ハリウッドの歌姫ディアナ・ダービン主演のロマンティック・コメディ。
二つのギター」を含むロシア歌謡メドレーや「トゥーランドット」からの「誰も寝てはならぬ」など名曲をダービンは歌っている。共演はフランチョット・トーンパット・オブライエン

監督は「第七天国」のフランク・ボーゼッジ、オリジナル脚本はサミュエル・ホフェンシュタインベティー・ラインハート
戦時中なので、白黒映画。

あらすじ

アンはニューヨークで成功した半兄マーティンを頼って、はるばる田舎から歌手になるために出て来た。ところが兄が成功したというのは大嘘で、冴えない執事としてブロードウェイの大スターであるチャールズ・ジェラードに仕えていた。アンは憧れの大スターに会えるとあって、家政婦セベリナを味方につけ、強引にジェラード家のメイドとして働かせてもらう。
すると近所の執事仲間がアンをパーティに誘う。年の離れた兄にとっては可愛い末妹なので、悪い虫がつくのが気が気でなく、主人ジェラードに「メイドはサボってばかりいるのでクビにしましょう」と提案して了承される。アンはガッカリするが、気を取り直して昨晩ジェラード家のパーティーに来ていたプロデューサーのカルブに売り込みに行く。そのときジェラードもカルブの元を訪れ、しばらくメイン州の恋人キャンベル嬢の別荘に長く滞在するので秋の公演をキャンセルしたいと言い出す。これにショックを受けたアンは「メイドでなく友人の忠告として聞いて欲しいの。あなたは素晴らしい作品をたくさん作ってきたのよ」と言い放って帰ってしまう。
兄はアンの落ち込み振りを見て、執事仲間のパーティーに連れて行く。そこで元気になったアンはロシア歌謡メドレーをロシア語で歌いこなして満場の喝采を浴びる。その直後、会場に着いたジェラードは踊りながら昼間アンに掛けられた言葉が心に響いたと言う。二人は夜の街をブラブラし、家に着いた頃には唇を重ねる仲になっていた。
兄はパーティから抜け出したアンを詰問し、ジェラードに心を奪われたことを知る。ジェラードに遊ばれているのでないかという兄の心配が始まり、翌日ジェラードの前で身持ちの悪い娘と執事仲間でも有名だと嘘を吐く。ジェラードは目の前で激しい言い合いをする兄妹を二人まとめてクビにしてしまう。

兄マーティンと和解したアンは、執事会のイベントで歌わせてもらう。マーティンがプロデューサーのカルブを連れてきて一緒にアンの歌を聴いてもらうことになった。そこにジェラードがやって来て、クビにしたのは間違いだったと二人に謝るつもりだったが、招待状がないため、入れて貰えない。そこに通りかかったのが家政婦のセベリナだったので、その身内ということで潜り込むことに成功する。
ちょうどその時、アンの素晴らしい歌唱「誰も寝てはならぬ」(トゥーランドット)が聴こえてくる。あの歌声はアンだったのか!歌い終わったアンはジェラードに走り寄り、ジェラードはアンを強く抱きしめるのだった。

主要な歌曲

“In the Spirit of the Moment” (作曲ウォルター・ジャーマン、作詞バーニー・グロスマン) 唄ディアナ・ダービン

“When You Are Away” 作詞ヘンリー・マーティン・ブロッサム、作曲ビクター・ハーバート、唄ディア
ナ・ダービン

ロシア歌謡メドレー」(“Yamschtscik”〜”Kalitka” 〜「二つのギター」) ロシア語による唄ディアナ・ダービンとコーラス

オペラ「トゥーランドット」のアリア「誰も寝てはならぬ」 作曲プッチーニ 英語による唄ディアナ・ダービン

雑感

初めの二曲は当時のポップスナンバーであまり面白くなかったが、やはりヨーロッパ調やクラシックの音楽がディアナ・ダービンに合っている。ロシア語歌謡メドレーで彼女が歌い出す瞬間に鳥肌が立った。
さらにプッチーニの遺作オペラ「トゥーランドット」からフィギュアスケートの曲目として最もよく使われるアリア「誰も寝てはならぬ」が良い。細かいことを言うと少し声量が足りないのだが、表情が良い。音程はもちろんしっかりしている。

ジュディ・ガーランドとMGM次世代スターの座を争って敗れたディアナ・ダービンは1937年ユニバーサル映画「オーケストラの少女」で日本を含めた世界中に大ブームを起こした。それから6年経って21歳の時に制作されたのが「春の序曲」(全米公開は1944年)である。すでに一度離婚を経験して、色気が出て来てからの作品だから、一味も二味も違う。日本では終戦翌年(1946年)の正月映画としてヒットした。9年前に可愛い女の子だったのに、もう色気が出てきて観客も驚いたことだろう。日本人はマーティンと同じような兄の嫉妬を感じたに違いない。

この後、1946年から1947年までハリウッド高給取りの一位の座を争うほどになったが、次第に大人の役を演じるようになって歌が少なくなると人気が頭打ちになり、ユニバーサルとギャラで揉めて、あと三作映画作って契約解除する約束で和解する。1950年にフランスで三度目の結婚をしてしまい結局三つ映画を作る約束も反故にする。三作の中には、あの「マイ・フェア・レディ」があったという話だ。

そしてダービンはハリウッドを引退し、フランスに移住し夫婦で農園に暮らす。その後も50年代前半はイギリスの舞台に出演していたが、やがて表舞台から完全に消えて、プライベートな生活はマスコミには見せなかった。2013年没(享年91差)。

スタッフ

監督 フランク・ボーゼージ 「第七天国」
製作 フェリックス・ジャクソン
オリジナル脚本 サミュエル・ホフェンシュタイン 、 ベティー・ラインハート
撮影 ウディ・ブレデル
音楽 ハンス J. ソルター

キャスト

歌手志望アン・カーター:ディアナ・ダービン
ブロードウェイの大スター、チャールズ・ジェラード:フランチョット・トーン
執事マーティン・マーフィー: パット・オブライエン
執事ポポフ: アキム・タミロフ
執事バズ: アラン・モーブレイ
製作者カルブ: ウォルター・カトレット
家政婦セベリナ: エルザ・ジャンセン
富豪エリザベス・キャンベル嬢: イブリン・アンカース

春の序曲 His Butler’s Sister 1943 ユニバーサル製作・配給 セントラル映画社国内配給 21歳のディアナ・ダービン主演

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