エリザベス一世がスコットランドの前女王メアリ・スチュアートを処刑してしまい、カトリック諸国とイングランドの関係は悪化した。そんな中で小国イングランドが勇敢な青年の活躍によって1588年アルマダ海戦で大国スペインの無敵艦隊を破るまでを描く歴史映画。
監督はウィリアム・ハワード、主演は若き日のローレンス・オリビエ、エリザベス女王役に大女優フローラ・ロブソンを配する。恋人役で初共演のビビアン・リーとのロマンス(後に結婚、離婚)が生まれた作品でもある。白黒映画。

あらすじ

16世紀後半イングランドはオランダのスペインからの独立運動を支援したため英西関係は悪化した。1587年にプロテスタントであるエリザベス女王がスコットランドの前女王メアリ・スチュアート(スペインのフェリペ二世はイングランド王位に付けようと画策した)を処刑したり、フランシス・ドレイクが海賊行為を働くに至り、両国は戦争状態に入った。
マイケル・インゴルビーは父リチャードと共にスペイン海軍と戦うが、旧友ドン・ミゲルに捕虜とされる。ドン・ミゲルが息子を逃す代わりに父はリスボンで火炙りの刑に処される。
マイケルは父の死を知りスペインに対する復讐心を強く抱く。エリザベス一世はそんな彼を慰めるが、恋人シンシアと宮中でイチャつくところを見ると、嫉妬で怒り出す。財務大臣のバーレイ卿はそれを見ていて複雑な気持ちになる。
シンシアの懇願も聞かず、マイケルはエリザベス1世に懇願してスペインに侵入し諜報活動を行う。目的は祖国イングランドの裏切り者を割り出すことだ。
フェリペ国王に謁見することが叶うが、ドン・ミゲルの娘エレーナとも再会する。ドン・ミゲルはイングランドとの海戦で戦死したという。エレーナは旧友であるマイケルの秘密を語るつもりはなかったが、夫である宮廷長ドン・ペドロは妻を問い質し真実を知った。
その頃マイケルはフェリペ国王に会っていたが、裏切者の最後の一人を問われて言葉に詰まる。フェリペは最後の一名の氏名を教えた上でマイケルを捕らえて、ドン・ペドロに引き渡す。ところがペドロは妻の不名誉を口外されたくないために、マイケルに逃走経路を教えてしまう。
無敵艦隊がプリマス沖に集結していて、エリザベス女王もイングランド海軍の士気を揚げるためにティルベリーに向かった。そこに間に合ったマイケルは裏切り者の名を告発する。エリザベスはマイケルをナイトに任命し、マイケルを将として小船に松明を積んでガレー船中心の無敵艦隊に突っ込ませる。無敵艦隊の大部は戦わずして海の藻屑と消え、マイケルは爆発前に海中に飛び込んで無事帰還する。

雑感

英国が1937年に歴史上の有名なアルマダ海戦を取り上げて映画にするのは、当然にドイツなど枢軸国との開戦を予感してのものだ。当時のスペインはフランコ総統が共和制を打破して政権を握りつつあり、第二次世界大戦中は中立国を名乗っていたが、依然ドイツと強いパイプで繋がっていた。
1588年の英国はスペインに対して憎しみだけを抱いているわけではなかった。30年前までスペインのフェリペ2世はイングランドのメアリ女王と結婚しており、二人でイングランドの共同王を勤めていた。両国の人間の往復も多く、暖かなスペインの気候はイングランド人の憧れだった。そういう部分も丁寧に描かれている。いかにも英国が近い関係のドイツに対して戦争をしたくないのにしなければならないと訴えるようだ。
ちなみにイングランドがスペインに敵対し始めたのは、メアリ女王の後継者として根暗な異母妹エリザベスが王位に付いた時からである。

この映画は原作があり、おそらくインゴルビーのスパイ活動はフィクションだろう。脚本もかなり御都合主義な面がみられた。しかしエリザベス一世のティルベリーでの演説は有名な史実だ。

ローレンス・オリビエは始めから大スターだったわけでなく、アメリカの舞台で主演を張って祖国に逆輸入され、次第に映画界にも進出する。この映画でも無名貴族役だが、出番が最も多くて実質的に主演だ。

ビビアン・リーは美しかったが単なる恋人役で、フローラ・ロブソンやローレンス・オリビエと並ぶと、見栄えがしない。それでもラストシーン、女王のウェストミンスター寺院での演説の背後にローレンス・オリビエと二人でかなりフォーカスは甘くされたが、ちゃんと映り込んでいる。二人は初共演だが、映画の後、不倫関係に陥りオリビエは糟糠の妻と別れてビビアンと結婚する。

エリザベス女王を演じただけに俳優序列第一位になったフローラ・ロブソンの舞台の頃はよくわかってないが、ベテランになって突然銀幕に現れた人だったようだ。その後も映画「シー・ホーク」で再び印象に残るエリザベス女王を演じている。醜女であることが買われた人事だから、少し気の毒w。

ジェームズ・メイスンがスペインに味方する裏切り者の役でチョットだけ出演。

スタッフ

製作 エリッヒ・ポマー
原作 A・E・W・メーソン
脚色 クレメンス・ディーン 、 セルゲイ・ノルバンドフ
監督 ウィリアム・K・ハワード
撮影 ジェームズ・ウォン・ホウ
音楽 リチャード・アディンセル
音楽監督 ミューア・マシーソン

キャスト

マイケル・インゴルビー ローレンス・オリヴィエ
エリザベス一世 フローラ・ロブソン
スペイン王フェリペ二世 レイモンド・マッセイ
ライセスター伯 レスリー・バンクス
恋人シンシア ヴィヴィアン・リー
バーレイ財務大臣 モートン・セルテン
友人エレーナ  タマーラ・デスニ
父リチャード・インゴルビー リン・ハーディング
宮廷長ドン・ミゲル ロバート・ニュートン
バルデス提督 チャールズ・カーソン
裏切り者ベイン ジェームズ・メイスン

無敵艦隊 Fire over England 1937 英ロンドン・フィルム製作 ユナイテッド配給

投稿ナビゲーション