「青い山脈」を書いた石坂洋次郎原作「何処へ」(1939)。いつものように学園ものだった。
映画化は1964年に一度、高橋秀樹と十朱幸代、松原智恵子の組み合わせで日活が映画化した。
第1作に原作者が不満を持ったか知らないが、そのわずか二年後(1966)に東宝が加山雄三主演で再映画化した。相手役は星由里子沢井桂子原恵子稲野和子ハーレム状態になるはずが…。
東北大学卒業のエリートである伊能琢磨(加山雄三)は、静岡の学校で暴力を振るってしまい、新幹線が通りながら駅前に何もない岐阜羽島駅の近くの中学に流されて来た。早速出会った女性は芸者の新太郎(星由里子)とその先輩才太郎(池内淳子)だった。二人の家で昼を馳走になった伊能は、下宿先の井上家を訪ねる。そこには出戻り娘の三保子(稲野和子)がいたが、伊能に色目を使ってくる。勤務先の学校へ行くと、肝っ玉の小さい校長(東野英治郎)、腹黒そうな教頭(山茶花究)、スパルタ教師の野口(渥美清)、坂本(久保明)ら様々な人間がいる中、パチンコの嫌いなインテリ教師の山中(原恵子)と出会う。しかし彼のハートを掴んだのは、いたずらっ子金助(二瓶康一=のちの火野正平)の姉・艶子(沢井桂子)だった。伊能はモテモテな気分になった。
一方、金助は次から次へと学校で騒動を起こす。伊能が艶子と歩いてる姿を見た新太郎が頭に来て、翌日金助に二人乗りの無免許運転をさせた。野口先生は金助を怒るが、その最中野口先生の奥さんが男の子を産んだという知らせが届き、金助は放免される。
ある日艶子が弟のお詫びに下宿に訪ねて来たが、女が人を好きになることをどう思うかと意味深なことを尋ねる。すっかり艶子は自分に気があると思い、今度は金助の家に家庭訪問に行くと、姉艶子はおらず、金助に尋ねると知り合いへ嫁ぐことになったと言う。さらに下宿のおばさんから娘・三保子も婿を取るから出て行ってくれと言われる。自棄になって街を散歩していると、坂本先生と出会う。どうやら山中先生を探しているらしい。少し探りを入れると満更でもないらしい。噂をすれば山中先生が通りがかる。これからパチンコを打ちますので、伊能はどうぞお二人でと送り出す。
艶子の結婚式の後、車がパンクして困っている新太郎に出会う。田舎に疎外感を感じている二人は意気投合し、道の真ん中でロックンロールを踊り狂うのだった。
持ち前の明るさで周囲を感化していくが、所詮は余所者であり、芸者の新太郎とも結ばれることなく、伊能は次は何処へ行こうかと悩んでいるというお話。
おそらく原作者は夏目漱石の「坊っちゃん」を意識したと思われる。前半は「坊ちゃん」のように面白くなりそうだった。ところが紛争を才太郎、その情夫である町の有力者とともに収めた後半に、主人公は現代人の持つ孤独感に襲われ、より出会いの多い、スケールの大きな都会の生活を求める。
おそらく原作の設定(東北)は第1作の日活版が近かったはずだ。しかし戦前の作品を現代に翻案すると何かと無理がある。その結果、やはり中途半端な作品になってしまった。
けれども翌年(1967)に映画「続・何処へ」を加山雄三、九重祐美子主演で制作している。何度も石坂洋次郎先生が許可を出しているところを見ると、東宝版をお気に入りだったのか。
見所は、数少ない沢井桂子の代表作という点だが、残念ながら主人公に気が多すぎて正ヒロインとは言えない。
それより星由里子のはっちゃけた芸者の演技が目を引いた。登場シーンは少ないが、和服を着こなしての日本舞踊のシーンもロックンロールのシーンもある。
池内淳子は日曜東芝劇場の「女と味噌汁」のような姉さん芸者の役だった。それが見事にハマっているのだ。一方、妹芸者として長山藍子と比べると星由里子は役不足の感がある。
東野英治郎の小人物ぶりが面白かった。何しろ我々にとっては黄門様だから。
渥美清と加山雄三の組み合わせも非常に珍しい。
それから最大の収穫は火野正平(当時は二瓶康一)の発見だ。声は今と自分違うが、将来悪になりそうな顔をしていた。渥美清扮する野口先生もそういう危惧を抱いたからこそ、マークしていたのではないかw。
監督佐伯幸三
脚色井手俊郎
原作石坂洋次郎
製作藤本真澄 金子正且
撮影村井博
配役
加山雄三(伊能琢磨)
星由里子(芸妓新太郎)
池内淳子(芸妓才太郎)
沢井桂子(玉田艶子)
原恵子 (山中圭子)
稲野和子 (井上三保子)
渥美清 (野口長太郎) 加山雄三の共演は珍しい。
東野英治郎 (清水校長) お茶目な側面が良く出ている。
山茶花究 (教頭)
久保明 (坂本先生)
二瓶康一 (玉田金助) のちの火野正平
田崎潤 (花山会長)
何処へ (1966) 東宝 星由里子追悼特集第2弾

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