クリント・イーストウッド監督のゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞作。
渡辺謙(栗林中将)主演、二宮和也、伊原剛志(ロス五輪の金メダリストバロン西中佐)、中村獅童、加瀬亮出演で太平洋戦争での硫黄島玉砕を描いている。
NHK衛星放送で見た。
感想をネットに書いてる人には何と硫黄島の戦いを全く知らなかった人がいる。(歴史教育の貧困)
私も硫黄島が要塞島だったことは知っているが、当時普通に生活している人がいたとは知らなかった。
谷口千吉の「暁の脱走」や岡本喜八の「独立愚連隊」シリーズを見て従軍慰安婦だけ日本と植民地から送り込まれたと思っていたが、二万人の軍人と彼女らの生活支援も必要だから、国内外で食い詰めた人たちが働き手として軍により送り込まれたのだろう。

戦争を扱う場合、両方の立場から冷静に映画を作る事は大切だと思う。アメリカ人が日本人の立場に近づいてここまで描くとは思わなかった。さすがクリント・イーストウッド監督だ。もちろん、映画「父親たちの星条旗」を作ったついでなのだろうが、それでもここまで丁寧に作ってくれたことに感謝感激した。
主演したヒット作「荒野の用心棒」が黒澤監督の「用心棒」からインスパイヤされた作品だったり当時、日系人と結婚していたり(後に離婚)して監督と日本との縁は深かったが、アメリカ国内で反発もあったはずだ。
ただ戦前から明治維新以来多くの日本人が日米の架け橋として働き、その中に硫黄島に散った人たちがいたことはアメリカ人も否定できない事実である。
だからこそ、日米は現代社会において共存する道を選んだのだ。

アクション映画と違ってなかなか戦闘シーンが始まらないという声も聞かれたが、これだから日本人は戦争を反省していないと言われる。
籠城戦はこんな甘いものではなかったというまともな批判もあるが、戦国時代の籠城ものを日本人の監督はリアルには描かない。リアルにやっちゃうとグロテスクなパニックホラー映画になっちゃう。趣旨が変わってしまうのだ。

もっと日本の映画人は戦争映画を作るべきだ。そして見た人みんなが歴史を反省することだ。
何も韓国や中国に言われずとも、常に歴史は反省するためにある。
ただし、歴史観というものは誰が何と言おうと主観的である。他人の歴史観を押しつけられてはダメ、自分で考えよう。

最近の国産戦争映画というと百田尚樹原作の「永遠の0」が上げられるが、これはちょっと甘い。
甘いのも良いけれど、辛いのもたまに食べないと飽きてしまう。

辛口映画の代表格、沖縄玉砕戦を今井正監督が描いた「ひめゆりの塔」を見ていないと、まともな戦争映画を作れないと思う。
あの映画で途中どんなに微笑ましいシーンがあっても、ラストを見るとイタリアのネオレアリズモ映画以上に見たものすべてが絶望につながっていく。
凄い映画だったし、おそらくイーストウッド監督も見ていたのだろう。

安倍総理がアメリカ議会演説でこの映画と硫黄島の戦いを上手く利用した。
議会に93才のローレンス・スノーデン海兵隊中将(硫黄島の戦いに参加)と新藤義孝国会議員(栗林中将のお孫さん)を隣同士に座らせて、かつての敵は今日の友を印象づけたのだ。
これには韓国も中国もいらっとさせられただろうw。

 

硫黄島からの手紙 2006 ワーナー

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