タイトルはもちろん「こうふく」と読む。

市川崑監督は金田一耕助シリーズを一旦終えて、1980年山口百恵引退映画「古都」を監督した後、この作品を撮っている。

原作はエド・マクベインの87分署シリーズ第14作「クレアが死んでいる」(1961)である。原作の選択は監督のアイデアだそうだ。

この作品では「金田一耕助」シリーズの絢爛豪華さと全く違って、地味なシルバーカラー(銀落とし)と言う撮影・現像テクニックを用いている。一般に回想シーンなどに使われるものだが、ここでは社会の闇を描くために使われている。市川崑監督ははじめモノクロで撮影したかったのだが、製作会社が許さなかったので、シルバーカラーを1960年映画「おとうと」以来21年ぶりに採用したらしい。

主演の子持ち刑事役は当時日本テレビ・ドラマ「熱中時代」で大人気だった水谷豊と、恋人を殺される刑事を演ずる永島敏行である。さらに谷啓が所轄署の相談相手であり上司である巡査部長を演じている。

 

あらすじ

 

銃の乱射事件が起きて三人が殺される。警察が捜査を進める内に三人の被害者が隠していた秘密が暴露されていく。

若い北刑事(永島敏行)は恋人の学生庭子からデートに一時間ほど遅れると電話を受けた。直後に本屋で銃の乱射事件が起こる。

被害者として大学教授雨宮、サラリーマン遠藤の他に、庭子(中原理恵)がいることが判明。北刑事は絶望の淵に突き落とされる。唯一生存者だった遠藤も村上刑事に「ウドーヤ」と言って病院で事切れた。

男やもめの村上(水谷豊)は、娘の信と息子の勉の面倒を見ている。とくに勉は反抗期だった。

リューマチを病んでいる車崎るい(市原悦子)のもとに庭子が通っていたことが分かった。村上が訪ねると、るいには吾一と知的障害者のみどり(川上麻衣子)の二人の子供かいるそうだが、その日みどりの姿はどこにもなかった。乱射事件の数日後、土手でみどりの遺体が発見された。みどりは数日前堕胎手術の後、外出したため、出血で死亡したことが分った。庭子は殺された当日、るいの懇願でみどりを産院から引き取る手はずになっていたが、殺されたので結果的にみどりを死なせることになったのだ。しかもみどりの子どもの父親は兄吾一だった。

その後、意外なところからあっさり犯人が分かる。遠藤の退職金から四百万円もの大金が前借りされていたのだ。遠藤は脱サラを目指してそば屋に400万円を出資するが、詐欺だと言うことに気付き返済を求めていた。そこでそば屋の主人(阿藤海)は乱射事件に似せて遠藤を殺したのだ。鳥取の山奥まで追い詰めて、村上刑事と北刑事はついに犯人を逮捕する。

 

雑感

 

この作品は犯人当ての要素はない。あくまで刑事や被害者の家庭の事情を描いている。最後は横溝正史的ド田舎ワールドに突入するが、野村芳太郎監督の「砂の器」と比べるとあまり意味はない。

中途半端なシルバーカラーよりモノクロ撮影で撮った方が良い、渋い映画だ。水谷豊が人気者であるがゆえにカラーは絶対条件だったのだろう。

80年代を迎えて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた繁栄の時代の影で、社会の暗い面を描いている。近親相姦を一部に描いたためにお蔵入りになっていたのだろうが、上映後28年経ってDVD化された。

いつも髪型で意表を突く水谷豊がここではパンチパーマでそり込みを入れている。原作の主役キャレラ刑事は愛妻家であり見た目はクールなタイプだが、映画では全く違って冴えない子持ちやもめだ。

もう一人の主役クリング刑事に対応するのが、永島敏行だ。恋人を失ってからの演技に当時の勢いを感じた。今ではあの演技は不可能だろう。

脇役は金田一耕助シリーズの市川崑組(草笛光子、三條美紀、市原悦子、浜村純ら)で手堅く固めている。

中原理恵は萩本欽一のバラエティ「欽ドン良い子悪い子普通の子」出演と同時期にこの作品に出演していた。役者として彼女はまだまだだったが、魅力的な美人だった。出番はわずかだったが、原作のクレアに対応する庭子役で鮮烈な印象を残した。

 

スタッフ

 

監督:市川崑
原作:エド・マクベイン「クレアが死んでいる」
脚本:日高真也、大藪郁子、市川崑
撮影:長谷川清
音楽:石川鷹彦、岡田徹
主題歌:「幸福(しあわせ)ロンリーハート」 歌:ロブバード
製作:後藤由多加、馬場和夫、黒井和男

 

 

 

配役

 

村上刑事 : 水谷豊
村上信(長女) : 永井英理
村上勉(長男) : 黒田留以
北刑事 : 永島敏行
中井庭子(恋人) : 中原理恵
中井長作(庭子の父) : 浜村純
舟津川良子(庭子の母) : 草笛光子
車崎るい : 市原悦子
車崎みどり(娘) : 川上麻衣子
そば屋 : 阿藤快
野呂刑事 : 谷啓

 

 

 

 

幸福 (市川崑 監督作品) 1981 フォーライフ+東宝/フジテレビ – 本来はモノクロで撮りたかった

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