松竹の野村芳太郎監督版「八つ墓村」から十九年を経て、東宝が「八つ墓村」の映画化に初挑戦した。東宝の金田一耕助と言えばもちろん市川崑監督だ。オープニング映像も懐かしいものだったが、脚本家は石坂浩二が金田一耕助を演じたシリーズの脚本に携わった日高真也ではなく大藪郁子が担当している。どちらかと言うとテレビドラマ向けのシナリオライターだ。
さらに金田一耕助役は石坂浩二ではなく、豊川悦司が演じている。森美也子役は浅野ゆう子で、主人公寺田辰也役は「男闘呼組」に所属していたジャニーズ事務所を解雇されたばかりの高橋和也
当時、角川書店の角川春樹が事件を起こして退陣し弟の角川源義が後継者となった頃だ。東宝映画が主になって制作している。

Synopsis:

昭和24年、寺田辰也は石鹸メーカーで働いていた。諏訪弁護士が辰也を探していると言うので伺うと、母方の祖父と名乗る丑松がいた。しかし会うや丑松は吐血して亡くなる。殺人らしい。
警察では森美也子という女性が引き取りに来る。生まれ故郷で兄弟たちが待っているというのだ。辰也は母に自分の出仕を教えてもらった事はなく、その母も子供の頃、病で亡くなったので、辰也は自分のルーツに興味があった。
早速電車を乗り継ぎ、最後は車で岡山県八つ墓村の田治見家に向かった。そこにで兄久弥、姉春代、それに双子の大伯母小竹、小梅と顔合わせをする。さらに濃茶の尼がやって来て「八つ墓明神の祟りがあるから村から出て行け」と辰也に迫る。八つ墓明神は田治見家の先祖が戦国時代に殺した落ち武者を祀っていた。
金田一耕助が諏訪弁護士の依頼を受けて村を訪れた翌日、久弥が毒殺される。さらに屋敷の地下から鍾乳洞への入口を見つけた辰也はそこでミイラ武者姿の父要蔵の遺体を発見する。辰也の母鶴子は要蔵に監禁され辰也を産むが、辰也に対するDVが酷くなったので脱走する。それを村民の所為と勘違いした要蔵は自分の妻を初めとして村民32人を一晩で殺してしまう。
久弥の葬儀の夜、同居している従兄里村慎太郎が濃茶の尼を訪問したのを辰也は見かける。翌日、濃茶の尼は殺されているのを発見される。行方不明の縁者久野医師磯川警部は指名手配するが、小梅が鍾乳洞で殺され、久野医師も毒殺されて発見される。
金田一は鶴子と亀井陽一郎という男が並んで写る写真を見つけて岡山へ調査に赴く。しかし小竹が殺され、春代も今際の際でで辰也に発見される。そして犯人の指を噛んだと言って事切れる。
辰也の出生の謎を解いた金田一は村に戻り、真犯人を指名する。

Impression:

この原作は冒険小説に分類されるべきものである。金田一耕助は映画の解説者のように最初と最後だけ出て来て御託を並べておけばよろしい。
松竹の野村監督版はその方向で脚本も書かれて演出もなされた。ただし里村兄妹をカットしたことが気に入らなかった。脚本家橋本忍が少し大胆になりすぎたと思う。
市川作品では里村兄妹が復活している。しかし落ち武者八人と26年前の連続32人殺し、さらに今回の事件の被害者8人合計48人を2時間余りで映像の上で死んでもらわねばならないから、一人一人の内面を掘り下げている暇がない。そのうえ、金田一耕助の推理にウェイトを置いたから、辰也と典子のロマンスは描けず、まったく見所のない作品だった。
これは、ひとつに脚本家の問題だ。日高真也が参加できなかったところで石坂シリーズの再現は無理だった。出来ないのであれば、石坂パターンをやめて、純粋な冒険物にすべきだったのだが、この作品の脚本家大藪郁子向きではない。
出演者にも問題があった。濃茶の尼役白石加代子と小竹・小梅の二役岸田今日子以外は配役が軽かった。人気俳優とアイドルの組み合わせは横溝正史に相応しくない。
エンディング・テーマで「青空に問いかけて」という小室等の歌が掛かる。70年代中頃の傑作テレビドラマ「俺たちの朝」の主題歌と同じ曲である。場違いに感じたが、風に任せて旅から旅への旅がらす、木枯し紋次郎のように金田一耕助が去っていく様を歌ったのだろうか。あるいは辰也と典子の未来を暖かく見守っているのだろうか。

Staff/Cast:

監督 市川崑
製作 村上光一 、 桃原用昇 、 堀内實三
製作総指揮 久板順一朗 、 大和正隆 、 橋本幸治
原作 横溝正史
脚本 大藪郁子 、 市川崑
撮影 五十畑幸勇
特殊視覚効果 小川利弘 、 大屋哲男 、 田中貴志 、 前田哲生
音楽 谷川賢作
音楽プロデューサー 岩瀬政雄
小室等
美術 櫻木晶
出演
豊川悦司 金田一耕助
浅野ゆう子 森美也子
高橋和也 寺田辰弥
宅麻伸 里村慎太郎
岸田今日子 田治見小竹、小梅
岸部一徳 田治見要蔵、久弥、庄左衛門
萬田久子 田治見春代
喜多嶋舞 里村典子
加藤武 等々力警部
白石加代子 濃茶の尼
神山繁 久野医師
吉田日出子 ひで
八つ墓村 (市川崑監督版) 1996 東宝+フジテレビ+角川 「ミステリー」としての八つ墓村

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