和田夏十のオリジナル脚本、監督は市川崑。幻の作品となっていたが、荒涼とした人間描写やスタイリッシュな画面構成が20世紀末になって評価され再上映されて、2002年には市川崑による二時間テレビドラマとしてセルフリメイクされた。2016年には息子船越英一郎主演により再びドラマ化されたが、内容は全くの別物。
映画の出演は五大女優(山本富士子、岸恵子、宮城まり子、中村玉緒、岸恵子)と船越英二等。白黒映画

 

あらすじ

OPが終わり、淋しい夜道で双葉を取り囲み責める八人の女。それを空から見下ろす三輪子の亡霊。
場面は戻って、新劇女優市子の部屋にTVプロデューサー風松吉が夜中に突然やって来て、何もせず寝てしまい朝市子を置いて出社する。市子が押し入れを開けると、中からテレビ台本の印刷業者三輪子と演出家五夜子が出て来る。三人とも松吉の愛人だが、市子の部屋に相談しにやって来たところに、風が来たのでずっと押し入れに隠れていたのだ。市子は松吉と関係が長いので、正妻双葉公認の愛人だ。双葉も松吉のだらし無さに呆れ果てて、レストラン経営に淋しさを紛らわせている。
三輪子はTV会社で、CMガールの四村塩から喧嘩を仕掛けられ、五夜子と他の愛人三人と知り合った。
市子は双葉を訪ね、松吉を突き上げると言う話がいつの間にか双葉と愛人たちで松吉を殺す計画になってしまった。TV会社に出入する印刷業者三輪子はそれを聞いてこらえきれず松吉に打ち明けてしまう。松吉に問い詰められた双葉はあっさり計画を認める。松吉は海岸で十人の女に囲まれ、無理矢理薬を飲まされて海に捨てられる場面を妄想する。
このままではいけないと思った松吉は愛人関係を一括して清算するため、双葉に狂言殺人を持ち掛ける。約束の日、双葉のレストランに愛人たちが集まる。双葉は松吉が用意した空砲を詰めたピストルで松吉を撃ち、殺したように見せかける。愛人たちは妻に罪を着せたつもりで逃げ出すが、三輪子は後を追って自殺しまう。
そこで双葉は松吉を匿うが、夜道で問い詰められたのが冒頭のシーンだ。双葉が誰でも松吉を譲ると言ったため、市子が引き取る。市子の元で怠惰な日を過ごした松吉は、ある日会社に出勤しようとするが、市子から会社に依願退職願が出されたこと、双葉が離婚届を出したことを知らされる。社会人生命を抹殺されたことに気付いた松吉は泣き崩れる。市子は女優を引退し、引退パーティに集まった愛人と双葉から祝福の花束を受け取った市子は自動車を運転しながら、夜の闇の中に消える。

雑感

なかなか男性にはホラーなエンディングだ。社会的動物である男性が社会的抹殺されたら、死んだも等しい。とくに1960年ごろ演出家ではないテレビ・プロデューサーが独立して他のテレビ制作や映画製作で成功できる人は数少なかった、潰しも効かなかった。(今でこそ人事交流は盛んだが)

それより女性は男性をペットのようにしか思っていないのに大ショック。他人が持っていると自分だけのものに欲しくなってしまう。
でも女は男を飼いたいのか?そんな社会的存在価値がない男なんて、飼って面白いのか?

そもそも双葉が子供を埋めない身になったとき、松吉はなまじ双葉に情をかけるのでなく、市子なり気に入った女性に走ったほうがよかったのではないか。すっきり一人と別れてから他の女に行けば問題ないものをつまみぐいばかりしてるから、女の怒りが積もり積もってこう言うことになってしまったのだ。

ただしオスの習性としてはこれは当然であり、獣だとつまみ食いが当たり前なのだが、人間の男性ともなると最近は女が強くなり、甘くなかった。
個人的には船越英二市川崑をイメージした役だと思っている。要するに市川崑の奥さんだった和田夏十が恨みつらみを書いたものだ。

男優的には船越英二のだらしない演技が相変わらずいい味を出している。器用貧乏な船越英一郎にはいくつになっても出せない技だ。

女優陣では、現代劇での山本富士子岸恵子の女優対決、腹の探り合いが見ものだった。同志でありながら敵同士でもある。

いつもはマセキプロで坂本九のバーターで出てくる森山加代子が単独で出演している。しかも下手をすると、黒い11番目の女に成りかねなかった。松吉が気が変わったので彼女の貞操は守られたのだ。

スタッフ

監督 市川崑
製作 永田雅一
脚本 和田夏十
企画 藤井浩明
撮影 小林節雄
音楽 芥川也寸志

キャスト

プロデューサー風松吉 船越英二
妻でカチューシャのオーナー双葉 山本富士子
印刷業者三輪子 宮城まり子
CMガール四村塩 中村玉緒
演出家後藤五夜子 岸田今日子
新劇女優石ノ下市子 岸惠子
虫子 宇野良子
受付の七重 村井千恵子
八代 有明マスミ
衣装係櫛子 紺野ユカ
広報課十糸子 倉田マユミ
新人女優百瀬桃子 森山加代子
本町編成局長 永井智雄
野上 大辻伺郎
アナウンサー花巻 伊丹十三
ザ・クレイジー・キャッツ 特別出演

黒い十人の女 1961 大映東京製作・大映配給 市川崑監督の傑作映画

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