監督 阿部豊 (アメリカ帰りでサイレント時代から活躍した大監督。戦前の志賀暁子事件で有名)
脚本 八住利雄
原作 谷崎潤一郎
音楽 早坂文雄
出演
鶴子 花井蘭子
幸子 轟夕起子
雪子 山根壽子
妙子 高峰秀子
圭ぼん 田中春男
貞之助 河津清三郎
板倉 田崎潤(映画デビュー)
もっとも古い新東宝版「細雪」を見たい見たいと思っていたが、生きているうちに念願が叶った。
次女(といいながら花井蘭子より年長である)轟夕起子が抜群に輝いていた。
長女役花井蘭子も三女役山根壽子も地味な人である。
この脚本はそういう各女優のキャラクタを見事に生かしていた。
高峰秀子が実質的主演である。
しかし若くてチャーミングな彼女に、この汚れ役はやや荷が重かった。
助監督をやっていた松林宗恵は、「板倉の役は森繁久彌がやるはずだったが、私が監督に頼み込んで舞台で活躍していた田崎を起用してもらった」と言っていた。
板倉はかなりシリアスな役である。田崎起用で正解だったと思う。
松林と森繁は後に社長漫遊記で名コンビを組んだ。

八住利雄は9年後の大映版(島耕二監督)でも脚本をつとめた。
山本富士子が三女雪子だったので、根暗な雪子を中心にしたドラマに書き換えている。
このときは四女妙子役の叶順子(若尾文子の代役)が、とても輝いていて見えた。
若い彼女が、無欲で演じたためだろう。
それから25年後の東宝版(市川崑監督)で吉永小百合が演じた三女雪子は、歴代の雪子の中でもっとも美しい。
一方、妙子役の古手川祐子は少し小粒だ。
貞之助役の石坂浩二は、雪子を憎からず思っていて、谷崎潤一郎をイメージした役作りだった。

原作は谷崎の私小説である。
松子夫人が四姉妹の次女(幸子のモデル)であり、昭和13年頃彼女たちに起こった事件を、脚色して描いている。
高峰秀子は妙子のモデルである、末妹信子に芦屋言葉を指導してもらい、その後も谷崎一家と家族同士の交流を続けた。(高峰秀子著「わたしの渡世日記」下巻、名作エッセイ!)

高峰が上方舞を舞うシーンは、舞踏家・武原はん直接の指導である。
後にテレビで雪子役を演じた、谷崎恵美子は谷崎の養女(松子夫人の実娘)である。
作中の綴り方「ウサギノミミ」を書いた張本人だそうだ。

細雪 新東宝 1950/5/17公開

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