1966年に成立する日韓基本条約に関わる陰謀を、夏堀正元の原作小説「」を、舟橋和郎が脚色、共産党員だった山本薩夫が監督した社会派映画

主演は田宮二郎、共演は、中谷一郎、小川真由美
脇役は、新劇から多く選んでいる。
白黒映画。

あらすじ

中央新聞社会部記者の須川は、長崎県大村密入国収容所から韓国の民主運動家、李起春が脱走した事件が起きたことを聞いて、大村へ取材に飛んだ。李は朴政権反対のデモの指導者として逮捕されたが、脱獄して日本へ亡命を図っていた。
須川は、脱走当日警察庁外事課の鵜崎警部が訪れたことを聞き出す。外事課に鵜崎という警官はいなかった。洲川は、6月に締結されたばかりの日韓基本宣言に絡んで、きな臭さを感じた。

山谷で日韓外相会談反対のデモに参加する者に日当を払うという情報が、在日北朝鮮系組織の名を騙って出された。須川は、韓国民主運動家の李起春事件や、北朝鮮の名を騙ってトラブルを起こそうとしている事は、同じ組織から金が出ていると考えた。

バーに、知り合いのホステス茂子を訪ねた須川は、偶然に幼馴染、井村に出会った。茂子が外国人に襲われそうな所を井村に助けられて、それ以来彼と関係をもった事を知る。
その茂子を須川に提供する代わりに、井村は彼の属する組織に関する情報と北朝鮮の情報交換を申し出る。須川は、彼をスパイだと直感した・・・。

雑感

この事件は全く根も葉もない嘘では片付けられない。こういう米軍がらみや韓国がらみの陰謀事件は当時スパイ天国と言われた日本で数多くあった。

山本薩夫監督は有名な社会派監督である。出演してるのも殆ど俳優座、文学座などの新劇有志だ。特に山本学、山本圭の兄弟は監督の甥である。
その中にただ一人、大映から田宮二郎が主演している。他の映画会社ならば、仲代達也を主演させているだろう。大映はなぜ売れっ子の田宮二郎を指名したのか?当時の勢いを買ったのかな。
何はともあれ、この主演が名作映画/テレビドラマ「白い巨塔」につながる。ただ、そのことで田宮二郎自身が、大物意識を持ってしまい、「不信のとき」で出演者序列にケチをつけ、大映をクビになる羽目になった。

この映画は、1966年6月に日韓基本条約が締結される直前に、反対していた民主派から告発している社会派映画である。今なおあの条約が問題になっているのは、現政権に属している連中の先輩が反対をしていたからだ。
あの時も、水面下では韓国と北朝鮮で派手なスパイ合戦が行われていた。そして軍事政権下の韓国側には、日本と米国の諜報機関が付いていた。

映画は、北朝鮮側に対して、好意的な表現をしている。しかし実際は、北朝鮮にだって、中国とソ連(ロシア)が資金提供していた。

映画を見て、日米の組織が韓国の民主活動家を拉致するシーンがある。だから、北朝鮮に拉致を教えたのは、日本とアメリカではないかと思ってしまう。

スタッフ

企画  伊藤武郎、宮古とく子
原作  夏堀正元「罠」
脚色  舟橋和郎
監督  山本薩夫
撮影  前田実
音楽  日暮雅信

 

キャスト

須川康夫  田宮二郎
井村仙一  中谷一郎
則山茂子  小川真由美
李起春(韓国人)  山本學
金容実(在日朝鮮人)  東野英治郎
崔鐘明(朝鮮民団幹部)  永田靖
田所(フィクサー)  三島雅夫
ピーター岡本(井村の所属する組織幹部)  高橋昌也
社会部部長  浜田寅彦
須川の同僚紺野  福田豊土
新聞社局長  松本克平
学生田口(目撃者)  山本圭
和田警備課長  稲葉義男
宮島警備官  佐伯赫哉
岡代議士  永井智雄
加藤首相  千田是也

***

須川に男が車で拉致されるのを見たという情報を学生がもたらした。暗がりだったが、拉致される男は李起春に相違ないと思われた。主犯の男は井村だろう。

須川は同僚の紺野と命がけで、井村の写真を撮った。この写真により、拉致事件の助手席の男と、鵜崎警部が同一人であることが判明した。
数日後、新潟海岸に乱数表と無電機を携帯した漂流死体があがった。かけつけた須川は、顔こそちがうが指紋検証の結果、李であることを確認した。李の日本での身元引き受け人である金容実は、李は、民団幹部の崔に預ってもらっているので、そんな馬鹿なことはないと言った。そこで面通しをしに須川は金と、港へ急いだ。新潟で崔と北朝鮮帰還船に乗ろうとする李は、情報機関のたてた替え玉だった。
北朝鮮帰還船に乗ったニセ李を、新須川は、保護する寸前、つけて来た組織に李を狙撃された。幸い当たりどころが良くて、命に別状はなかったが、警察に送致される前に車から飛び降りて自殺した。
ニセ李摘発事件は井村の立場を難しくした。井村は、須川を消さなければ、自分の命がないことを感じた。

ある日須川は、茂子に「井川が来る」と電話で呼び出された。新聞社の応援も断って、須川は井村と対決する。しかし茂子が流れ弾に当たって命を失う。井村は、やはり茂子を愛していたのだ、アパートから飛び降りて、自殺した。須川は、日韓を跨ぐ諜報機関の手掛りを失った。

 

 

 

 

 

 

スパイ 1965 大映東京製作 大映配給 山本薩夫監督作品

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