忠臣蔵初のカラー映画だ。
忠臣蔵というとどれも同じ物語と思われがちだが、これは大佛次郎の長編小説「赤穂浪士」の映画化作品で、浄瑠璃「仮名手本忠臣蔵」や講談系忠臣蔵と一線を画す。
主演は大石内蔵助に当時46歳の市川右太衛門、浪人堀田隼人に大友柳太郎。共演は吉良上野介に月形龍之介、浅野内匠頭に東千代之介、千坂兵部に小杉勇、間者お仙に高千穂ひずる、立花右近に片岡千恵蔵。その他にも他社からの客演を含めて、記念映画らしいオールスター映画になっている。ちなみに北大路欣也はこの年にデビューしたばかりだったので、正月映画に間に合わなかったようで、伏見扇太郎が大石主税を演じた。
監督は時代劇を得意とした松田定次(マキノ雅弘監督の異母弟)、脚本は新藤兼人

大佛次郎原作「赤穂浪士」はニヒルな浪人堀田隼人を主人公に据えているところが特徴だが、映画では大石内蔵助を主役として脚色されることが多い。戦前に二度映画化され、戦後はGHQにより復習譚が禁止されていたのでこれが初の映画化である。この5年後片岡千恵蔵主演でまた東映で映画化され、1964年には長谷川一夫主演で大河ドラマになった。

 

あらすじ

 

・天の巻
剣の達人堀田隼人は父を切腹させられ流浪の身に落ちた虚無主義のテロリスト。今は怪盗蜘蛛の陣十郎に匿われて、食客となっていた。
元禄十三年、浅野内匠頭は高家筆頭吉良上野介の指導の元で勅使饗応役の務めを果たすために日夜勤めているが、浅野と吉良の家風の違いのせいか、無骨な浅野にはパワハラと思える行動が目立つ。浅野は度重なる嫌がらせに腹を煮え返らせながらも耐えていたが、ついに勅使都城の日、江戸城内で吉良上野介に正面から斬ったが致命傷に足らず、即日切腹の上で、お家断絶の処分をうけた。
赤穂藩では城代家老大石内蔵助が善後策を練った。まず真の同志たるものを選別し、その上で主君の弟浅野大学を立ててお家再興をお上に求め、それが成らなければ同志が徒党を組んで吉良上野介を討ち、お上に抗議の意思を表そうというのだ。
上野介の子上杉綱憲の米沢藩家老千坂兵部も切れ者で、家臣小林平七を通して知った堀田隼人と蜘蛛の陣十郎を、大石に対する隠密として赤穂に放った。彼らは大石の動きから世間で言われているような籠城殉死はあり得ないことを江戸に報告する。
赤穂浪士一同は大石のもとで血盟を誓い、城を明け渡し、各人三々五々江戸へと向かう。(ここまで150分中80分経過)

 

・地の巻
事件から一年後、小山田庄左衛門は江戸娘おさちと知り合い、まもなく愛し合うようになる。
大石は、京の遊里で放蕩三昧の毎日を送りながら、御舎弟大学様お取り立ての上申書の返事を待っていた。しかし米沢藩の安泰を願う千坂は気を許さず、小林平七を吉良家に付き人として送る。
町人に化けて吉良家の動静を探る小山内は、身分がバレて吉良の付き人たちに殴る蹴るの暴行を受ける。
やがて大学様お取り立ての望みも断たれたと知って、ついに大石は立つ。東下りの際、名古屋本陣での立花左近の「武士の情け」に会う。
一方、大石の動きをのぼリアルタイムで把握している千坂は、隼人を大石の刺客に差し向ける。だが一足早く小山内が駆け付け無事だった。
自分のなし得なかったテロルを沈着冷静に行おうとする大石を見て、隼人は自分のしていることの虚しさを感ずる。
師走十四日の夜半に吉良屋敷から山鹿流陣太鼓が突如鳴り響く。隼人は上杉家へ報告に走る目明し金助を斬る。とうとう大石以下四十七士は本懐をとげた。翌朝生きる望みを見失った隼人は、女間者お仙と心中していた。その騒ぎを横に泉岳寺に向う浪士たちが胸を張って歩いていく。

