山田洋次監督の監督デビュー作品。同期のヌーベルバーグ組(大島渚ら)が1959年からデビューして次々と退社独立する中で、ようやく野村芳太郎組の脚本家だった山田洋次に監督の順番が回ってきた。

原作は多岐川恭のミステリ小説。しかし山田洋次が撮りやすいように野村芳太郎がホームドラマ風に脚色した。

映画はシスターピクチャー(SP)と言われる1時間足らずの中編である。
配役はメインを小坂一也葵京子。小坂一也は徐々に演技派にシフトを始めた時期だ。一方の葵京子は松竹京都撮影所の大部屋組から会社に抜擢されたシンデレラガールだった。当時活躍した泉京子(和製シルバーナ・マンガーノ、「お早よう」)と名前が似ていたが、外見は全く違った。葵はスターとしては平凡な外見だったため、この後見たのは同じ山田監督の「下町の太陽」の脇役ぐらい。

 

正巳と明子は新婚で、ローンを組んで京急線沿いに二階建ての一軒家を建てる。二階は子供が生まれて大きくなるまでは、賄い付きで人に貸して家賃を稼ぎローン返済のたしにする算段だ。最初の間借り人は小泉夫妻(平尾昌晃関千恵子)。亭主は無職で妻が水商売をしているようだが、ここ数ヶ月にわたって家賃を入れてくれず、払え払えぬの押し問答だ。そこへ母(高橋とよ)まで嫁と喧嘩して上京し家中大混乱になる。
ようやくどちらも何とか追い出した。次に間借りしたのは評論家を名乗るナイスミドル(永井達郎)とまだ若い奥さん(瞳麗子)の来島夫妻だ。こちらは裕福そうで風呂の取付費用20万円まで貸してくれる。ところが週刊誌に二人の写真が掲載されていた。どうやら横領犯の逃避行らしい。その日から家主は眠れぬ夜を過ごすことになる。

 

この映画の評判は芳しくなく、山田監督の次回作は一年おいて「下町の太陽」(1963)まで待たなければならなかった。彼は人情豊かな下町や離島と比べて、新興住宅街を舞台にした作品は苦手のようだ。

 

下宿付き一戸建てを舞台にして下宿人が騒動を起こす映画は松竹に多かったと思う。多分、東京から大船撮影所(鎌倉)に至る沿線沿いに当時、新築の下宿付き一戸建てが多かったからだろう。
室内でのカット割りは今のテレビ撮影のままだった。
しかし1961年にまだテレビのホームドラマはそれほど盛んでは無かったはずで、山田監督の映画の方がオリジナルかも知れない。

 

当時は、残業が少なく夕方定時に決まった電車でサラリーマンが住宅街に帰ってくる様子は懐かしかった。1960年頃は雨が午後から降ったら奥さんや子供が傘を持って駅まで夫や父を出迎えに出ていた。

 

 

監督 山田洋次
脚色 野村芳太郎 、 山田洋次
原作 多岐川恭
製作 今泉周男
撮影 森田俊保
音楽 池田正義

配役
小坂一也
葵京子
高橋とよ
穂積隆信
平尾昌晃
関千恵子
永井達郎
瞳麗子
須賀不二男

 

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二階の他人 1961 松竹大船

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