珍しい日活のミュージカル映画。前年の音楽映画「嵐を呼ぶ男」の好評を受けて製作されたミュージカルで、文芸大作「陽のあたる坂道」と筋書きが非常に似ている。「陽のあたる~」上映から三ヶ月後の上映だから、企画マンや脚本家が手を抜いたとしか思えない映画だ。

その夜、上昇志向の強いダンサー陽子は実業家の卵土屋秀男とデートし、別れるときついにプロポーズされた。陽子は翌日土屋家を訪問するが、お高く止まった秀男の母に不安を感じる。秀夫の姉麗子は付き合っている貧乏音楽家がいたが、母親は元貴族様と結婚させようとしていた。陽子を麗子は訪れ、元貴族と結婚するので代わりに二人の結婚を支援すると言った。陽子も花嫁修業のため退団届を出した時、憎からず思っていた劇場付きの演出家が他ならぬ秀夫の兄・武男であり、武男も自分のことを憎からず思っていたことを知ったが遅かった。ミュージカルの製作と演出が、武男に決まり、チーム奈落の皆は喜ぶ。麗子は結婚式の翌日から夫に無視され、家に出戻り、貧しくても愛さえあれば生きてゆけると陽子を諭した。そして陽子は土屋と両親に真実を告白した。

 

月丘夢路は元宝塚歌劇団娘役スターである。さしものスターも齢36となりダンスに切れがなくなっている。おかげで映画製作後、井上梅次監督と結婚し家庭に入った。
北原三枝も音楽は下手だから、この映画で踊れる役は白木マリ程度だった。白木マリ(真理)は後の必殺仕事人の中村主水の奥方だが、沢本忠雄と結婚・離婚する前は、お色気担当だったがダンスやバレエが大の得意というわけではない。
結局、この映画では歌ったり踊ったり出来る若手女優はいなかったわけだ。日活映画はミュージカルを演ずることを想定していなくて、SKDからでも貪欲に女優を集めていた東宝と比べるとかなり見劣った。
救いは石原裕次郎が何をやっても様になったことと、石原と志を同じうするチーム奈落に属し、本職が歌手である笈田敏夫、田端義男、柳沢真一トリオがリズム感が良いのは当然として、意外にも二代目黄門様・西村晃が演技をしながら立派に歌って踊れたこと。さすが新劇出身である。

 

この映画を駄目だと批判することは正しいが、それだけでは何も残らない。何故日活はこの失敗を受けて、トレードによる補強(女優、スタッフ)をできなかったのか。どうして目先のことしか考えられなかったのか?
翌年からは小林旭の台頭により、宍戸錠の対決を主軸とした渡り鳥ノワール路線に振り切ってしまった。ゆえに日活では石原裕次郎もバラエティ豊かな役柄が次第に限定されてくる。

 

監督 井上海次
脚本 井上梅次
撮影 岩佐一泉
美術 中村公彦
音楽 多忠修
配役
団武男 石原裕次郎
旗陽子 北原三枝
土屋麗子 月丘夢路
佃直美 山岡久乃
佃真一郎 大坂志郎
土屋秀男 待田京介(デビュー作)
吉村幹也 金子信雄
柳ルミ子 白木マリ
牧邦彦 笈田敏夫
国井達郎 西村晃
丸さん 木戸新太郎(振付)
源さん 田端義夫
真ちゃん 柳沢真一

素晴しき男性 1958 日活

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