人間を歯車のように消耗してしまう学歴社会を風刺する作品。
漫画のような話を元に書いた和田夏十市川崑の共同脚本を市川崑が監督した。
主演は川口浩。相手役は小野道子(長谷川季子)。他に船越英二笠智衆杉村春子川崎敬三

あらすじ

昭和32年神武景気が終わろうとする頃、茂呂井民雄は東京の平和大学を成績優秀で卒業し、駱駝麦酒株式会社に就職する。
彼は、のちに言うモーレツ社員のようなものタイプだ。尼崎工場勤務のため東京を離れることになり、GFたちに後腐れのないように別れを告げる。岩手県一関で教師になるGF壱岐留奈にはバス停でキスして逆の方向に別れる。

尼崎工場でモーレツ振りを見せる民雄は、同僚の更利満から「健康が第一、怠けず休まず働かず」というサラリーマンの原則を教えられる。民雄はその頃から工場の音を聞くと歯が痛んだが、産業医は神経性のものだと言う。

ある日、小田原の父(市会議員)から母が発狂した!と知らせてきた。民雄は月二千円のバイト料で母の治療方法を研究する医学生を募集した。医学部の和紙破太郎が募集してきた。彼は民雄に面会した。彼を寮に泊めた夜、更利が急病で倒れる。実は裏で公認会計士試験を受けては落ち続けていたらしい。
和紙は東京への帰り道で民雄の父に会い、精神病院設立を市長に働きかけることを約束させる。それからも和紙は月々2000円の手当を民雄に送ってもらう。

休日に何もすることがなくて民雄は寂しくなり、GFに手紙を書いていた。そこへ鍋底景気で学校をクビになった留奈が訪ねて来た。生きるために結婚してと言う。生活に困窮している彼は断るしかなく、彼女は去っていった。

その後、民雄は歯の代わりに膝が痛み出して注射を打たれるが、一晩苦しんだ挙句、膝の痛みは治る。しかし白髪になってしまう。そこへ母がやって来て、狂ったのは私でなく父の方だと聞かされる。
平和大学付属病院へ見舞いに行った民雄は和紙にばったり会い、どう言うことかと彼を詰問する。和紙はこれが、ホップステップジャンプ理論だよと言って三段跳びを飛んでいる最中に走ってきたバスに接触して即死。民雄も電柱に頭を打つけて気を失う。

30日後、ようやく民雄の目がさめると平和病院のベッドの上だった。髪は黒くなっていたが、無断欠勤扱いで会社をクビになっていた。
職業安定所で彼は無学歴と偽って小学校の小使の職を得る。その職安で留奈と出会った彼は結婚を申込むが、既に彼女は小使と結婚していた。

やがて勤めていた小学校に民雄の学歴詐称がバレ、大卒を小遣いに雇えないと言われる。民雄は観念し、学校の裏の掘建て小屋に母と同居して学習塾を始めて、将来の大学卒を続々と生み出すことを目論む。

雑感

風刺漫画のような映画だ。アニメーター出身の市川崑だけのことはある。
民雄は結局、サラリーマン向きではなかった。優秀な成績なら、資格をとり将来独立できる仕事が良かったのに、安定を求めたばかりに彼は苦労することになった。
とはいえ、鍋底景気(1957−1958)の時期では、戦中から始まっていた厚生年金に憧れ安定を目指すのも仕方がない。その時点で個人事業者に年金はなかった。国民年金は1961年になってようやく始まる。親父も全く同時期に就職して、結局どこも長続きせず、独立してしまった。自分より成績が下なのに太鼓持ち気質の奴が、上場企業の社長になったと憤慨していた。

長谷川一夫の長女である小野道子は38期生入学席次1位の元タカラジェンヌであり、母は初代中村鴈治郎の娘だった。タカラジェンヌ時代から親会社の東宝映画に出演していたが、退団後父親のいる大映に移籍して主に脇役を演じる。現代劇だと母親似の目立たない顔付きで損をしているが、時代劇なら厚化粧に父親譲りの啖呵が炸裂するタイプである。60年代から映画から離れて舞台に主戦場を移した。1981年にNHKで先輩タカラジェンヌの明石照子とマンボのリズムで日本舞踊の「深川」(いわゆる深川マンボ)を踊っているのを見たが、完全に現役だった。今生まれていたら、土屋太鳳のようになって主役を張れたはずなのに惜しい。

なお、駱駝麦酒尼崎工場とは麒麟麦酒尼崎工場(1996年廃止)をモデルにしたのだろう。当時は朝日麦酒が関西向けに西宮工場を持っていて、サントリーが京都山崎に本社工場を持っていた。確かアサヒビールは社会人研修で見学に行って、一杯御馳走になった。映画はさすがにビール会社のことを悪く言っているので、尼崎工場でロケはしていないと思う。

スタッフ

製作 永田秀雅
企画 土井逸雄
脚本 和田夏十 、 市川崑
監督 市川崑
撮影 村井博
音楽 宅孝二
美術 下河原友雄

キャスト

茂呂井民雄  川口浩
民雄の父権六  笠智衆
民雄の母乙女  杉村春子
壱岐留奈  小野道子
和紙破太郎(やぶたろう)  川崎敬三
同僚更利満  船越英二
産業医山居直  潮万太郎
駱駝麦酒社長  山茶花究
総務部長 見明凡太朗
和紙の恩師・場場博士  伊東光一
平和大学総長  浜村純

満員電車 1957 大映製作・配給

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