二度サイレント映画化されたことのある聖書劇「サロメ」の三度目にして初のトーキー作品。

リタ・ヘイワースのプロダクションであるベッグワース・プロ作品で、新約聖書やオスカー・ワイルドの戯曲を元にして、バディ・アドラーが製作し、ハリー・クライナージエッシ・L・ラスキイ・ジュニアが共同原案を書き、ハリー・クライナーが脚色した作品をウィエアム・ディターレが監督した。

主演はリタ・ヘイワース。共演は英国の名優スチュワート・グレンジャーと、チャールズ・ロートン。さらにジュディス・アンダースンサー・セドリック・ハードウィックらが助演している。
テクニカラー作品。

あらすじ

紀元前1世紀、シーザー(カエサル)がローマを支配していた。

ガリラヤ王国(イスラエル北部地方)は、スケベなヘロデ王が治めていたが、王妃ヘロディアスとの仲は冷め切っていて、二人とも愛人を囲っていた。ヘロデ王が異民族出身のため預言者ヨハネが王家を攻撃し、救世主の出現が近いことを辻説法していた。その聴衆は膨らみ始め、無視できない新興宗教と考えられていた。

ヘロディアスは王弟の妻だったが、王妃の座に目がくらんだためヘロデに乗り換えた女だったので、ヨハネの攻撃は最も激しかった。彼女は、ヘロデに彼を殺すように願い出たが、王は過去の預言と民衆の反逆を恐れ、受け入れなかった。

3歳の時からローマに送られた、ヘロディアスと王弟の娘サロメが品行不公正のため、シーザーの怒りを買い追放された。ガラリヤに帰国する船上で、彼女はエルサレム総督ピラトとガラリヤ駐留ローマ軍の司令官クローディアスと同行した。クローディアスはサロメの美しさに一目惚れをした。

ガリラヤに着いたサロメは、義理の父ヘロデ王と久しぶりと面会する。王は、美しく成長した義理の娘に色目を使い始める。
サロメは、興味からヨハネに会いに行くが、ヨハネが母を攻撃するのを聞き、怒って帰ってしまう。

しかし母が王の前で踊ってヨハネの処刑を嘆願してほしいと頼んだとき、サロメはがっくりする。王の前で踊ることは、王の夜伽をすることを意味するからだ。

サロメは、クローディアスにヨハネを殺してほしいと頼む。しかし、クローディアスにとってヨハネは親友であり、それはできない願いだった。王妃がヨハネに刺客を指し向けたが、クローディアスが危機一髪のところでヨハネを守る。
この騒ぎを聞きつけ、ヘロデ王はヨハネを投獄した。それは、ヨハネによる民衆の反乱を防ぐためで、ヨハネを処刑する気はなかったのだが・・・。

雑感

新約聖書の福音書とオスカー・ワイルドの戯曲を元にしているが、例えば「マタイ福音書」だと、ヨハネを処刑して首をくれと頼んだのはサロメであり、サロメがそれを母に手渡したことになっている。
しかし映画の結末は全く違う。
リタ・ヘイワースが生首をもらって喜ぶ様を描くわけには行かないこともあるが、現実としてもあり得る話だと思う。
ヨハネに糾弾されていたのは、へロディアスであり、殺人の動機は彼女にしかない。サロメは、踊って夜伽をするつもりだったかも知れないが、それならば金銀財宝を求めるだろう。
聖書のサロメの話は悪意があると思っていたが、こういう映画の解釈の方がすっと入ってくる。

リタ・ヘイワースは、アガ・カーン三世(インド・イスラム教の指導者で競馬の馬主として有名)の息子アリ・カーンと三度目の結婚をして、芸能界から離れていたが、結局離婚して、復帰に選んだのがこの作品である。彼女は、若い頃からダンサーであり、三度目の結婚で中近東のエキゾチックな雰囲気の中で生活していたのだから、ぴったりの復帰作だった。

スチュアート・グレンジャーは、思ったよりマッチョな二枚目だ。若い頃は、史劇の出演が多かった。本名をジェームズ・スチュアートという。流石にその名を付けるのは、問題なので、母方の苗字を使って、芸名をとした。

 

スタッフ

製作  バディ・アドラー
監督  ウィリアム・ディターレ
脚色  ハリー・クライナー
原作  ジェシー・L・ラスキー・ジュニア、ハリー・クライナー
撮影  チャールズ・ラング
作曲  ジョージ・ダニング
音楽監督  モリス・W・ストロフ

キャスト

王女サロメ  リタ・ヘイワース
クラウディウス司令官  スチュワート・グレンジャー
ヘロデ王  チャールズ・ロートン
ヘロディアス王妃  ジュディス・アンダーソン
ティベリウス・シーザー  サー・セドリック・ハードウィック
預言者ヨハネ  アラン・バデル
ピラト総督  ベイジル・シドニー
賢者エズラ  モーリス・シュワルツ
マルセルス・ファビウス  レックス・リーズン
ミカ  アーノルド・モス

 

***

ヨハネの処遇についてピラトと争い、袂を分かったクローディアスは、救世主と言われるイエスが奇跡を起こすのを見る。中でもラザロを生き返らせたのを目の当たりにしたクローディアスは、ついにイエスの教えに従う。
ガリラヤ城でヘロデ王の誕生祝いが開かれている最中に、クローディア氏はサロメと牢獄のヨハネを訪れた。そこでクローディアスは、イエスについて語り、ここに向かっていることを告げる。ヨハネは、自分が洗礼したイエスが救世主だったことを喜んだが、イエスを反逆者にしたくなかったので、牢から出る気はなかった。そこに至ってサロメも自分の誤りに気付く。

ヨハネの除名嘆願のためサロメは、ヘロデ王の前で七枚ヴェールの踊りを踊った。王はサロメが欲しくてたまらない。しかしヘロディアス王妃は、娘を抱きたければ、ヨハネを処刑にしてくれとを頼んでいた。牢獄ではクローディアスと王の傭兵が戦っていたが、ヘロディアスの愛人ミカは死刑執行人を連れて来てヨハネの首を切り落としてしまった。
サロメの踊りが終わったとき、死刑執行人がヨハネの生首を持って来た。青ざめるヘロデ王の前にクローディアスが現れ、民衆の怒りを知れと、王と王妃を脅かす。ヘロデ王は恐れ慄いて、賢者エズラの助けを求めるが、ヘロディアスはヨハネさえいなくなれば怖いものはないとほくそ笑む。

数日後、庶民の姿をしてイエスの説教を聞く、サロメとクローディアスの姿があった。

情炎の女サロメ Salome (1953) ベックワース・プロ製作 コロンビア配給 リタ・ヘイワース復帰作

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