 

雑感

 

この映画は忠臣蔵として初のカラー作品だったが、絢爛さは全く無く役柄の内面をじっくり描いて、かなり地味だったが、実に見応えのある映画だ。とくに大石内蔵助の東下りで立花右近との本陣での対面の場面は、先輩格の片岡千恵蔵(立花右近役)がじっくりと尺を使って見せ場を作っている。そこで感動したのは、市川右太衛門が唇を震わせるだけの演技で本物に見つかった心の動揺を表現したところだ。その後、大石家の家紋に千恵蔵が気付き身を引く意思を見せると、やはり台詞ではなく表情だけで武士の情けに感謝する。片岡千恵蔵がほとんどカメラに写りセリフを喋るシーンだが、市川右太衛門の名場面だと思う。市川右太衛門は旗本退屈男だけのC調親父ではなかった。

翌年のお盆映画になった松竹映画「大忠臣蔵」もカラー作品であるが、原作が「仮名手本忠臣蔵」であり二代目市川猿之助をはじめ歌舞伎役者が中心にキャスティングされていたため、派手なところはなかった。この時は橘右近として八代目松本幸四郎(初代松本白鷗)が関守の役で登場するが、歌舞伎調の型を大切にした演技だったと思う。

重要な観察者としての上杉藩千坂兵部の間者は河野秋武高千穂ひずる、進藤英太郎、大友柳之助(堀田隼人)が演ずる。中でも大友柳之助の堀田隼人は中里介山原作「大菩薩峠」の主人公机龍之助を彷彿とさせるニヒリストで、印象深い。

当時の東映三人娘では高千穂ひずるが最も出番は多く、最後は赤穂浪士の勝鬨を聞きながら堀田隼人と心中して果てる。
田代百合子は地味なメイクだったが、最後は討ち入り直前に小山田庄左衛門(中村錦之助)と逐電して不明。当時は「笛吹童子」など、錦之助とペアになることが多かった。
3人目の千原しのぶは京都の夕霧大夫を演じて大石内蔵助と絡みがあったが、一番出番が少なかった。

 

 

スタッフ・キャスト

 

監督 松田定次
製作 大川博
原作 大佛次郎
脚色 新藤兼人
企画 マキノ光雄 、 山崎真市郎 、 坪井与 、 大森康正 、 玉木潤一郎
撮影 川崎新太郎
音楽 深井史郎

 

配役
大石内蔵助 市川右太衛門
浅野内匠頭 東千代之介
吉良上野介 月形龍之介
柳沢出羽守 宇佐美淳也
千坂兵部 小杉勇
小林平七 加賀邦男
堀田隼人 大友柳太朗
蜘蛛の陣十郎 進藤英太郎
お千賀 喜多川千鶴
お仙 高千穂ひづる
目玉の金助 河野秋武
片岡源五右衛門 原健策
堀部弥兵衛 薄田研二
堀部安兵機 堀雄二
梶川与惣兵衛 百々木直
将軍綱吉 沢田清
大野九郎兵衛 香川良介
小野寺十内 加藤嘉
脇坂淡路守 龍崎一郎

大右妻りく 三浦光子
大石主税 伏見扇太郎
夕露太夫 千原しのぶ
小山田庄左衛門 萬屋錦之介
丸岡朴庵 三島雅夫
穂積惣右衛門 高松錦之助
さち 田代百合子
宗偏の妻 毛利菊枝
毛利小平太 片岡栄三郎
毛利小平太の兄 神田隆
上杉綱憲 石井一雄
立花左近 片岡千恵蔵

 

赤穂浪士 1956.1.15封切 東映作品 東映設立5周年記念作品 大佛次郎原作の忠臣蔵

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