(△)クリフトン・ウェッブ、マーナ・ロイ、ジーン・クレイン主演の20世紀フォックス製作コメディ映画「1ダースなら安くなる」(1950年)が日本で1951年に公開されヒットしたのに便乗して、NHKで作られた大家族喜劇ラジオドラマの映画化である。

長沖一原作の連続放送劇伏見晁が脚色し斎藤寅次郎が監督、本多省三が撮影した。
主演は花菱アチャコ浪花千栄子
共演は堺駿二阿井美千子伊沢一郎桜むつ子中村玉緒

ストーリー

藤本阿茶太郎、おちえ夫妻は、十三人の子沢山だった。長男米太郎は父の店の果物店の後継者だが、気が弱くいまだ独身である。彼には、かつて洋装店の娘正代という恋人がいたが、一人娘のため母親お文が養子を欲しがって、別れた過去がある。
次男清二の結婚式を正代の友人が米太郎の結婚式と勘違いして怒鳴り込んだことから、彼と正代はまだ続いていることが両親にバレる。阿茶太郎がお文に話に行くと、やはり米太郎を婿にくれといわれる。
数日たって突然お文が阿茶太郎の店に来て、彼の次女で中国共産党からまだ返されない夫を待つ乙子を、お文の甥の石橋医師の石橋医師の後妻にくれないかという相談を切り出す。乙子は、正代を米太郎の嫁に貰うことを条件に承諾諾た。
ところが突然乙子の夫・為夫が舞鶴港に帰還したので、石橋との縁談を断り、米太郎は婿として取られることに決まる・・・。

雑感

2020年後期NHK朝ドラ「おちょやん」は、視聴率こそ高くなかったが、最近聞かれなくなった商人(あきんど)言葉としての大阪弁のドラマとして関西の中高年に愛された。この番組で、ラジオ声優となった主人公千代の松竹新喜劇復帰を確かめて、プロデューサーが「お父さんはお人好し」の映画制作を開始するところで終わるが、その製作される映画がこの作品である。もちろん、「おちょやん」の主演杉咲花が演じた千代役は浪花千栄子を元にしている。
元のラジオドラマは、大家族喜劇であり、そこからエピソードをヨリ抜いて映画は構成されている。その中には社会問題からも目を離さず、嫁に行くか婿を取るかと言った昭和の戦後ならではの問題があり、まだ未帰還兵という戦争の影を引きずる設定も含まれている。
昭和30年代のラジオからテレビに移り換わる時代に親しまれていた夜8時1分から始まる29分番組で、テレビに置き換えられると失われる世界観でもあった。テレビになると、視聴者は刺激が欲しくなって、若者にチャンネル権が奪われ、子供たちは長く続く番組に大きな変化を求めるからだ。

花菱アチャコの阿茶太郎役は、借金に追われてしまい、人を信じてつい一攫千金に手を出しては失敗する。そこに東京のボードビリアン堺駿二(堺正章の父)が加わり、よかれと思い手伝うがますます借金を大きくしてしまう。

花菱アチャコ浪花千栄子というと、1956年からシリーズ化された東宝映画「サザエさん」を思い出す。主演サザエさんは江利チエミが演ずるが、大阪在住の母方の伯父伯母コンビをこの二人が長く務めた。サザエさんがいつもの通り粗忽者であり、伯父伯母は「お父さんはお人好し」より口喧しくサザエを鍛えようとする。

ラジオドラマ「お父さんはお人好し」と同じ役を演ずる役者は、花菱アチャコ浪花千栄子だけだ。しかし、一人だけラジオと映画に違う役で出演している人がいる。
初音礼子は、ラジオで二女役を演じ、映画では長男の恋人の母役を演じている。(映画での二女は桜むつ子が演じる)初音礼子は、浪花千栄子と一才若く宝塚歌劇団出身で喜劇を目指してるエリート女優さんだった。それだけにNHKとしても切り捨てるわけには行かなかったのだろう。のちに阪急宝塚新芸座の座長に就任し、映画やテレビでも浪花千栄子が亡くなってからも活躍した。

有名なところでは、五女に中村玉緒を起用しているが、踊りに熱心なあまりお稽古代に金がかかり全く家計の足しになれない役だった。
あとは、阿井美千子が長男伊沢一郎の恋人役を演じるが、地味なカップルだった。(40)

スタッフ

製作  酒井筬
企画  溝口勝美、土田正義
原作(NHKラジオドラマ)  長沖一
脚色  伏見晁
監督  斎藤寅次郎
撮影  本多省三
音楽  原六郎

キャスト

藤本阿茶太郎  花菱アチャコ
妻おちえ  浪花千栄子
スミ子の兄木村精之助  堺駿二
石橋医師  益田喜頓
文子の娘正代  阿井美千子
清二の妻スミ子  峰幸子
次男清二  夏目俊二
長男米太郎  伊沢一郎
次女乙子  桜むつ子
正代の友人照子  若杉曜子
五女静子  中村玉緒
長女京子  朝雲照代
洋装店主文子  初音礼子
宝石商の主人  東良之助
警察署長  光岡龍三郎
次女の夫・岸野為夫  星十郎
デパートの支配人  西川ヒノデ
古田老人  林家染丸
四男沼吉  西岡タツオ
三女熱子  三浦政子
四女豊子  三浦秀子
新東商事課長  加賀美健一
一郎の先生  大国八郎
アイスキャンデーの客  トニー谷(特別出演)

***

阿茶太郎の商売は順調なのだが、扶養家族が多くやりくりが大変である。清二の嫁スミ子の兄精之助が機械を仕入れてアイスキャンデーを売ることにしたが、早々に発電機が故障し、猛暑の中精之助が自転車を漕いで人力発電でようやく販売にこぎつける。すると、突然集中豪雨が降ってきて待っていた客は三々五々逃げてしまう。
さらに阿茶太郎の集めて来た大金を婿の為雄が人気の台湾バナナに投資して騙し取られる。父親の苦境に、十三人の子供はそれぞれ家計を助ける努力をする。米太郎の行商を、汗をかきながら手伝う正代の姿にお文は涙して、自分の店舗の譲渡代金を持参金代りに正代に与え、米太郎の嫁としてやることを承知する。

 

お父さんはお人好し 1955 大映京都製作 大映配給

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