戦前にサミュエル・ゴールドウィンの製作とハワード・ホークスの監督によりゲイリー・クーパーバーバラ・スタンウィックが主演した「教授と美女」を、ダニー・ケイヴァージニア・メイヨ(五回目の顔合わせ)でサミュエル・ゴールドウィンがセルフ・リメイクし、ハワード・ホークス自身も再び監督した音楽映画。ビリー・ワイルダー(彼もオリジナルに続いての登板)とトーマス・モンローが脚色、テクニカラーの撮影監督は「南部の唄」のグレッグ・トーランド。

特別出演としてジャズ・ミュージシャンであるベニー・グッドマン、トミー・ドーシー、ルイ・アームストロング、ライオネル・ハンプトンらが顔を揃える。

タイトルは「スタア誕生」(A Star is Born)に引っ掛けている。

あらすじ

ニューヨークのトッテン音楽院では7人の教授が、貴重な「音源付き音楽史」を編纂していた。大衆音楽を担当している若き天才フリスビー教授は、ジャズが最近流行していることを耳に挟み、夜の街へ出た。ジャズの名アーティストたちの音楽を観賞し、音楽院で録音させて欲しいと依頼した。最後に歌手ハニーの歌声を聞き、フリスビーはすっかり気に入ってしまい、彼女にも録音させて欲しいと声をかける。一旦ハニーは断るが情夫トニイが警察に追われていることを知り、検事から証言を求められると考えて、音楽院に逃げ込む。
フリスビーの指揮でジャズ・ミュージシャンを集めて、ジャズの歴史を辿る録音が行われた。一方、ハニーは堅物の教授陣をリズムに乗せてしまい、すっかり魅了する。
しかし録音が終わってもハニーは音楽院の一室に居座ってしまう。フリスビーは彼女を追い出そうとするが、ヤムヤムを教えてあげると言われ、百科事典を足場にしてフリスビーにキスをする。彼は彼女の魅力に参ってしまい、すっかりその気になってしまう。

ニュージャージー州に隠れていたトニーからハニーは呼び出しを受ける。フリスビーから誤解され「お父さん結婚させてください」と言われたトニーは、我が家で結婚式を挙げなさいと教授たちを連れ出させ、州外へ脱出させる。
しかし車が故障し、途中のドライブ・インで一泊する。そこでフリスビーや教授たちの暖かい真心に触れ、真実を告げられないハニーは悩み苦しむ。そこへトニーらギャングが押しかけて来て、フリスビーを侮辱してハニーを連れ去る。

フリスビーと教授たちは傷心のままニューヨークへ帰る。そこに待っていたのは新聞で事件を知った、音楽院のスポンサーであるトッテン嬢と録音以来親しくなったジャズ・ミュージシャンたちだった。
一方ハニーは、トニーのプロポーズが証言させないためだと知って、もはやトニーを拒絶していた。トニーは再びハニーを連れて、ニューヨークの音楽院まで押し寄せ、フリスビーに諦めさせるために、フリスビーの眼前で判事を連れて来て結婚式を挙げはじめた。
ハニーの本心を知ったフリズビの指揮によって、ジャズ・ミュージシャンたちはジャズの演奏を始めるが、それは祝福のためでなく、ギャングたちの一瞬の隙をつき、彼らの銃を奪うためだった。フリスビーは、トニーと決闘してこれを倒し、ニューヨーク市警に引き渡す。かくしてフリスビーは愛するハニーを奪い返すことができて、二人は幸せに暮らしましたとさ。

 

 

音楽

“A Song Is Born”
“Daddy-O”
“I’m Getting Sentimental Over You”
“Flying Home”
“Redskin Rumba”
他ベートーベンやワーグナー、ヴェルディの名曲。

