原題 Кин-дза-дза! 

ソ連はよく傑作映画を作っていた。しかし西側に属していた我々の元にその情報はなかなか届かなかった。
この作品を私が知ったのは、冷戦も終了して20年ぐらい経ったある日、テレビ・ロシア語講座でソ連時代の文化として簡単に紹介されたときだった。テレビバラエティ「オレたちひょうきん族」が放送されている時代に、ソ連でも同じような笑いを追求していたとしか思わなかった。しかし彼らの笑いは日本流のお笑いではなく、民族差別に対する風刺だったことをその後知る。

あらすじは重要ではないので箇条書きで表す。
マシコフは買い物を妻に頼まれ町に行くと、ゲデバンという学生に裸足の自称宇宙人が寒そうにしていると相談される。マシコフはその話を信用せず、自称宇宙人が持っている装置を触ってしまう。するとゲデバンと二人はどこかの砂漠に放り出される。
・マシコフらが呆然としていると、釣鐘状の飛行物体が飛んで来る。中から二人の男が出て来て、がに股で両手を開く変な格好で挨拶をする。彼らはクーとかキューしか言わないのでロシア語が通じないようだ。しかしボディランゲージは通じたので、マッチ棒を与えることで飛行機に乗せてもらう。
・乗り込むとツァークと呼ばれる鈴の付いた鼻輪を付けるよう強要される。
・二人の宇宙人は思考を読み取りロシア語を話し始める。マシコフらがやって来たのはキン・ザ・ザ星雲にある惑星プリュクと言う。彼らはチャトル人パッツ人で、チャトル人の方が身分は上。チャトル人もステテコの色で身分が分かれる。チャトル人であるかどうかは識別器のランプの色でわかる。チャトル人以外の劣等人種はツァークを付けなければならない。(そしてクーというのは相づちで、キューというのはブーイングである)

・プリュクはリンが不足しているのでマッチ棒(これをカツェと呼ぶ)は貴重なのだ。地球へ戻るために加速器が必要で、彼らはそれを買うためにマッチ棒をもっとよこせと言う。
・途中で商人と出会いマシコフが直接交渉するが、騙されてほとんどのマッチ棒を奪われる。そしてはじめはゲデバンが入っているトイレごと切り離される。そしてエティロップ(警官)がやって来てもマシコフの態度が悪いので、飛行機から降ろされてしまう。
・途中で変な女の乗る自動車にマシコフらはしばらく乗せてもらう。別れた後、観覧車の下で先ほどのチャトル人とパッツ人に再会する。彼らは人々に芸を見せるが下手で見向きもされない。そこで代わりにマシコフとゲデバンがバイオリンを弾いてソ連のCMソングを歌ってお捻りを頂戴する。チャトル人らは気を良くして、再び飛行機に乗せてくれる。
・しかし飛行機はガス欠で止まってしまう。そこで手で押して地下にあると言う都心を目指す。
・都心で地球の座標を確認することができて、妻に電話をかけることもできた。しかしチャトルとパッツが自分たちだけで地球のお宝を独り占めしようとしたのでマシコフは警察に通報する。しかしチャトルとパッツは箱詰めの刑を申し渡されてしまい、後味の悪い思いをマシコフはする。
・地球で自称宇宙人と言っていた裸足の男が二人を探して現れる。彼らを地球に返すつもりだ。でもマシコフは二人を残していけないと言ってその場で別れる。
・二人は暴力的な方法でチャトルとパッツを助け出し、入手した加速器で次の星に向かう。ところがその星は暗くて何もない星。ここは地球で無いとマシコフが言うと、チャトルはアルファ星があるから地球に行けないという。
・そのアルファ星に行くと見た目は緑の楽園だったが、チャトルとパッツが地下で植物にされてしまう。神様みたいな人は争いの無い植物の方が良いというが、マシコフは二人に義理を感じていて救いたい。神様に地球へまっすぐ帰るか、リセットして都心から始めるか究極の選択をマシコフに選ばせる。しかしマシコフの腹は決まっていた・・・

監督やゲデバン役の俳優はグルジア人(現ジョージア人) である。ロシア人とグルジア人の間にはソ連時代、根深い人種差別があった。
劇中のチャトル人やパッツ人にも厳しい古典的差別がある。これはソ連社会の寓話的描写になっているが、ソ連末期でエンタメ行政が機能していなかったのか、グルジア人シェワルナゼが外相であるせいか検閲を通ってしまった。

日本の笑いも本来、差別的な部分そして反差別の部分両方ともある。しかしそれがテレビ芸になると毒の部分が削ぎ落ちてしまう。だから北野武はお笑いを捨てて、映画に表現を求めた。
一方、このダネリア監督は俳優にゆるい演技をさせるだけなのに、見ている人をくすくす笑わせる。さらに見終わった人は、他の人にクークーキューと言い出す。それを見て興味を持った人がまた見に行くという形で、1570万人もの観客を集めた。
しかしこの笑いに毒が混ざっていることは、知識人クラスならすぐ分かる。こうしてソ連体制の矛盾、崩壊の日が近いことを明らかにしたのだ。
そしてこの笑いは世界共通だ。どの国にも差別はあるのだから、当てはまる。

監督ゲオルギー・ダネリア
配役
スタニスラフ・リュブシン (マシコフ)
レヴァン・ガブリアゼ (ゲデバン)
エブゲーニ・レオノフ (チャトル人)
ユーリー・ヤコヴレフ (パッツ人)

不思議惑星キン・ザ・ザ 1986 モスフィルム/ソ連

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