米ソの冷戦第五福竜丸事件を受けて、原水爆の恐怖に戦く現代人を風刺した社会派映画
橋本忍、小国英雄、黒澤明の三人が共同脚本を書き、黒澤明が監督し、中井朝一が撮影した。
主演は三船敏郎
共演は千秋実、東郷晴子(東宝入社第一回作品)、志村喬、青山京子、根岸明美ら。

作曲家早坂文雄と黒澤明がビキニ環礁で水爆実験が行われた時の会話が元でこの映画が作られる。この作品の映画音楽を作曲中に亡くなった早坂文雄にとっては遺作となった。

あらすじ

歯科医師会の推薦で東京家裁の調停委員を兼ねている老歯科医師原田は、ある日荒木判事から仕事の依頼を受けた。彼は、歯科医をしている息子に後を任せ、そそくさと家裁に出向いた。
裁判になった事件とは、次のようなものだった。

「中島鋳工所」の敏腕経営者中島喜一は、精力家で妻とよとの間に二男二女を成した。ほかにも二人の妾とそれぞれの子供、さらに死んだ妾との間に生まれた子供の面倒もみている。

そんな喜一も老人になり、米ソの原水爆戦争と放射能について被害妾想に陥る。彼は、南米だけが放射能汚染から逃れるという妄想に取り憑かれ、近親者全員のブラジル移住を計画していた。
子供たちは、喜一の財産に頼って生活していたため、計画を実行されると生活が破壊されてしまう。そこで家裁に対し喜一を準禁治産者として保佐人を立てる申立てを行った。

第一回裁判で原田は、「死ぬのは止むを得ぬ、だが殺されるのは嫌だ」という喜一の言葉に心を打たれた。

その後もブラジル帰りの老人を招いて移住計画をどんどん進める喜一に家族は不安がり、判事に願い出て予定よりも早く第二回の裁判が開かれた。調停委員たちは喜一側に傾いていた。
しかし親族だけでなく喜一が、妾と子供を全てブラジルに連れて行こうと計画していることを知り、委員は戸惑う。
原田は、喜一が何か不安を感じているからブラジルへ移住しようと考えていると言って、喜一だけを呼び込み、再度不安について尋ねる。
しかし喜一は(強がって)不安を感じていないと証言した。その結果、喜一を準禁治産者とすることが決定した。会社財産を処分することは出来なくなった。その場で喜一は異議を申し立て、高裁に控訴することになった。

喜一は、ブラジル帰りの老人に連れられ、農牧業用地を見せられた。長年農業を営んできた老人は鋳物工場をもらっても経営することはできない。それより、日本の農地を喜一に買ってもらうほうが速いと言うのだ。そのために150万円を地主二対する手付けとして払わなければならない。120万円の手形を集金することはできたが、残りのお金の目処が立たない。さらに妾の朝子の父に手形割引を依頼すると、すっかり使い込まれてしまう。

喜一は、足りない金を持って老人の元に謝罪に行った。老人は事情を察して金を返してくれた。その上で老人は、実は「自分の父がブラジル移住を決めたとき私は反対した、しかし偶然家が火事になり、ブラジルに移住を決意して成功することができた」と語った・・・。

雑感

三船敏郎のメイクが濃いので、舞台劇をそのまま映画化したようだった。三船がもう20歳年上だったら良かったのに、あまりにも筋骨隆々の老人だったので、違和感があった。
何故南米だけが良いのか?当然ブラジルだって、いつまでも安泰ではない。現に周辺諸国例えばチリにように政変が起きて社会主義政権が生まれ、軍部による反革命という内戦が起きた。不安定極まりない。喜一に南米なら無事と言うことを吹き込んだのは誰だろう。

当初、1952年の「生きる」での名演が忘れられない志村喬が主演に推されたが、ギラギラした精力家ぶりを見せることができる三船敏郎が最終的に選ばれる。役の年齢が70歳(一節には60歳)であるのに比して、三船の実年齢は35歳だった。志村喬は、代わりに狂言回しのような立場(老歯科医師)を充てられる。

ブラジル帰りの老人(東野英治郎が肌をこんがり焼いたようなメイクで登場)のエピソードがくわわり、この家族の運命は決まった。初めから喜一夫婦と二女だけが移住すれば良いものを、まとめて移住しようとするから、こじれたのだ。

題名が、三田文学派の重鎮である丸岡明の戦前の小説と同じだから、クレームをつけられた。そこでオープニングに「この題名は丸岡明氏の好意でつけた」旨の注釈をつけている。問題の小説は、軽井沢族の心理小説であり、映画と何の関係もない。

スタッフ

製作  本木荘二郎
脚本  橋本忍、小国英雄
脚本、監督  黒澤明
撮影  中井朝一
音楽  早坂文雄(この作品が遺作である)

キャスト

(中島一族)
中島喜一老人  三船敏郎
妻とよ  三好栄子
長女よし  東郷晴子
山崎隆雄(よしの夫)  清水将夫
中島一郎(長男)  佐田豊
君江(妻)  千石規子
次男二郎  千秋実
次女すえ  青山京子
妾四号の朝子  根岸明美
朝子の父栗林  上田吉二郎
妾三号の里子  水の也清美
娘妙子  米村佐保子
二号との間の息子須山良一  太刀川寛

原田(歯科医)  志村喬
原田の長男進(歯科医)  加藤和夫
嫁澄子  大久保豊子
荒木判事  三津田健
堀弁護士  小川虎之助
田宮裁判所事務官  宮田芳子
精神医  中村伸郎
留置人A  谷晃
留置人B  大村千吉

仕入業者石田  渡辺篤
ブラジル帰りの裕福な老人  東野英治郎
紹介者岡本  藤原釜足
中島鋳造所職長  清水元
中島鋳造所工員  土屋嘉男
地主  左卜全

ネタばれ

ついに長年の疲労で喜一は倒れた。万一の場合を考えて、近親者間で中島家の財産争いが始まった。
意識朦朧としている喜一は、工場さえなければ、皆はブラジルへ行くだろうと思い付き、工場に火を放った。しかし職工は怒り、大混乱が起きていた。工場の焼け跡に立った彼の髪は一晩で真白になっていた。

数週間後原田は、精神病院に収容された喜一を原田が見舞いに行く。喜一は、明るい顔で鉄格子付きの病室にいた。喜一は狂っていて、地球を脱出して安全な世界に逃れたと思い込んでいた。最後に窓から太陽を見て喜一は「地球が燃えとる」と叫ぶ。原田は、言葉が見つからなかった。

 

 

 

 

生きものの記録 1955 東宝製作・配給 黒澤明「七人の侍」の次回作!

投稿ナビゲーション