雑感

7年前の「教授と美女」の場合と製作、監督、脚色が同じメンバーでリメイクは行われた。前回は教授が8人だったが、今回は7人に減った。「白雪姫の7人の小人」で言うと、白雪姫がハニー、7人の小人がフリスビーを含めた教授たちで、王子様がトニー、お妃様が地方検事というところか。ただし実は王子様が悪者であり、検事と警察に逮捕されて、小人のうちで最も若いフリスビーが白雪姫のお相手になる。小人のはずが白雪姫よりずっと背が高いのも捻っている。

主演がゲイリー・クーパー、バーバラ・スタンウィックからダニー・ケイ、ヴァージニア・メイヨに交代したが、映画自体がストレート・プレイから音楽映画に変わり設定が言語学者による百科事典の編纂から音楽学者による音楽史の編纂に変わったことによる。

しかし新しい主役の二人が歌っているわけでない。音楽映画と縁があり歌手でもあったダニー・ケイは歌えなくなっていた。彼が離婚問題を抱えて精神科に通い、うつ状態にあったのだが、彼の専属ソングライターがその奥さんだったからだ。
ハワード・ホークス監督は、ヴァージニア・メイヨのことをあまり好きなタイプでなかった(彼の好みはローレン・バコール)ので、徹底的にメイヨを虐めた。そしてメイヨの演技をバーバラ・スタンウィックの完全コピーにしてしまった。

気の毒な面はあったが、出演者は皆プロであり、この映画の愉しさには全く関係しない。特に名ジャズ・ミュージシャンが勢揃いするあたりは圧巻だ。
ビッグ・バンド・リーダーの雄であるベニー・グッドマンは、本人としての登場でなく、クラシック・クラリネットの教授に扮している。バイブラフォン奏者のライオネル・ハンプトンが「クラリネット奏者が足りない、こんな時ベニーがいれば」と言うと、ダニー・ケイがグッドマン教授を呼び込み、即座に演奏が始まるあたりは最高だ。

ヴァージニア・メイヨの歌の吹替はジェリ・サラヴァンだ。苗字はサリバンではないのでご注意あれ。ヴァージニア・メイヨをこの映画で見て初めて可愛いと思った。それだけバーバラ・スタンウィックの演技が素晴らしかったからなのだろう。彼女はこの映画の後、RKOがハワード・ヒューズの傘下に変わったこともあるのか、RKOを離れてワーナーブラザーズに移籍する。ダニー・ケイとのコンビは解消された。

この映画の興行成績は同時に公開されたハワード・ホークスの「赤い河」を公開時に上回ってしまった。しかしダニー・ケイが精神科に通って撮影を休みがちになった分だけ、制作費が増大し、結局損益は赤字に終わった。

スタッフ

製作 サミュエル・ゴールドウィン
監督 ハワード・ホークス
脚色 ビリー・ワイルダー 、 トーマス・モンロー
撮影 グレッグ・トーランド
音楽 エミール・ニューマン、ヒューゴ・フリードホファー

 

キャスト

ホバート・フリスビー教授  ダニー・ケイ
歌手ハニー   ヴァージニア・メイヨ
マゲンブルック教授  ベニー・グッドマン
トウィングル教授  ヒュー・ハーバート
エルフィニ博士  J・エドワード・ブロムバーグ
ゲルキコフ教授  フェリックス・ブレサート
トラウマー教授  ルドウィヒ・ストッセル
オドリー教授(唯一の結婚経験者) O・Z・ホワイトヘッド
トニー・クロウ(ギャング) スティーヴ・コクラン
ブラッグ夫人  エスター・デール
財団の相続人トッテン嬢  メアリー・フィールド

(本人役で出演)
トミー・ドーシー
ルイ・アームストロング
ライオネル・ハンプトン
チャーリー・バーネット
メル・パウェル
ベニー・カーター
バック・アンド・バブルズ
ペイジ・カバノー・トリオ
ゴールデン・ゲート・カルテット
ルッソ・サンバ・キングス
ジーン・クルーパ、ハリー・ババシン(クレジット無し)

 
ヒットパレード A Song Is Born 1948 RKO製作・配給 大映1951年国内配給

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