監督 : 熊井啓
製作 : 内藤武敏 / 相澤敏
原作 : 武田泰淳
脚本 : 池田太郎 / 熊井啓
配役:
三國連太郎 (船長、校長(二役))
奥田瑛二 (西川)
田中邦衛 (八蔵)
杉本哲太 (五助)
内藤武敏 (作家)
笠智衆 (裁判長)
井川比佐志 (検事)
津嘉山正種 (弁護士)

 

戦争中に実際に起こった人肉事件を元にした、武田泰淳の昭和29年の名作小説(と言っても戯曲の形式も取っている)を、俳優内藤武敏が製作し映画化した。
作家は北海道である校長と出会う。
校長は、天然記念物のひかりごけを見せてくれた。
そして戦争前にその地で起きた事件を語りはじめる。
真冬の北海道知床。
軍属の漁船がペキン岬で遭難し、船長と三人の乗組員が雪に閉ざされた洞窟に逃げ込む。
マッチがあったので、暖を取ることは出来たが、食物は何もない。
岬は人里から40キロも離れていて、助けを求めることは不可能だ。
やがて五助が死ぬ。船長と西川は死んだ五助の肉を食う。
八蔵だけは五助の生前に、俺が死んでも肉だけは食わないでくれ、と約束していたので、食わずにいた。
八蔵は西川の頭の回りに光の輪を見た。実際に光っていたのは、ひかりごけであった。
そして栄養失調で八蔵が死ぬ。船長と西川は八蔵の肉を食った。
西川は、次は船長が自分を殺して食うんじゃねえかと、疑心暗鬼になる。
彼は海に身投げして死のうとするが、船長ともみ合う内に誤って死んでしまう。結局、船長は西川の肉も食う。
船長はとうとう一人になってしまった。このまま死を待つぐらいならと、雪の中を出発して、40キロ離れた村に奇跡的にたどり着く。村では船長の生還を祝った。
しかし夏になって、他の三人の骨が見つかる。

劇団四季では昭和30年に既に上演しているそうだ。
劇団四季は当時フランス近代劇を中心にやっていたから、レパートリーとしては珍しい。
でもこの作品は、そういうお芝居と近いところがある。浅利慶太の言うとおり、極限状態におかれ、神の不在としか言いようのない状況で、人を食う人間を誰が裁けるのだろうか。
この船長は平成元年まで生きていたそうだ。43年間生きていたわけだ。
生き残る人間と死んでいく人間は定まっていると思う。
生命力のある人間は人の肉を食っても生きている。
西川は屍肉を食ったが自己嫌悪に陥り結局死んでしまう。
八蔵は屍肉を食えたのに、食わずに死んでしまう。
五助は何もしない内に最初に死んでしまう。
この四人の中で誰に自分は近いだろうか?
こういう話はレアではない。
南方戦線やシベリア抑留など人を食わなければならなかった事件は頻発している。
あなたは食われる立場か、食う立場か。
映画として見ると、はじめの洞窟のシーンは面白かった。
しかし裁判シーンになると戯曲的になって、いかにも新劇を見せられてると言う感じが出た。(原作の通りなのだが。)
笠智衆の裁判官は救いだ。このあと遺作として寅さんの御前様を演じて、昇天されたはず。
三国連太郎と笠智衆の絡みは見応えがあった。

ひかりごけ 1992 日本

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