サミュエル・ゴールドウィンが製作し、マーク・ロブソンが監督した恋愛映画
雑誌「ニューヨーカー」に掲載されたJ・D・サリンジャーの短編小説「コネチカットのひょこひょこおじさん」を、「カサブランカ」のエプスタイン兄弟が脚色した。

主演はダナ・アンドリューススーザン・ヘイワード
共演はロバート・キース、ケント・スミスロイス・ウィーラー。白黒映画。

あらすじ

エロイーズは、アルコールに浸っていて夫ルーとの関係も冷め切っていた。久しぶりに学生時代の親友メリー・ジェーンが訪れて来た。前日にルーと会って告白されたと言い、エロイーズにルーとの離婚を求める。エロイーズが結婚する前まで、メリー・ジェーンはルーと付き合っていたが、寄りを戻したのだ。冷め切っていたエロイーズは離婚を承知するが、友人のいない暗い子に育ってしまった娘ラモーナの親権については譲ろうとしない。
(回想)
1939年、ニューヨークのパーティで、学生だったエロイーズはウォルトと知り合う。しばらくウォルトから音沙汰がなかったが、久しぶりに連絡があり、会いに行くと彼は軍服を着ていた。徴兵されたのだ。
二人は真夜中まで一緒にいて、エロイーズは門限を破ってしまう。そのことを寮監に咎められて彼女は大学を中退させられる。田舎で大きな金物屋を営む父親がニューヨークまでやって来て彼女を慰めてくれる。彼女はウォルトと会いたいから、このままニューヨークで働きたいと言い張る。ウォルトと会った父親は渋々認めてくれた・・・。

雑感

マイ・フーリッシュ・ハート」は、この映画の主題歌だったが、その後ビリー・エクスタインのレコードが1950年にアメリカで大ヒットした。その後もビル・エヴァンスやチェット・ベイカーがジャズ・ナンバーとして演奏し、スタンダード曲になっている。
日本でも米軍放送(FEN)で頻繁にこの曲はかかり、日本人歌手によりカバーされるようになったため、1953年になってこの映画が輸入され公開された。

太宰治の「人間失格」と並ぶ、ダメ人間を描いた名作小説「ライ麦畑でつかまえて」を書いたJ・D・サリンジャー唯一の映画原作である。1948年に「ザ・ニューヨーカー」誌に掲載されて、サミュエル・ゴールドウィンの目に留まり、1949年に映画化された。
原作では主人公夫婦は別れないし、メリー・ジェーンも一人で帰って行く。日常は何も変わらない。
しかし、映画では夫婦の亀裂は決定的である。メリー・ジェーンは、ルーさえ譲ってくれたら気味の悪い娘は要らないと思ったことだろう。
要するに原作と映画では、全く主旨が異なる。そこをサリンジャーは気に入らず、それ以後彼が大作家になっても自作品の映画化を決して許さなかった(最近は伝記映画も公開されて、著作権者の態度が軟化しているようだ)。
でも、当時は映画なんて小説のプロットを換骨堕胎して、より大衆向けにするものだった。こういう主旨変更は、許容しなければいけなかった。それをできないのは、彼が世渡り下手だったからだ。とはいえ、世を拗ねて隠遁生活をしていたからこそ、雑音をシャットアウトして91歳で天寿を全うできた。
太宰治原作の映画は十指に余る。彼は、映画用の原作小説を書けるほど器用だった。ところが、39歳であっさり心中してしまう。

スーザン・ヘイワードにとっては、大きな転機になった作品だ。当時、ラナ・ターナーやエリザベス・テイラー等のライバル女優が大勢いたが、スクリーンの演技力では彼女が抜きん出ていた。本作も、ウォルト役ダナ・アンドリュースが出演者序列第一位だが、出番も見せ場もスーザンが圧倒している。
メアリー役のロイス・ウィーラーは上手な脇役女優だが、映画ではこの作品にしか出演していない。何故か、テレビドラマ専門の女優だった。
父親役のロバート・キースは、珍しく物分かりの良いお父さん役だった。しかし、その優しさが娘の人生を悪い方向に決定してしまうとは皮肉だ。

 

スタッフ

監督  マーク・ロブソン (「チャンピオン」「六番目の幸福」)
製作  サミュエル・ゴールドウィン
脚色  ジュリアス・J・エプスタイン、フィル・G・エプステイン(兄弟)
原作  J・D・サリンジャー「コネティカットのひょこひょこおじさん」
撮影  リー・ガームス
音楽監督  エミール・ニューマン
主題歌 マイ・フーリッシュ・ハート(作詞:ネッド・ワシントン、作曲:ヴィクター・ヤング)

 

キャスト

エロイーズ・ウィンタース  スーザン・ヘイワーズ
ウォルト・ドライザー(恋人)  ダナ・アンドリュース
ヘンリー・ウィンターズ(父)  ロバート・キース
ルー・ウェングラー(夫)  ケント・スミス
メアリー・ジェーン(親友)  ロイス・ウィーラー
ウィンターズ夫人(母)  ジェシー・ロイス・ランディス
ラモーナ(根暗な娘)  ジジ・ペロー
ミリアム(派手な同級生)  カリン・ブース
歌手  マーサ・ミアーズ

 

***

ウォルトは演習が休暇になる度にエロイーズに会いに来てくれる。だが、太平洋戦争が始まり、ウォルトにも外地への異動命令が出た。その前に彼は、一週間ニューヨークでエロイーズと過ごす。最後の夜、クラブに入ると歌手が「マイ・フーリッシュ・ハート」を歌っている。彼女は妊娠していたが、彼には何も言っていなかった。自分の父が第一次世界大戦に出征する前に母親と結婚したのは失敗だったと言っていたので、ウォルトを急かすことはできなかったのだ。
ウォルトとは、それっきりになってしまった。彼は爆撃機に乗り込み発進するが、整備不良のため墜落して死亡する。お腹の子供のことを父に相談しようとしたが、そのとき父は死の床にあった。彼女は、親友メリー・ジェーンの恋人であるルーが自分のことを好きなのを知って、彼を誘惑し略奪結婚してしまった。
(回想終わり)
娘の父がウォルトであることは、メアリー・ジェーン以外誰も知らない。ルーが娘を引取ると聞いて、エロイーズは秘密を打ち明けようとした。だがメアリー・ジェーンがそれを遮り、「彼は私が説得するから、あなたはここにラモーナと暮らして」と言って、娘をエロイーズに託す。エロイーズは、寝ている娘を抱き締める。

愚かなり我が心 My Foolish Heart (1949) サミュエル・ゴールドウィン製作 20世紀フォックス配給 大映洋画部国内配給(1953)

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