「花のれん」で直木賞を受賞したばかりだった山崎豊子の次回作「ぼんち」を映画化した作品。
「ぼんち」とは船場商家の跡取りに対する呼称の一つだが、いくら遊んでも良いから結果的に一家の財産を多く増やした者を指し、言わば勝ち組を指している。一方「ぼんぼん」とは遊び過ぎて身代を食い潰したものである。

監督は市川崑、脚本は和田夏十、撮影は宮川一夫
主演は市川雷蔵で、市川崑とのコンビは「炎上」(原作三島由紀夫)に続き二作目である(結果的に三部作になっており三作目は島崎藤村原作の「破戒」)。
女性共演者はかなり豪華で、相手役は中村玉緒、草笛光子、若尾文子、越路吹雪、京マチ子さらに実母役で山田五十鈴

あらすじ

喜久治が息子二人と二番目の女房の七回忌を開いている最中に、喜久治が最近贔屓にしている落語家桂春団子が訪ねてきた。やがて57歳になった喜久治は問わず語りに自分の半生について話し始める。

四代続きそのうち三代は婿養子の代だった船場の足袋問屋河内屋の一人息子喜久治は高商を卒業後、部屋住身分をいいことに放蕩三昧。悪い虫がつく前に祖母きのにすすめられ、相場で儲けて成り上がった砂糖問屋の娘弘子を嫁に取った。きのの力は絶大で、喜久治の母親の勢以はいつも後から付いていくだけ。二人は老舗の特殊な風習を弘子に押し付けたが、新興商家出身の嫁には耐えられなかった。妊娠した弘子は実家へ帰り、長男久次郎を産んだ。しかし家風を無視されたと、きのは弘子を許さなかった。

昭和五年弘子と離婚させられた喜久治は、新町の花街に足を踏み入れる。お茶屋の仲居幾子は店の養女なので締り屋で、喜久治の心に残った。父の具合が悪くなったので、祖母と母が遊びまわっているのを良いことに、父の妾君香を病人の世話役として家に引き入れる。しかし父は喜び勇んだおかげで死期を早めてしまった。

喜久治は五代目河内屋を継いだ。襲名披露を料亭で開いたが、仲居頭のお福の手腕にきのと勢以は魅せられ、彼女の腹を借りて喜久治の「娘」を生まそうと企む。しかし喜久治は若い芸者ぽん太と馴染みになった。喜久治の二号となったぽん太は色街の慣習に従って本宅伺いに現われた。喜久治は幾子が店を辞めて芸者に出たのを知ると彼女も妾にした。ぽん太に男の子が生れた。きのは手切金五万円で母子共々別れるように命じた。

不景気になり、日中戦争が始まった。喜久治は道頓堀のカフェーで女給比佐子と懇ろになった。幾子が難産の末、すぐ死んでしまう。当時のしきたりで妾の葬式を旦那が出すことは許されない。喜久治はお福のはからいで料亭から幾子の葬式を見送る。男泣きに泣く喜久治を、お福は慰めた。彼女が石女だと聞いた喜久治は祖母の目論見が失敗したことを知り、喜んでお福を妾に取った。

日中戦争の泥沼にはまり、やがて日本は太平洋戦争へ突入する。空襲で船場は焼け野原になったが、河内屋蔵は残った。ぽん太、比佐子、お福が命辛々妾宅から逃げてきた。さらに祖母、母が船場の一大事と聞き、有馬温泉から飛んで帰ってきた。そこで喜久治は腹巻の金を出して等分し、河内長野の菩提寺に逃げてくれと言う。翌朝、店が燃えたショックで祖母は気が変になり川にはまって死ぬ。

終戦後、菩提寺を訪れた喜久治は、風呂場で仲良くしゃべりまくる三人のあけすけな裸体を見て、すっかり愛情が覚めてしまい会わずにそのまま帰る。

 

喜久治は働き者の女を戦後二番目の女房にもらうが、すぐ死んでしまう。昭和三十五年三月、五十七歳になった喜久治はいまだに足袋屋経営に対する夢を抱いている。だが、既に独立して運送屋を経営している次男の太郎はもう無理だと笑う。

喜久治が春団子を送って行った後、太郎は喜久治の少年期からいまだに嫁にもいかず喜久治に仕えているお時に「父さんのことを好きやったのと違うか」と尋ねる。

太郎の出勤後、お時は「だんさんはぼんぼん育ちでおましたけど、根性のしっかりした男はんでしたんや。船場にお生まれでなかったら、あないに優しいお心を持っておられんだら、立派なぼんちになれたお人やった」と独りごちた。

雑感

おおきに、はばかりさん」という言葉がこの映画を顧みるとき思い出される。感謝と皮肉を表すダブルニングの言葉である。船場の問屋街は、太閤秀吉が、京の町衆を強制転居させて大阪を堺に代わり商業の中心地にするために作った場所だ。町衆の子孫はこの言葉を愛用していた。もちろん、戦後は船場も道修町も様変わりしていまい、この言葉も死語になりつつある。この映画でその言葉を聞いたとき、懐かしく感じたものだ。

市川雷蔵は、いつもの切れる感じではなく、最初はいかにもボンボンで愚鈍な若者。それが女性経験を経るに従い徐々に成功に近づくが、戦争が彼の行く手を阻む。

山崎豊子市川崑の撮った「ぼんち」を気に入っていなかったようだ。市川雷蔵演ずる足袋問屋の跡取り喜久治がしみったれている、市川崑監督の喜久治だと評した。

女優陣では主演級は、草笛光子、越路吹雪という東宝系女優と雷蔵の顔合わせが新鮮。
脇役では毛利菊枝、倉田マユミの演技が鮮烈だった。

とくに倉田マユミは当時28歳だったが、船場商家の女中の半生を演じ切り、女優陣の中でも印象に残っている。大泉滉と離婚後、アメリカの外交官と結婚し渡米した。

 

スタッフ

監督 市川崑
製作 永田雅一
原作 山崎豊子
脚色 和田夏十 、 市川崑
企画 辻久一
撮影 宮川一夫
音楽 芥川也寸志
美術 西岡善信

キャスト

喜久治 市川雷蔵
ぽん太 若尾文子
弘子  中村玉緒
幾子  草笛光子
比佐子 越路吹雪
勢以  山田五十鈴
喜兵衛 船越英二
太郎  林成年
お時  倉田マユミ
きの  毛利菊枝
内田まき  北林谷栄
工場主土合 菅井一郎
高野市蔵  潮万太郎
春団子 二代目中村鴈治郎
お福  京マチ子
君香 橘公子
和助 嵐三右衛門

ぼんち 1960 大映京都製作 大映配給 市川崑×市川雷蔵の名作文学トリロジー第二弾

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