画輸入商社だった。その作品には「オルフェ」から「勝手にしやがれ」「太陽がいっぱい」などがあった。
なお、日本の蔵原惟繕監督が「」と題して東映でこの映画を正式にリメイクしたことがあった。仲代達矢と藤谷美和子、柴田恭平主演だ。ビデオになったが、DVDになっていない。
著作権者が死亡して代替わりし、所有関係が複雑化してしまい、管理が難しくなったのだろうか。
気になっているのは、原作のリメイクを謳いながら、実は映画のリメイクをしていたこと。
原作は早川書店から刊行されている。妻の死の謎を解くというミステリだったが、フランス映画ではそもそも女房は夫と復縁していて、原作とは全く異なる。
日本版の主題歌は、フランソワーズ・アルディが歌っていた。
https://www.youtube.com/watch?v=fYW9Aj6t22w

 

 

スタッフ・キャスト

監督アンリ・ヴェルヌイユ
原作セルジュ・グルッサール
脚色アンリ・ヴェルヌイユ 、 フランソワ・ボワイエ
台詞フランソワ・ボワイエ
撮影ルイ・パージュ
音楽ジョゼフ・コズマ
配役
長距離運転手ジャン ジャン・ギャバン
愛人クロチルド(クロ)  フランソワーズ・アルヌール
妻ソランジュ イベット・エティヴァン
バルシャンダン ポール・フランクール
ジリエ ロベール・ダルバン
娘ジャクリーヌ ダニー・カレル

 

ヘッドライト Des Gens Sans Importance 1956 フランス製作 新外映配給 ジャン・ギャバン主演

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