題名に使われる(秘)は、機種依存文字だが㊙︎(⚪︎の中に秘の字を書く)と書く。「大奥㊙︎物語」「続大奥㊙︎物語」に続く(秘)シリーズ第三弾として上映された。藤純子が、映画出演55作目で初主演した作品でもある。
戦前に京都の山寺に住む美しい尼の数奇な運命を描いた女性映画である。
プロデューサー岡田茂(次期社長)が、テレビドラマ脚本家である西沢裕子を起用し、監督には中島貞夫を充てた。
主演は藤純子(現・富司純子)で、津川雅彦、若山富三郎、三田佳子、大原麗子、悠木千帆(樹木希林)その他豪華共演陣を迎えている。

あらすじ

琳光寺には門跡尼の万里小路秀英をはじめ、恵照尼、浄真尼、法順尼と下女はなの五人が住んでいた。秀英は本寺の宗務総長覚全に、白蟻にやられた本堂の修理を頼んだ。しかし、覚全はなかなか支払いを引き受けなかった。執事である浄真尼が、お願いすると、料亭に呼ばれ、覚全に犯された。処女だった浄真尼は、それ以来体が火照ってくるのだった。
覚全は、琳光寺にキクという若い男を修繕係の寺男として寄越した。彼の若さに、はなは体を投げ出し、二人は心の渇きを潤した。浄真尼は、はなのキクの関係に気付き、はなに嫉妬を感じた。

浄真尼は、覚全にたびたび呼び出されて犯されていた。秀英は仕方なく寺院の秘宝を開帳することにより、後援者の寄付金に頼って本堂修復費用を工面することにした。ところが、キクと浄真尼の仲を疑ったはなが、寄付をしてくれた長尾家の家宝を壊した。秀英は、せっかくかき集めた修復費用の金を全てお詫びとして長尾に差し出した・・・。

 

雑感

前回作、前々回作の「(正・続)大奥(秘)物語」と違い、全く性愛路線ではなかった。大原麗子と藤純子それぞれの濡れ場は少しあったが、前作と前々作ほどのそれではなかったため、映画自体はヒットしなかった。
それでも、映画は大映文芸作品のような気品の高ささえ感じさせた。藤純子も、昔の東宝・原節子のような気高さを感じたのだ。

しかし、藤純子は50作目の初主演でこの有様だったから、俊藤プロデューサーの娘だからと言って、女性エロ路線に舵を切り出した東映には不要の人材と見做され始めた。
ところが、任侠路線に戻って次回作「緋牡丹博徒」が当たってしまい、押しも押されぬ大スターになってしまう。

はっきり言って、後発の大映「女賭博師お銀」シリーズや、のちの東映「女囚さそり」シリーズとは全く違っていた。藤純子の持つ唯一無二の魅力に、おじさん達はアイドルの成長を見守るような目で見守っていたのだ。

スタッフ

企画  岡田茂、翁長孝雄、三村敬三
脚本  西沢裕子
監督  中島貞夫
撮影  赤塚滋
音楽  鏑木創

 

キャスト

浄真尼  藤純子(富司純子)
寺男キク  津川雅彦
下女はな  大原麗子
恵照尼  荒木雅子
法順尼  樹木希林
覚全  若山富三郎
長屋大造  曽我廼家明蝶
長屋瞭子  ミヤコ蝶々
長屋京子  桑原幸子
喜代  丹阿弥谷津子
はなの母 沢村貞子
相模屋  芦屋雁之助
河内屋履物店主人  南都雄二
川喜多鶴蔭  石山健二郎
万里小路秀英尊  三田佳子

***

浄真尼は、この機会に覚全を殺す決意を固めていた。しかし覚全と浄真尼は行き違いになり、浄真尼の意を汲んだキクが覚全を境内脇で殺してしまった。秀英は、それを見つけたが、キクとはなに無縁仏として埋めさせた。
覚全は、役職を利用した使い込みがばれて、宗門から追放の憂き目に会っていたため、それを苦にしてどこかで自殺したのだろうと考えられた。
浄真尼は寺を去って行った。彼女は、すでに覚全の子を孕んでいた。

尼寺(秘)物語 1968 東映京都製作 東映配給 藤純子初主演作

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